第百五十八話 後始末の行方
「――以上です」
国定魔導師の一人、ルノー・エインファストは、シンル・クロセルロードの前での報告を終えると、手に持っていた書類束を台の上に置いた。
ルノーは眉筋一つ動かさない。一貫して硬質な表情のままだ。
……銅色の前髪を垂らした細面の男。目の下には青黒いクマがあり、見る人間によっては不健康そうな印象を与えてしまうだろう。
性格のあらわれなのか、きっちりと着こなしたジャケットの上に、軍服を一枚羽織っている。身体の線は細いものの、そのような見た目に反し確かな存在感を放っており、そこに巨岩や大樹があるかのような重みが同居していた。
王国では、【護壁】の異名を持つ魔導師だ。
ルノーはむっつりとしたまま、表情を少しも変えない。眉間のシワは、まるで自分で刻み込んだのかと問い質したくなるほどに深く、いくつもあった。それはこれまで積み重ねた気苦労の産物か、それともこの場の空気がそうさせたのか、いま報告した内容があまりに難題だったからか。
ともあれ、静かに話を聞いていたシンルはと言えば、金髪を片手でかったるそうにかき上げると、背もたれの上に首を乗せて天井を仰いだ。
「謁見の間で報告した内容と概ね一緒だな」
「はい」
この日、魔法院でとある事件があった。
その中核にいたのがアークス・レイセフトであり、その後ゴッドワルドやメルクリーアに付き添われ、報告のため王城を訪れた。
それが終わったのが数時間ほど前であり、いまのルノーの報告はその確認と、足りなかった部分を補足したものだ。
現在シンルたちは、国王がプライベートで使う室内庭園である青蛍の間にいる。
室内を意図的に薄暗くした、青い輝煌ガラスの輝きが際立つ庭園だ。
その四阿に国王シンル、ルノーに加え、クレイブの姿があった。位置取りは、シンルの対面にクレイブが座り、ルノーがシンルの横に控えて立っているというものだ。
クレイブが、火のついた葉巻をふかす。
「まさかドネアスに、帝国までかかわっているとはな」
「まったく、敵国からちょっかいは掛けられるものだが、今回のはとびきり頭が痛い」
「帝国は言わずもがな、ドネアスにとって我が国は、輸出に関しても競合する相手です。魔力計という新しい基準ができたことで、大きく焦っているのでしょう」
ルノーの言葉に、二人がそれぞれの反応を示す。
一人は葉巻から吸った煙をため息のように吐き出し。
一人はグラスに注がれたソーマ酒を物憂げに軽く煽る。
事件は解決したにも関わらず、場の空気が深刻なままなのは、そのあとに控えているであろうゴタゴタにみな頭を悩ませているためだ。途方もない力を持つ彼らにとっては、局所的な激戦の結果よりも、国同士の政治が絡んだスパンの長い問題の方がよほど頭を悩ませる難局だった。
シンルがルノーに訊ねる。
「ルノー。今回の魔人の一件、お前は帝国とドネアス、どっちが主軸だと思う?」
「この件はドネアスが帝国に乗せられたと見るべきでしょう。主だって動いていたのはどう考えてもドネアスの方ですが、帝国の後押しがなければこうまで易々とことは運べません」
「そうだな。クレイブ。お前はどう思う?」
「下っ端の暴走にしては手が込み過ぎてるな。ここはドネアス本国の支援と帝国の思惑があってこそ、潜入できたって見るべきだ」
他国に潜入すること自体は難しくないだろうが、そこで組織的な行動を起こすとなれば話は別だ。安全な潜伏場所や生活や活動に必要な品々の入手、国言葉が出ればすぐに怪しまれるし、妙な行動を取れば噂となって憲兵の耳へと入る。確かな支援や後ろ盾がなければ、長期潜伏からの活動などそう易々とはいかないものだ。
……無論、どうして魔法院の地下のことを他国の人間が知っていたのかという疑問が残るが、それに関しては【精霊年代】にかかわることであるので、ここで論じても仕方のないという部分がある。
ルノーがシンルの顔を覗き込むように、身体を傾けた。
「陛下。このままドネアスを放っておくことはできないでしょう。こちらからも何か行動を起こすべきです」
「……やはり内々の問題として片付けることはできそうにないか?」
「はい。放置するのは対内的にも、対外的にもよくありません。黙っていれば帝国が噂を流し、我が国が弱腰だと大きく喧伝するでしょう」
――王国はドネアスの襲撃を受けたにもかかわらず、その後何も行動を起こさなかった。
もしそんな噂を流されれば、王国も何かリアクションを取らざるを得なくなる。ドネアスを非難するにせよ、報復をするにせよ、だ。置物のようにただひたすら黙って座しているだけでは、国内外からの求心力が低下してしまうのは火を見るよりも明らかだ。
そして、その先に待っているものも、自明の理だろう。
「下手を打てば同盟国の離反は避けられねえだろうな」
クレイブがちらりと視線を向けると、ルノーが同意するように頷く。
いまライノール王国は大陸の中央部において打倒帝国の旗頭的な立ち位置にいる。武力的にも、政治的にもだ。少しでも弱腰な態度を見せれば、同盟を組んでいた国々はたちまち離れていくだろう。
同盟国というものは基本風見鶏のようなものだ。どこも、風の向く方向を窺うのに必死であり、強い風が吹けばすぐその方向になびいてしまう。
帝国はそれほど強い風を吹かせる大国であり、対抗できる国もまた少ないということだ。
クレイブが、葉巻の煙を静かに口から噴き出す。
「皇帝リヒャルティオはメイダリアに対し殲滅戦を行うと宣下した。そうすると、帝国も消耗は避けられない。その間にこちらが国力を高めては、向こうもマズいと考えたんだろう」
「それもあるだろうな。帝国にとって一番いいのは、避けられない戦を起こさせて、国力を削ぎにかかることだ。無論、自国より他国とやってくれるのが一番いい」
「ホント連中はよくやるぜ」
シンルが手の中でグラスを回す。
「だが、問題はオレたちがこれからどうするかだ。被害を受けたから、賠償金を寄越せってこっちが言っても、ドネアスは聞き入れはしないだろう」
「唯一、完全なドネアス側だった人間は倒されてしまいましたからね」
そこで再びクレイブが発言する。
「なら生き残った間者連中に喋らせるか? 帝国の方を不問にする代わりに、今回の件にはドネアスの王家が関わってるって証言させればいい」
するとルノーがクレイブに鋭い視線を向ける。
「だがそうすれば、帝国を追及する機会が失われてしまう」
「それは仕方ねえだろ? 帝国の方が知らぬ存ぜぬを貫き通せば、こっちはどうしようもない。下手に突っつけば言い掛かりを付けられたとかで、逆に因縁吹っ掛けられる。折角帝国との争いが落ち着いてたのに、また小競り合いばっかりになるぞ?」
「ふむ? 大火を産む火種を作るよりは、小火で済ませておこう、ということだな?」
「それがいいだろ。戦をやるなら、確実に勝てる相手とやるべきだ」
「バルバロスのおっさんが言いそうなセリフだな」
「そうだよ。こいつはあのおっさんの受け売りだ」
クレイブが気まずそうに後ろ頭を掻くと、シンルが薄く笑う。
そこへ再び、ルノーがシンルの顔を覗き込んだ。
「陛下、いかがいたしますか?」
「……ふん。どうにも向こうの手のひらの上で踊っているようで面白くないな」
シンルは不満そうに吐き捨てると、手に持っていたグラスを置いた。
いま王国は、帝国と和平を結んでいる状況にある。平和は次の戦争までの準備段階とはよく言われる話だが、であればこちらの準備が整っていない状況で戦争に入るというのは、良い出方とは言えない。
「この前のナダールのときといい、王国への嫌がらせに余念のない連中だ。腹が立つことこの上ないな」
「陛下。面白くないのは我らとて同じです。ただ今回の一件は、簡単には収めることはできないでしょう」
シンルはグラスに残ったソーマ酒を一気に呷った。
「これに関しては四公会談でまとめることにする。結局何をするかは、決まったようなものだけどな……」
「どうするんだ?」
「決まっている。責任は取らせるさ。いや、取らせないとならない」
シンルは憂鬱そうにそう言うと、この話はもうおしまいだと言うように、新しいソーマ酒を自らグラスに注ぎ始めた。
そこで、ルノーがクレイブの方を向く。
「それにしても、あれがお前の甥か」
「まあな。なかなか面白いヤツだっただろ?」
「話には聞いていた通りではあったな。だが、お前のように褒めちぎるほどではまだない」
「なんだよ。素直に将来が楽しみなヤツだって言えねえのかよ」
「我々の立場を考えろ。軽々に褒めることなどあってはならんことだ」
ルノーがきっぱりと切り捨てると、クレイブが鬱陶しそうに天井を仰ぐ。
「はぁ。まったくどうしてこんな根暗野郎になっちまったんだか」
「根暗はお前の専売特許だ。まだお株を奪うほど卑屈になった覚えはない」
「あんだと?」
「ふん」
ソーマ酒を勝手に一杯やっていたシンルが、横目でジトリと二人を見る。
「お前らな、ここを下町の酒場かなんかだと思ってないか? 私室とはいえ一応は王城の一室なんだぞ? もっと節度を持て節度を」
「はっ」
「申し訳ありません」
「喧嘩するなら余所がいいな。特にドネアスでやるなら大歓迎だ。死ぬほど迷惑かけて来い。処罰は帰って来てからにしてやるから」
「……陛下は無茶をおっしゃいます。そんな気などまったくないというのに」
「むしろそっちに行ったら行ったで、俺たちはおいそれと暴れられないぜ?」
ルノーと二人一緒に行けば、やり過ぎることになりかねないし、むしろ兵を引っ張って行けば彼らにも手柄を取らせないといけない。そうなると力の強すぎる二人は大人しくしているほかないのだ。
「にしてもアークス、か。あいつの周りは本当に話題に事欠かないな」
「それは俺たちが言える話じゃないぜ? その辺はゴッドワルドのおっさんに文句言われるぞ?」
クレイブがそう言うと、シンルは耳元で手を払って聞いていないという素振りを見せ、話題を変えにかかる。
「しかも彼の聖賢の導士アスティアの生まれ変わりだって? エグバードのじいさんがぺこぺこ頭を下げてたのは何の幻かと思ったぜ」
「お前あのとき、隠れて目を擦ってただろ?」
「ははは、見てたか」
シンルはあっけらかんと笑う。
「アークスのヤツは随分困惑していたがな」
「クレイブ、お前は聖賢の話に関してはどう思う?」
「さてなぁ。実際どうなのかって訊かれても俺はわからん。知りたいなら、精霊や妖精に訊くのが一番だが――」
「教えてくれるかどうか、だな」
シンルの言葉に、クレイブが頷く。
この手の話は当時のことを知っている精霊や妖精たちに訊くのが一番手っ取り早い。
だが、彼ら彼女らはどこにいるかわからないという問題がある。話を訊きに行くにも難しいし、苦労して見つけたところで話してくれるかもわからない。
唯一死者の妖精ガウンだけは、どこの墓場にもいるため、訊きに行くことだけは可能だ。しかし、ガウンは妖精たちまとめ役で、非常に口が堅い。口を滑らせるということは決してないし、あまりに自分たちに近しいことになると教えてはくれないだろう。いつものふわふわとした稚い態度でのらりくらりだ。
シンルがクレイブにグラスを向ける。
「その辺はお前の伝手でどうにかならないか?」
「俺のときは、ちょっとかかわっただけだっていつも言ってるだろ。その辺は后妃に聞けばどうだ? 最も関係ありそうなのは、后妃の血筋だ」
「あいつにだって精霊との接点はないからな。訊いてもしょうがない」
ふとそこで、ルノーが口を開いた。
「それよりも考えなければいけないのは、今後アークス・レイセフトの扱いをどうするかです。このまま見過ごしておくわけにはいかないのでは?」
「おいルノー。なんだよその言い草は? 扱うって、あいつは物じゃないんだぞ?」
「クレイブ。甥が可愛いのはわかるが、政治がかかわる以上分けて考えなければならない。それはお前もわかっていると思っていたが?」
「お前のは言い方に思いやりってのがな」
「そんなものはこの役目に付いてから捨てている」
苦い顔をするクレイブに、ルノーはぴしゃりと言い放つ。
彼が冷淡なのは相変わらずだった。
シンルがグラスを呷る。
「で? だから聖賢の生まれ変わりとして祭り上げるか? それはオレが困るぜ?」
「でしょう。下手をすると殿下よりも名声が高まる可能性があります」
「だなぁ。三聖の話は馴染みがあるからな。それはさすがに良くないぜ」
「なんだクレイブ。お前は反対なのか?」
「あいつもそれは望んじゃいないだろうからな。あいつ、向上心は高いみたいだが、結構控えめなんだよ」
「行動ももっと控えめにしてくれればいいんだけどな」
「それを面白がってる奴がよく言うぜ?」
クレイブが苦言を呈する一方、ルノーがシンルに言う。
「やはり私は、サイファイス家の動きにかかっているかと」
「エグバードのじいさまが暴走……ということはまずないだろうな。むしろそっちはうまく働いてくれそうだと思うが?」
「アークスの後ろ盾の一つにってことかよ?」
「アークスを国定魔導師に迎えるために、サイファイス家の後押しがあれば文句を言う奴も少なくなる」
「ですが、国定魔導師にするとしても、実利があるかどうかはまだわかりません」
ルノーがむっつりと言い放つと、クレイブがまた苦い顔を向けた。
「ルノーお前よぉ、それわかってて言ってるだろ?」
「だとしても、だ。それでもこうして言っておかなければならん話だろう」
ルノーがこうしていちいち反対のことばかり言うのは、冷静な議論を促すためだ。皆が皆もっともなことを言い、同調してばかりいるのは健全ではないし、見落としていた問題を見つけることも難しくなる。悪役を買って出ていることはクレイブもわかってはいるのだが、昔からの喧嘩友達である以上、わかっていても苦言を呈することは止められない。
「オレたちの認識は一致している。あの強力な魔法を見せられれば、文句を言える奴なんていないだろう。しかし、重力の魔法とか言ったか」
シンルは、戦いの趨勢を窺っていたときのこと思い出す。
魔人との戦いは屋根の上で見ていたが、アークスの魔法はかなり強力なものだった。それこそ武闘派の国定魔導師に匹敵するほどの威力があったと認識している。
「重力。紀言書の一部、それもメガスの章にほんのわずかにしか出て来ないもののようです。魔導師間では一体なんなのかが判然とせず、長らく放置されてきたものでしたが、ああして実際に扱ってしまうところを見ると、凄まじい力だとは思います」
「要するに、あれがオレたちが地面の上に立っている理由だってことだろ?」
「そのようですね。要領の得ない説明でしたが、そのような認識でよいのかと」
ふと、ルノーがクレイブにじとりとした視線を送る。
報告がなかったことを責めるような目だ。強く非難するようなものではないのは、もちろんなのだが。
クレイブは降参というように諸手を上げた。
「ま、あいつの頭の中のことはあいつにしかわからないからな。俺にはどうにもならん」
クレイブがそう言うと、シンルが自分の頭を切るような素振りを見せる。
「クレイブ。やっぱり一度開いてみるべきじゃないか?」
「お前それ言うのやめろよ? 今日だってそんなこと言ってビビらせてたじゃねえか」
「やたら肩を竦めてて面白かったな」
「ほんとひどい奴だぜ」
主君も甥の怯えようを笑っているが、伯父は伯父でそのときのことを思い出したのか、片笑みを作っている。
シンルの目が鋭くなった。
「で? クレイブ、アークスが使っていたあの籠手のことについては、オレは報告を受けていないが?」
「あー、あれか。あれな。まさかもう実戦に持ちだすとは俺も思ってなかったんだよ」
「ほう?」
「そんな顔するなよ。ゴッドワルドのおっさんには事前に言っているし、連絡はしっかりしてた。次の国定魔導師会議のときに、形だけでも発表する予定ですり合わせてたんだよ。というかその件は、別で話が伝わっていると思ったんだが? アークスの話じゃ殿下にも報告しに行ったって話だったはずだ」
「ランの奴め、そんなことは言わなかったぞ……」
シンルは苦い顔をして横を向き、口からつらつらと文句を垂れ流し始める。
そして、
「つまり、あんな代物を作ってたのに、オレだけ仲間外れだった、と」
「お前だけってな」
「ランもそうだし、ゴッドワルドのおっさんも知ってたんだろ?」
「そう拗ねるなって」
「別に拗ねてない」
シンルもそうは言うが、まだ胸の中に文句が蟠っていそうな顔だ。彼には昔から、こういう子供っぽいところがあった。
ルノーが訊ねる。
「クレイブ。結局あれはなんなのだ?」
「あれか? なんでも魔法を使って魔力を一時的に増やす装置なんだそうだ」
「魔力を……増やすだと?」
「は? おいおいそれは本当かよ?」
「ああしてあいつの魔力量に見合わない魔法を使ってたのがその証拠だ。あいつの魔力量者どう考えてもあんな魔法使えないだろ?」
シンルが魔力を増やすという言葉を聞いて、前のめりになる。
「で? 生産の方はどうなってるんだ?」
「今回の物は大量に作る予定はないらしい。公表の方もだ」
「だが、魔力を増やすってのは見過ごせないぞ。国軍の強化につながるものは、無理にでも提供させる必要がある」
「クレイブ。陛下のおっしゃる通りだ。それはお前もわかっていることだと思ったが?」
「俺もそれはそう思うがよ、なにせ管理が難しいらしい。使うのに必要な物も多いし、魔力の管理もマメにする必要がある。強力な魔法を使えば使うほど、呪詛の排出量が多くなるしな。まとまって使うと、こっちが自滅しかねない代物だ。実験に立ち会ったゴッドワルドのおっさんも同じ意見だぜ?」
「なるほどな。いい部分だけじゃないってことか」
「大量に配備して、まとまって使うような武器じゃないってことは覚えておいてくれよ? あと、あいつ今日言い忘れてたが、呪詛の量を計る道具もオマケで作ってたぜ」
「はぁ!?」
クレイブがぶん投げた特大の爆弾にシンルが驚き、ついで頭を抱える。
「あのなぁ。そんなもの副産物扱いで作るなよ……」
「俺に言うなよ俺に」
「クレイブ、その辺はお前の監督責任ではないか? どうなっているのだ?」
「うるせえ。アイツのやらかしの面倒はもう見切れねえんだよ」
シンルはひとしきり頭を抱えたことで頭痛が収まったのか、顔を上げた。
「わかった。オレはもう何が飛び出してきても驚かないようにする」
「そうしてくれ」
「だが、そうなるとサファイアバーグの方がどう動くかだ」
今度はクレイブが頭を抱える番だった。
「頭痛ぇぜ。そうじゃなくても魔力計のことでせっつかれてるのによ」
「呪詛を計る道具があるとなれば、魔物に悩ませられているサファイアバーグは黙っていないでしょう。すぐにでも求めてくるはずです」
「オレとしては弱みを握れるからな。悪いことはない」
「あまり頭を押さえつけすぎないでくれよ?」
「わかっているさ。オヤジのときのようなことにはしない」
シンルはそう言うと、再び口を開く。
「なあクレイブ。アークスのヤツにまたなんか作ってくれって言っといてくれよ」
「気軽に無茶言うな。できるわけが……」
「できるわけが?」
「……できてるな」
ルノーが息を吐いた。
「クレイブ。お前はやはり監督責任というものをだな」
「うるせえうるせえ! 頭の痛いことばかり俺に投げるんじゃねえよ!」
アークスの『やらかし』に対する文句をひとしきり言い募ったあと、今日の彼らの集まりはお開きになったのだった。