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第三十六話 封印塔を脱出せよ!

本日二話目です。



 ――貴族のガキに手を貸そうなどと思ったのは、なんてことはない、単にそんな気分になったからだ。



 自分にとって貴族は、家族を殺した憎いものだ。

 その子供がどうなろうと自分の知ったことではないし、だからこそ、貴族の子を攫うという仕事にも躊躇なく手を出せたのだ。



 己の考えは、その頃から変わっていないはずだ。

 だが、それでもこうやって動く気になったのは、切っ掛けがあったからだろう。

 あのガキが言った「助けたい」というあの言葉。

 あのとき発したあの声には、確かにそんな気持ちがあった。

 家族を助けたいという想いが。

 妹を助けたいという想いが。

 自分ができなかったことを成し遂げたいという想いが。

 確かそこにはあったのだから。



 だからほんの少しだけ、心の隅に追いやられていた良心が、騒ぎ立てたというだけだ。

 力を貸してやろうかと。

 助けになってやろうかと。

 そんな風に、己の心に言い訳をして。



 一時の情に絆されたというわけではない。

 罪滅ぼしというわけでもない。

 刑期は満了したのだ。犯した罪への償いは終えているし、そもそもそんな仕事はもうこりごりだ。

 理由が不明確なままなのにもかかわらず、こんなことをする気になったのは、やはり、己の一時の気の迷いなのだろう――




 貴族のガキ……アークス・レイセフトが、牢から出て行こうとする。

 ふわふわとした銀の後ろ髪を揺らしながら、赤い目をぱちぱちさせて、忙しなくちょろちょろと。その様は、その目の色もあいまって、子ウサギさながらといったところか。

 着ている服は貴族のお坊ちゃんのものだが、立ち振る舞いや仕草から透けるその背中には、どこか庶民的な雰囲気を感じさせる。



 喋り方の乱雑さなどは、それこそ庶民そのものとしか思えない。

 ふとした折に近所の子供と会話しているような気にさえさせられる。



 だからどことなく、話しかけやすいのか。



「おい、ちょっと待て」


「……? どうしたんだ?」


「持って行くものがある」



 そう言ってアークスを待たせ、ベッドの上にあった毛布代わりの布を取る。

 すると、アークスが怪訝そうに首を傾げた。



「それ、どうするんだ?」


「ま、いろいろな」



 答えは適当にしておいて、まず訊ねる。



「で? お前、ここの構造はきちんとわかってるのか?」


「いや、それが全然」



 と言って、失態を誤魔化すような笑いを見せるアークス。

 この少年の行き当たりばったりさにはため息を禁じ得ないが……ここには来たばかりなのだから、これが当たり前ということもある。



「……そうだろうな。道中見て来たと思うが、ここは三階ごとに衛兵の詰め所がある。常時詰めている数は五人から七人。その衛兵も、刻印武装で固めた奴らや、選抜された魔導師たちばっかりだ。一人二人なら相手にするのはなんてことはないだろうが、まとまってこられると手が付けられねえ」


「そうだよなぁ……」


「正面突破するなら、少なく見積もっても五十人前後を相手にしなきゃならねえな」



 ざっくりとした数だが、これが妥当な線だろう。

 すると、アークスは何を思ったのか、頬を引きつらせる。



「やばい……魔力がぜんぜん足りないぞ」


「魔法は何回くらい使える?」


「えっと、中規模の魔法を十回とか……そのうえ例の貴族の屋敷に突撃しなきゃなんないからできるだけ使用は控えたい、かな?」


「足りねえな。全然足りねえ。……というかお前、思ったより魔力が少なくないか? 魔法関係の軍家の子弟ってのは、アホみたいに魔力を持ってる印象があるんだが」


「…………俺は魔力がかなり少ないんだ。それで、廃嫡されて」



 アークスは肩を落として項垂れる。どうやら、なにか繊細な場所に触れてしまったらしい。アークスは暗い顔付きになってぶつぶつと言葉を垂れ流しているばかりか、「あのクソ親父許さねぇ」「レイセフト家ぶっ潰す」など、不穏な言葉まで吐き出し始める始末。



「お前の唯一……いや、女顔を含めると二つの欠点ってわけだ」


「悪かったな……」


「は。一つや二つ欠点がないと可愛げがねえ」



 そう言って首根っこをひっ掴んで目元まで持ち上げると、不服そうに顔を膨らませ、親猫に捕まえられた子猫のように手足を伸ばす。



「悪人面に言われたくない」


「ドスの利かない顔よりマシだろ?」



 そんな妙な言い合いをしつつ、アークスの状態と総合して、端的に事実を述べた。



「俺の魔力分も合わせても、倒せるのは半分強ってところだな」


「うーん、小火騒ぎを起こしてその隙にとかはどうだ?」


「貴族のガキのクセによくそんな外道なこと思いつくな。そんなのは火付け強盗の手口じゃねえか」


「あ、あはは……」



 アークスは、バツの悪さを隠す誤魔化し笑い。

 確かに悪くない手段だが、それはここでなければの話。



「火付けも常套手段だけどな、ここじゃあ無理だ。壁を見やがれ」


「これだな」



 コンコン。



「そうだ。わかってると思うが、ここは追加されたもの以外はすべて【魔導師たちの挽歌】の時代に造られたモンだ。壊せねえし、火をつけるなんてほぼ不可能だが――」



 そう言いかけて、アークスの顔を見る。

 「できるか?」と、そう訊ねるような視線を向けるが、さすがにそこまでは無理のようで、首を横に振った。

 なんでも。



「プラズマジェットとかを再現できればできるだろうけどまーさすがにムリだろ」



 らしい。



 ……状況的には手詰まりだが、しかしアークスは諦める気はないようで、



「まず、行けるところまで行ってみよう」


「行ってどうするんだよ? 考えなしだったら、ここにいるよりも状況が悪くなるぞ?」


「一応俺にも考えはある。まずは動いてここの構造を確認しないことにはどうにもならないんだ」


「ふん? まあ、それならいいか」



 だろう。やっていることは行き当たりばったりだが、まったく策を持っていないとは思わない。基本的に魔導師は、奥の手をひた隠しにするものだ。

 場に対応した魔法をいくつも作り、普段は見せず、いざというときに取っておく。

 それを、この少年がしていないはずもない。

 まず貴族の家に仕掛けようという時点で、制圧する手段は用意しているはずだ。



 ……いや、まて。



「……おい、ちなみに訊くが、衛兵の命を勘定に入れなかったら、簡単に出られんのか?」


「まあ、いい具合に閉鎖されてるからな。やる気になれば、毒ガスでも作り出す魔法を作れば――」


「あ? 何を作るって?」


「毒ガス……空気に溶け込む毒みたいなもんだよ。吸い込めば昏倒するのとかだ。火山とか鉱山に行くと気分悪くしてぶっ倒れる人間が出て来るだろ? ああいうのの強力なやつ」



 確かに、そう言った場所で人が倒れてそのままおっ()ぬという話は時折聞く。



「なんにせよ不可能じゃねえってことかよ、おっかねえガキだ」


「いや、やらないからな。絶対。いくらなんでもそれは残虐すぎる。見境なく大量虐殺とかそんな業背負いたくない」


「そうしときな」


「……まあ、必要に迫られなきゃだけどさ」



 なるほど。妹と他人を秤にかける覚悟はあるということだろう。

 なんだかんだ言っても軍家のガキということか。



 ……輝煌ガラスで照らされた通路は昼間のように明るく、壁がよく漂白されたように感じられる。

 牢を出て階段のある方へ向かうと、他の牢に囚われている罪人が騒ぎ始める。

 銘々「俺たちも出せ」「連れて行ってくれ」や、自分と同じように「どうせ出られないぞ」「衛兵にぶっ飛ばされて終わりだ」などと言葉が飛んでくる。



 それを尻目に走っていると、すぐに足音が聞こえて来る。

 自分たち以外に、収容された者が出歩くはずもない。

 当然、巡回の衛兵だろう。



「お客様第一弾だな」


「第何十弾まであるんだろうなぁ……」



 長い道のりを憂い始めるアークスと共に、まず通路の角に隠れる。

 そのまま息を殺して、衛兵とカチ会う時機を見計らい――



『――アルゴルの便利布。うさぎに女鹿、包むものはなんでもござれ。丸め込まれて閉じ込めて、たちまちのうちに静かになる』



 魔法文字(グリフアーツ)をまとって広がった布が、瞬時に衛兵の上半身の包み込み、締め付ける。



 ――【アルゴルの布鎮めの法】



 衛兵は布に包まれているため、声はくぐもって響かない。

 滅茶苦茶に暴れるも、呪文を帯びた布は剥がれない。



 やがて衛兵は気を失った。



「へぇ、変わった魔法だな?」


「お前が言うなお前が。……お前の魔法を見てからな、他のものを利用した魔法ってのにも興味が湧いてな」


「引用は精霊年代。農夫アルゴルの一週間。狩りの火曜日」


「……その通りだ」



 呪文を聞いただけで、どの書にある、どの節に書かれた文章を引用したのか正確に導き出す。

 恐るべきはその知識量か。魔法院の卒業生、ギルド試験に合格した者でも、こうはいくまい。知識だけなら、すでに熟練魔導師さながらと言っていいのではないか。



「つーかあんたそんなに器用な魔法作れるのに、なんで人攫いなんかやってたんだよ?」


「いろいろあんだよ。それに、人攫いなんて仕事が回って来たのはあれが初めてだ」


「あー、そう言えばあのときも初仕事がなんだとか言ってたな」


「そんなこと言ったか?」


「言ってた」


「よく覚えてんなお前」


「記憶力がよくてさ。あのとき三人で話した会話も全部言えるぞ」


「……ほんとかよ。どんな頭してんだお前」



 優秀さに気持ちは半ば食傷気味。苦味と辛みを感じてべろりと舌を出す。

 魔法の知識に理解力。飛び抜けた発想に加え、この記憶力ときた。

 これで魔力が化け物だったなら、英雄の再来としてもてはやされていたことだろう。

 天がそこまで才を与えなかったのは、どうしてなのかは知らないが。



「――おい! そこに誰かいるのか!?」



 場にとどまっていると、通路の先から他の衛兵の声が飛んでくる。

 さて次はどう切り抜けるか。

 そう考えていると、アークスが突然叫んだ。



「助けてくれ! 急に衛兵が倒れたんだ!」


「なに!?」



 近付いてくる足音。

 一方アークスは、失神した衛兵を見える場所まで引っ張り出して、助けるふりをし始める。



 駆け付けた衛兵は当然、判断に迷いを生んだ。

 状況が見えないまま。

 仲間を助ければいいのか。

 それともアークスを捕縛すればいいのか。

 そもそも子供であるアークスが、罪人なのか。



 迷いの中身は、だいたいそんなところだろう。

 その隙に、横合いから先ほどと同じように【アルゴルの布鎮めの法】を仕掛ける。



 衛兵はなす術もなく失神し、折り重なるが――



「貴様ら! 何をしている!!」



 遅れてやってきた他の衛兵が、制圧用の杖を持ってこちらに突撃してくる。

 刻印武装によって身体能力を強化しているのか。思った以上に動きが速い。

 倒した衛兵から布を引き剥がすが、間に合わないか。



「ちっ――」


「任せろ」



 アークスはそう言って膝立ちになり、衛兵に対し指を差すような形をとる。

 そして、呪文詠唱(ぶつぶつ)



 一方衛兵は、自分しか見ていなかった――アークスを脅威と判断していなかったため、当然反応に遅れてしまう。



 しかして、



『――黒の弾丸。それは死神のまなざしが如く瞬きて、天翔ける蒼ざめた馬を追い落とさん』



 唐突に、何かが破裂したような音が鳴る。



「ガッ!?」



 途端、武装した男が何かに躓いたように転んだ。

 何事が起こったのか、衛兵は通路をごろごろと転がったあと、足を抱えて悶え始める。

 封印塔の白い床には、血液の赤色がゆっくりと広がっていた。



 ――ぞく。



 ふと背中に染み渡ったのは、言い知れぬ寒気だった。

 何が起こったのかはわからない。

 いや、わからないからこその、この怖れなのか。

 通路や空間に影響を与える魔法ではなかった。

 ならば、先ほどの魔法が攻性魔法であることは間違いない。

 にもかかわらず、衛兵を攻撃したものが見えなかった。



「ごめん。治療の魔法使えばちゃんと治るから」



 アークスは悶え呻いている衛兵にそう囁きかけ、持っていたハンカチを猿轡にして、手を後ろ手に縛り、すぐにこちらを向いて相槌。

 脱出を促してくる。



 通路を走る中、ふと軽く振り向いた。

 後ろでは、衛兵が痛みにもがいている。



 ……アークスが魔法を使ったとき、距離はあった。

 そして突然転んだ。

 足には小さな円形の傷跡が確かに見えた。

 何をしたのかは、いまいちよくわからない。



「…………」



 いままで、魔法はいくつも見てきた。魔法院の生徒や講師、国を代表する魔法使いが使った大規模な魔法も。種類は様々。

 だが、あれは違う。別だ。まったく別物。

 現状の知識では再現できない、もっと何か、遠く離れたところにあるものだ。

 そのうえ、【死神のまなざし】【蒼ざめた馬】、それらは耳に覚えのない成語だ。



 通路を走りながらに、アークスに訊ねる。



「……おい、さっきの魔法は一体なんだ?」


「あれも俺のオリジナルだよ……語呂はちょっと悪いけどな」



 アークスはそう言って、何故か不服そうにしている。



「オリジナルって……さらっと言うな」



 オリジナルの魔法は、あまり他人には見せないものだ。真似される可能性が少しでもあるため、ここぞというときまで秘匿する。

 それでも見せるのは、見られても特段影響がない場合に限るだろう。

 先ほどの魔法を模倣は……いや、その恐れはないか。

 あの魔法は、魔法の実態が見えないものだ。

 何をしたのかわからないゆえ、想像に起こすことができず、誰も再現できない。



 魔法は呪文の組み合わせが重視されがちだが、想像性も試される。

 上手い想像がなければ魔法も安定しないし、同じ呪文を唱えても、想像力が追い付かなければ同じ魔法にはならない。



 ……正直こいつは、とんでもない。



 あっち(おんな)のガキにも寒気を覚えたが、こっちのガキにはまた別の怖さがある。

 いるのだ。こんな風に、なに素知らぬツラをして、わけのわからない手段でことを成す人間が。



 ……魔法を使って十階ほど降りたが、アークスが総魔力量の半分を消費したため、一旦停止。

 まごついている余裕はないが、これまでと同じ動きができない以上は、別の策を採らねばならない。

 牢に入れられている犯罪者も、姿を見て騒いでいる。出せと言ったり、足を引っ張ろうとしたり様々だが、悠長にしているとこの騒ぎを聞きつけて、下から衛兵が登ってくるだろう。

いまはまだ一人も逃がしていないため、援軍は来ないでいるが、それをいつまで続けられるかもわからない。



 身を隠しつつ、辺りの様子を探る。

 やはり通路の先から足音が響いてきていた。



「来てるな」


「うーん。にしても、さっきから衛兵たちがまとまってこないのはなんでなんだろうな?」


「単に罪人が喚いているだけだと思ってるからだろ? 怒鳴りつければ静かになる程度にしか考えてないから、衛兵も一人二人しか様子を見に来ない。だが」


「下に行けば行くほど、衛兵の数は増えるってことか」



 次に来た衛兵は、こちらの気配を感じたのか、警戒しているらしい。

 なかなか機敏だ。

 すぐに曲がり角から頭を出さない。

 さてどうするか。そんなことを考えていると、



「――そこにいるのは、アークスさまでしょうか?」



 ふいにその衛兵が、アークスの名前を呼んだ。

 しかも敬称付きでだ。



 すぐに、アークスが手で制する。



「……ノアか?」



 どうやら、知り合いだったらしい。

 その人物は曲がり角から姿を現し「はい」とアークスの言葉を肯定する。

 衛兵の装備である刻印付きの兜を脱ぐと、滅多にお目にかかれないような美貌が現れた。



 女が放っておかない、麗しい青年だ。

 まさに貴族付きの従者というような、整った雰囲気を(あわ)せ持っている。



「まず、ご無事でなによりです」


「ああ。ありがとう。だけど、計画はよろしくない方向に向かってる」


「クレイブさまにはすでに伝えてありますので、そちらでも動いてもらえるでしょう。ですが、安心できる状況ではないでしょうね」


「だよな……それで、ノアはどうしてここに?」


「屋敷を探っていた折、連れ出されるアークスさまの姿を見て、傭兵たちを尾けてここに。機を見計らって入って来たのです」


「よくこんなとこ入れたな」


「はい。突然、警備の方が手薄になりまして」



 だが、それはおかしい。



「は? 手薄になった? なんだそりゃ? ここはそう簡単に衛兵が減るような場所じゃねえぞ?」



 妙な部分を指摘すると、青年は怪訝そうな表情を向けて来る。



「……? アークス様、こちらの男は?」


「えっと、脱出するための協力者ってとこかな?」


「見たところ、囚人のようですが?」


「その通り、囚人だよ。刑期満了して二年経ってる、な」



 べろりと舌を出すと、青年はこちらの言い回しを不思議に思ってか、また訝しそうに眉をひそめる。



「……信頼できるのですか?」


「こうなるともう信頼とか後回しだって。一人でも協力者がいた方がいい」


「カズィだ」


「……ノアと申します。アークスさまの従者をしています」



 お互い簡単に名乗り合うが、ノアとやらの警戒は解かれない。

 すると、アークスが、



「気になるなら、ノアの方で気を付けといてよ」


「……まったく、なんでも任されても困るのですよ?」


「え? だって前に伯父上がなんでも任せていいって言ってたし」


「ああ……あのときのクレイブさまの口をいますぐ塞ぎたいですね」


「お前、苦労してそうだな」


「本当です。別途でお手当てをいただきたいくらいです」


「とか言って楽しんでるのはどこの誰だって」



 アークスは指を差すが、ノアと呼ばれた青年は至ってすまし顔である。

 どうやら食わせ者なのは主従共々らしい。



 だが、腑に落ちないのは、



「しっかし手薄ねぇ……」


「はい。ここを掌握している官吏が突然訓示を行うとかで、半分ほどが施設外に」


「は……」



 どんな好機だ。ここが訓示で手薄になるなど、未だかつて聞いたことがない。

 ずいぶんありがたい天の差配だが。



「お前、精霊さまにでも賄賂贈ったのか?」


「お祈りとかお供えとか全然したことないけどなぁ」



 ともあれだ。



「だが、悠長にしている暇はねぇぞ?」



 やはり、階には異変を察した衛兵が集まってきているらしい。

 かすかにだが、足音が響いてきている。

 しかも、今度は団体のようだ。



 とりあえず一番近い部屋に引っ込む。



「折角入り込めたのですが、そうそう上手くは行きませんね」


「ノア、正面から突破するのは?」


「……難しいですね。それなりに時間をかければ、不可能ではないと思いますが。このあともあるのでしょう?」


「ああ。じゃあ却下だ。しゃーない……カズィ。この辺り、窓はないか?」


「窓? それならこの階の奥にあるはずだが……まさか外壁を伝ってとか言うんじゃないだろうな?」


「まさか。命綱なしのクライミングなんてさすがに御免だっての」


「では、どうするのです?」


「それは――」



 ……こんな風に、手詰まりになったときだ。



「――空を飛ぶぞ」



 アークスが、そんなわけのわからないことを言い出したのは。





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