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第四十四話 庭先での対峙



 カズィの私刑が終わったあと。



 侯爵を縛り上げてからしばらく、外がにわかに騒がしくなった。

 それは、ノアが呼んでいた救援が到着したためのもの。



 クレイブにはあらかじめ報告を入れていたため、その準備がやっと整った――というよりは、大きな騒ぎが起こったので取り急ぎ駆け付けたというところだろう。

 それまでは、侯爵側に動きが悟られないよう準備を進め、直接交渉から襲撃まで、手段を用意していたはずだ。



 侯爵が誇る悪趣味の庭には、当然レイセフトだけでなく、クレイブの手勢、クレメリア家やそこに累する他の貴族の手勢まで集結していた。



 しかして、侯爵邸を出た場で待っていたのは、駆け付けたレイセフト家当主、ジョシュア・レイセフトとの対峙だった。

 ジョシュアの脇には妻であるセリーヌが控え、こちらに冷淡な視線を向けており、周囲は彼の手勢である分家の人間や部下などで多く固められていた。



 リーシャを引き連れて前に出ると、ジョシュアは開口一番。



「おお! リーシャ! 無事だったか!」


「父さま……」



 ジョシュアはリーシャの無事な姿を見て、安堵の表情を浮かべるが、それはすぐに一転。こちらをきつい表情で睨み付け、



「――貴様っ! とんでもないことをやらかしおって!」



 烈火のごとく顔を真っ赤にして、火を吹かんばかりの怒鳴り声を浴びせかけて来る。



「俺を責めるのは筋違いです。文句があるならそこで失神している侯爵に言ってください」



 冷めた様子で口にして、カズィに引っ張って来てもらった侯爵を指し示す。

 侯爵はそれこそ死ぬほど殴られまくったせいで、顔は腫れに腫れており、虫の息。



 ジョシュアは侯爵のかすれるような喘鳴に危機感を覚えたか。



「こ、侯爵閣下に対しなんてことを……」


「なんてことをって……まずするのが悪党の方の心配ですか。事情は聞いているはずですけどね」



 そう、ここにいるということは、クレイブからすでに話が来ているはずだ。

 事情に関しても、彼から聞かされているはず。

 にもかかわらず悪党の心配――つまりは貴族のお家同士の心配をする始末。



 当主として当然と言えば当然だが、相変わらず理不尽極まりない。



「ッ、貴様がなにかしたのではないのか!?」


「だから俺ではなくて侯爵が」


「ではなぜこのような大事になるのだ! 貴様がおかしなことさえしなければ――」


「……ああもう話しがわかんねぇなあんたはほんと! 頭おかしいんじゃねえのか!?」


「貴様ァ!!」


「……ッ!!」



 ジョシュアが怒号と共に、強力な圧力を浴びせてくる。

 魔法を使う軍家の当主の威圧だ。

 巨大な焼き(ごて)で上から押し潰されているような、熱い重圧。

 魔力量にものを言わせた、力技。

 わずかにでも気を抜けば、卒倒してしまいそうなほどである。

 だが、これに負けてはいけない。

 そう、自分はいつかこれを、真正面から打ち倒さなければならないのだから。



 すでにその一歩は、踏み出している。

 その途上であるここで、たとえ一歩でも引き下がるようなことがあれば、自分は今後もこの男の圧力に屈することになるだろう。

 魔力が少ないからと言って。

 年齢が低いからと言って。

 それらを言い訳にしてしまえば、今後もそんな言い訳して敗北に甘んじることになるだろうから。

 だから足が震え出そうとするのを気力で押さえつけ、心を奮い立たせる。



 侯爵や傭兵頭と対峙したときの何倍もきついことを自覚しつつ、視線に視線をぶつけにかかった。

 ジョシュアはそんな反抗的な態度や目付きが気に食わなかったのか。

 理不尽にも、拳が飛んでくる。

 そう感じ取った、そのときだ。



「――ジョシュア、そこまでだ」


「っ、伯爵閣下……」



 握り拳を作るジョシュアに声をかけたのは、シャーロットを脇に連れた初老の紳士だった。

 白髪交じりのグレイを帯びた黒髪。

 顔の凹凸がはっきりした彫りの深い顔。

 細身ながらも、白いジャケットには筋肉が浮き出ており、その鍛え具合が窺える。

 胸には、国軍で多くの功を成した証明である勲章が。

 それこそ目がちかちかするほど添えられていた。

 歳は見た目から、ジョシュアよりも一回り以上は上だろう。

 だが――強い。老年の境に足を突っ込んだうえ、特に武威や何かを発しているわけではないのにもかかわらず、あらゆるものが、いま自分が対峙しているジョシュアの数段上だとわかるほど。



 伯爵閣下――シャーロットを脇に連れていることからもわかる通り、彼女の父、東部軍家の筆頭であり国軍の将の一人、パース・クレメリアその人だろう。



 伯爵はジョシュアに対し、どこか厳しさを含んだ口調で苦言を呈する。



「詳しい事情も聞かずに、頭ごなしに子息を殴りつけようというのは同じ子を持つ親としては感心せぬな」


「ですが閣下。お言葉を返すようですが、これは我が家の問題でございます。我が家ではこういった場合しっかりとケジメを付けるのが――」


「ほう? では、この件に関わったのは、御家の人間のみと。我が家はこの件になんらかかわりがないと、そう言うのか?」


「そ、それは……」


「現に、私の娘もかどわかされている。その時点で、彼の者の処遇は御家だけの問題ではない。そうではないか?」



 伯爵の言葉に、ジョシュアは何も言えずに押し黙る。

 シャーロットが関わっている時点で、事態はレイセフト、クレメリア共に共有すべきものだというのが伯爵の言い分だ。ならば関わった者の処遇についても、口を挟む余地があるというのだろう。



 ……どちらかと言えば、伯爵家当主は庇ってくれているため、先ほどの言は正道を説いたというよりも、言葉を弄したように思えるが。



 一時ジョシュアを黙らせた伯爵は、今度はこちらに視線を落とす。



「アークス・レイセフトで間違いないか」


「はい伯爵閣下。お初にお目にかかります」



 すっと、シャーロットへしたように地面に膝を突いて礼を執る。

 一方伯爵は、厳格そうなまなざしをそのままに、しかし優しさを感じる声で、



「楽にして構わぬ」


「は」


「経緯の仔細はまだ把握しておらぬが、娘が世話になったようだ」


「いえ、ご息女をこのような事態に巻き込み、弁解のしようもございません」



 そう言うと、すかさずシャーロットが庇ってくれる。



「お父様。アークスくんは何も悪くありません。侯爵が私たちをかどわかし、彼はそれに勇気をもって助けに来てくれたのです」



 彼女に次いで、リーシャもジョシュアに訴えかける。



「父さま。捕まった原因は私にあります。責めるなら兄さまではなく、私を」


「り、リーシャ……」



 ジョシュアも大事な娘(リーシャ)に強く訴えかけられては、戸惑いもするか。

 そこに、伯爵が言葉をかける。



「ジョシュア、だそうだ。侯爵が悪事に及んだのならば、子息を責めるのは筋違いであろう」


「……閣下がよろしいのであれば」



 ジョシュアはそう言って引き下がる。

 当然その顔は、ひどく苦そうではあったのだが。

 ともあれ、伯爵もそう言ってくれるということは、それなりに情報を得てからここに来たのだろうと思われる。



 ではその情報源はいまどこにいるのかと考えていると、ふと、横合いから熱風が吹き付けて来るような感覚に襲われた。



 それはすぐ、肌が燃えているかのような強烈な灼熱感に変わる。

 侯爵邸には火をつけてもいないし、火事が起こったわけでもない。

 にもかかわらず、それに相当するような熱を感じたのは一体何ゆえなのか。

 答えを追ってその方向に目を向けると、赫赫と燃え上がる炎と見まがうほどの威風を従えた、クレイブ・アーベントの姿があった。



 国軍所属の魔導師を示す制服を肩に引っ掛けており、胸には伯爵に匹敵するほどの勲章の数々が輝く。袖はまくられ、裂傷と火傷だらけの腕を露出。口には大振りの葉巻を咥え、紫煙を吹いている。

 場には魔導師なども多くおり、いまだ怒号が飛び交う状況。

 そんな修羅場の中を、悠然と闊歩する姿は、まったく強者に相応しい。

 そしてそれは、ジョシュアの気迫を凌駕した伯爵家当主パース・クレメリアの武威さえ、これにはかなわないと思えるほど。



 ジョシュアやその手勢が視線を向けるが、対してクレイブが一睨みくれると、固唾を飲んだり、緊張で身体を硬直させたり、わずかにすくみ上ったような素振りを見せたりする。

 クレイブがその胸に抱いているのは、怒りなのか、それとも修羅場ゆえにただ臨戦態勢でいるだけなのか。



 そんな彼は、何故か無言のままこちらに近付いてくる。

 そして、



「このわんぱく坊主が。勝手に突っ走りやがって」



 ごつん。



「痛ってぇ!!」



 目の前に星が散る。

 クレイブに、重く堅い拳骨を振り落とされた。



「まったく、騒ぎを大きくするどころか滅茶苦茶に引っかき回しやがって、少しは待ってられねぇのかお前はよ」



 吐き出されたのは、呆れ混じりの言葉。

 しかし、援軍を待っていられない状況だったのは確かだ。



「お、伯父上、事情はお耳に入っているはずですが……」


「だからと言ってな、怒らずにいられるかって話だ。封印塔でもやらかしたって話が出て来てるぞ?」


「うぐ……」



 こんな状況で説教を始めようとしているクレイブに、ふとシャーロットが近付く。



「溶鉄の魔導師さま」


「これはクレメリアの姫君。ご無事で何よりです」


「侯爵は私たちを殺そうとしていました。猶予はある程度あったとは存じますが、わずかにでも掛け違えがあれば、おそらく命はなかったでしょう。すぐに救出に現れたアークスくんの判断は正しかったと思います」


「それは私もわかっていますが、こういったときにしっかり殴りつけてやるのも大人の役目ですので」


「そうなのですか。ではわたくしの早とちりでしたね」



 シャーロットはそう言って納得し、また伯爵のもとに戻る。



 クレイブはそれを見届けたあと、今度は伯爵に対し略式の礼を取った。



「閣下。この度は身内が多大なるご心配をおかけし、申し訳なく」


「うむ。しかし、此度は溶鉄殿から謝罪を貰うわけにはいかぬな。責任の在処を問う相手がこうしているのだ」


「は」



 いつもは、奔放を絵に描いたような伯父の態度が、いまはすこぶる改まっている。

 こんな礼儀正しい伯父を見るのは、初めてではないだろうか。



 二人は短く、そんなやり取りを交わすと、ふいに伯爵が視線をこちらに向けて来る。



「そこのアークスは、貴殿の弟子と聞いているが?」


「は。なかなか面白い弟子で、いつも驚かされております」


「確かに、面白いのだろうな。しかし、封印塔の脱出に、わずかな手勢で侯爵家の襲撃……この年でここまでのことができるとは、いささか教えが過度なのではないかね?」


「いえ、これでも年を考えて手加減しておりますので」


「え!? あれで手加減してるんですか!?」


「当たり前だろうが。なんだ、もっと増やして欲しいのか? ん?」



 喉元まで出かかった「ひぇっ」という言葉を呑み込む。

 毎日の走り込みに、容赦ない対人訓練、剣術、馬術、その他諸々。

 あれで手加減しているというのは、中々に戦慄ものだった。

 そんなやり取りを見ていた伯爵は、砕けたやり取りが面白かったのか、くすりとした笑みを見せた。



 他方ジョシュアは、どこかクレイブを警戒した様子で、



「……兄上」


「ジョッシュ、いま中を調べてる最中だ。ま、侯爵が罪に問われるのは間違いないだろうぜ? こんだけのことをしでかしたんだからな」


「これだけ大事になってお家には累なく済むとでも?」


「なに腑抜けたこと言ってやがる。そう済ませるのが俺たち親の仕事だろうが?」


「む……」


「いまこっちでも味方を募ってる最中だ。まあ侯爵の方もわんさか敵を作ってるからな。派閥争いの方は軽い手打ちで済むだろうよ」


「だが、下手を打てば戦争だ」



 それについては、伯爵も危惧していたか。



「ふむ。確かにそれが絶対にない、とは言い切れんな」



 伯爵が目を細めて顎をさする様を、シャーロットが不安そうな目で見つめる。



「お、お父様。今回のことはもともと侯爵の不正から始まったことでは……?」


「シャル。覚えておきなさい。貴族社会は、正論では片付かないのだ。どれだけ相手に非があろうともな」


「そんな……」



 シャーロットのまなざしに映る不安が、さらに増す。

 だが、それが事実だ。

 王国が完全な法治国家であればまだ話が変わるだろうが、王国は君主制。王家が法を敷いて、地方領主や独立君主を取りまとめているという形式をとっている。

 当然この制度下では王家が貴族の行動のすべてを制限できるわけではないため、貴族間の争いはままある。もちろん有事には王家が仲裁に入るし、王家の敷いた法に反した者がいれば、断罪は行われる。

 だが、それは王家に裁く意思があればの話。

 もし王家が利害を秤にかけ、公正な決裁を行わず、座視するという立場を取れば、当然決着は貴族間で争われる。

 政治的であったり。

 武力的であったり。



 ……アークスとしては、侯爵に言った通り、王家は侯爵を断罪する立場を取る、もしくは取らざるを得ない状況にあると見ている。それは握っている情報の量などから分析したものだが、それらを大人(クレイブ)たちとすべてを共有しているわけではないため、彼の憂慮は晴らされないというわけだ。



 そこでふと、訊いておかなければならないことがあったのを思い出す。

 その相手は、気絶している侯爵だ。



 様々な腹いせ混じりに、侯爵を蹴りつけた。



「がはっ!?」


「おい、ちょっと起きやがれ」



 すると、侯爵は意識を取り戻し……すぐに状況を理解したか、忌々しそうにこちらを睨みつける。



「貴様ぁ……よくもこの私に」



 侯爵の口から吐き出されるのは、当然のように恨み事。

 だが、彼の言葉は、それ以上続かなかった。

 それもそのはず。

 即座に、三方から圧力が浴びせられる。



 パースはもちろんのことクレイブに、先ほど侯爵の状態を見て憂慮を見せていたジョシュアまで。

 体面を気にする人間であっても、やはり娘が大事だったのだろう。張り付けた形相は娘を持つ男親の見せるそれだった。



 ともあれ、将軍とその副官、そして王国の最高戦力の一つが放つ武威だ。

 それが同時に三つ。

 常人であれば卒倒してもやむなしなそれを、いくら堂々たる侯爵とて耐えられる道理はない。

 引き絞られてかすれた悲鳴を上げ、顔は蒼くなり、だらだらと冷や汗を垂れ流す始末。



 すると、パースがひどく冷え切った声で、



「侯爵、貴殿には訊きたいことは山ほどあるが……まずは王家に釈明することだ」


「い、いくらクレメリア伯と言えど、このようなことをしてただで済むとでも」


「ほう? ではお相手をしてくれると? 無論こちらは東部の全勢力を動員させていただくが、ガストン侯の準備はよろしいか?」


「う、ぐ……」



 東部の全勢力。

 額面通り受け取るなら、単純に王国が動員できる軍事力の四分の一だ。

 もちろん辺境の守りや動員する貴族の賛同を得なければならないため、そのすべてを使えるわけではないだろうが、それでも脅しとしてこれ以上のものはない。



 それはそうと、こちらの話。



「侯爵、あんたにちょっと訊きたいことがある」


「わ、私が貴様の質問に素直に答えると思うか……」


「別に答えたくなきゃ答えなくてもいいさ。――それであんた、事の発端になったっていう証拠を盗んで行った奴のことはきちんと把握してるのか?」


「……? そやつならば、すでに捕まえてある」


「どこに?」


「……それは」



 侯爵は口ごもる。

 やはり、知らないのか。



「……あんたさ、実際のところ盗み出した奴のことは、自分の目で見てないんじゃないのか?」


「いや」


「そいつに関することは全部、報告だけで済ませてた」


「…………」


「……だろうな」



 やはり、概ね予想した通りらしい。

 すると、いまだどういうことかわかっていない侯爵が、訊ねの声を上げる。



「一体どういうことだ?」


「さてな」



 そう言って適当に返事をすると、クレイブが、



「もういいのか?」


「ええ。訊くべきことは聞けましたので」



 クレイブにそう答えると、伯爵がお家関連の話を取りまとめにかかる。



「先ほどの話に戻るが、子らに苦労をかけるわけにもいくまい。大人で対処できることは大人で対処すればよい」


「は」


「私はもとよりそのつもりです」



 ジョシュア、クレイブ共に伯爵の提案に同意する。



 やがて一段落着くと、ジョシュアはこちらに一睨みくれて、リーシャを引き剥がすように連れて行った。

 控えていた母セリーヌが、リーシャを大事そうに抱きしめる。



「っ……」



 それを見て、ふいに胸がずきりと痛んだ。

 情などすべて消え失せていたと思っていたが、まだ痛みを覚える感情が残っていたらしい。だが辛く当たられるよりも、優しさを見せつけられる方が痛むとは、なんとも皮肉なことである。



 しばらく胸の痛みに耐えていると、ふと、横にいたカズィが声をかけてきた。



「なんだ、妹以外には嫌われてんのか?」


「……ああ、すごくな」


「家族助けたのにこれじゃあ、お前もやるせねぇだろ?」


「…………そうだな」



 そう答えると、カズィも多少なりこちらの気持ちを慮ってくれているのか、それ以上は言葉を続けなかった。



 ともあれ、暗い気持ちでいる場合ではないと、頬を張って気持ちを入れ替える。



「――まあいい。それよりも、だ」


「なんだ一体?」


「ちょっと、これから行くところがあるんだけど、カズィも一緒に来るか?」


「あ? これから? どういうことだ?」



 すると、話を聞きつけたクレイブも話に加わって来る。



「なんだアークス。まだ何かあるのか?」


「はい」



 そこで折よく、席を外していたノアが現れた。

 ふっと、闇の中から溶け出すように現れる様は、男の国で言う忍者さながら。



「アークス様」


「戻ったか。で?」


「はい。おっしゃった通り、犯人は現場を見ていると」


「だろうな。特徴の方は? やっぱり?」


「先ほどリーシャさまに伺ったものと一致しました」


「やっぱり監察局の人間か?」


「そのようです」



 二人、そんな話を進めていると、カズィがノアに怪訝そうな視線を向ける。



「そういやお前、屋敷を出たあたりから急にいなくなってたな」


「はい。屋敷を出る際に、アークスさまからご命を受けましたので」



 すると、クレイブは顎に手を当てて、何かに勘付いたそぶりを見せる。



「さっきの侯爵への質問はそういうことか…………なるほどなるほど。だんだん筋書きが読めてきたぜ……」


「伯父上も来ますか?」


「いや、俺は侯爵の屋敷に戻る。監察局が絡んでいるなら、連中よりも重要なものを見つけてぶん取っとかなきゃならんからな。必要なモンはお前らで手に入れて来い」


「お願いします」


「たくっ、子供は大人に迷惑かけんのが当たり前だがな、お前の場合はかけ過ぎだぞ? 今度からは自重しろよな?」


「えっと……」



 そう、言い淀んでいると、クレイブはどこか呆れたようなため息を吐く。



「素直だな。そこは嘘でも『はい』って言って退けるふてぶてしさがないと、この先乗り越えていけないぜ?」


「えぇ……」



 伯父上は一体自分をどんな人間にしたいのか。

 だが、いまは戸惑っている場合ではない。



「で? ノア、そいつはどこに?」


「はい。こちらへ」



 ノアはそう言って、移動を促す。

 そう、この件の黒幕の元へと。





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