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第百五十二話 やりようはある




 ――【暴虐なる石巨人(タイラントゴーレム)



 ケインが魔法を行使する。

 真鍮色の光が中空に満ちると、その直下の地面に巨大な魔法陣が展開。それに遅れて同様の魔法陣が空中に広がり、魔力の波が無色の渦を巻いて舞い上がった礫を塵に変えていく。


 やがて大地に敷かれた魔法陣から、岩の巨人が産声を上げた。

 地面から生み出されるように這い出てきたのは、金属や岩で構成された真鍮色の巨人だ。大きさは魔法院の校舎を軽く超えており、それが身じろぎするごとにこちらにも震動が伝わってくる。



 上半身が重いのか、姿勢は前かがみで、頭部も巨大だ。

 まるで山を逆さまにして、そこに手足を付けたようにも見える。

 魔法の雰囲気は()の大英雄が作り上げた言理の魔法を彷彿とさせた。

 おそらくはケインがガスタークスの魔法を模して作ったものなのだろう。

 講師たちが使った攻性魔法よりも強力なものだ。もしや先ほど自身が使った【後塵の炎王の繰り手】とも互角に張り合えるのではないだろうか。いや、炎王より一回りも二回りも大きいため、なすすべなく圧倒されるということもあり得る。



 一見してそんな風にも思えるほど、あの巨人にはケインの魔力が充溢していた。

 巨人は、男に向かって拳を叩きつけるように腕を振り落とした。

 地を揺るがす震動。

 爆裂する衝撃。

 巨大な質量の衝突に、しかし悪相の男は微塵も揺るがない。

 自在の力で生み出した盾で受け止めたのだろう。



「そんなものは効かないと何度言えばわかるのかね?」


「っ、どれだけ強固な鎧も、打撃を与えていけばいつかは壊れるものだ!」


「やれやれ私の守りはそういうものではないのだよ」


「それはお前がそう思っているだけで……」


「まったく、概念というものを理解できないか。いや、まだ年端もいかない子供に理解しろというのも無理があるか」



 悪相の男は頑ななケインに呆れている様子。説明も億劫というように、それ以上言及することはなかった。

 だが、ケインは同じ攻撃に固執しているらしく、巨人の動きを止めようとはしない。

 確かに、相手の力が尽きるまで攻撃すればあるいは……という可能性もある。

 しかし、いくらケインの魔力が大量にあると言えども、限界はあるし、規模の大きい魔法ばかり使っていると息切れを起こしてしまうはずだ。

 そもそも悪相の男が体力勝負に持ち込める相手かもわからないのだ。これは分の良い賭けではない。

 その証拠なのか、ケインは常に大量の魔力を放出しており、懸命に巨人を繰っている。単純な動きをさせるだけでもかなり大変なのか、悪相の男よりも巨人の方にしか目が言っていないようにも見受けられた。



 ケインはそれでもなお、巨人をけしかけ、攻撃を続行する。

 何度も拳を打ち下ろし、何度も足で踏みつける。しかし男にはまるで効果がない模様。



「無駄だよ。無駄無駄」


「まだだ! まだまだ!」



 巨人の攻撃が激しくなるのに反比例して、男のやる気は下がっているのか、盾を使おうともしなくなった。

 ケインの魔法の余波をかわしたシャーロットが、自分の隣に着地する。



「私の攻撃も手ごたえがないわ。リーシャ、あれはどういうことなのかわかる?」


「おそらくは、紀言書に記述されている通り、あの男は本当に傷を負わないのではないのかと」


「……それじゃ打つ手がないわね。できて足止めくらいかしら」


「そうですね。強い人たちが異変を嗅ぎつけて到着するのを待つしかないでしょう」



 剣も効かない。魔法も効かない。となれば、自分たちには打つ手がない。

 だが、魔法院にはあの人がいるし、なにより王都には強力な魔導師も多くいる。国定魔導師などその最たるものだ。彼らの到着を待てば、あるいは自分たちよりもいい手段を考えてくれるのではないか。そんな風に思える。



「クローディア様」


「わたくしの魔法も、そして【抑圧(サプレス)】も効果がありません。そもそもあの男は魔法を使っているわけではないので、もともと優位は取れないのです。あれが魔導師なのであれば、どうにかできたのでしょうが……」


「あの男は、そうではない……」


「相手が変わるだけで何もできなくなるとは……不甲斐ないですわ」



 クローディアは悔しそうに歯噛みする。やはり彼女の家系は、魔人の封印に関係しているのだろう。だからこそ、魔法院でこんな事態が起こり、そして止められないことに悔しさを滲ませているのだ。



「あの男の気を引き続けるべきね」


「私もそうした方がいいと思います」



 シャーロットと意見を同じくするが、しかしそんな結論はクローディアには届かなかった。



「いえ、わたくしはやらねばならないのです」


「クローディア様!?」


「待ってください!」



 クローディアはこちらの言葉も聞かず、再び男へと向かって行く。

 頃合いはちょうどケインが息切れを起こしたところ。

 巨人が動かなくなったところを見計らって、男が巨人の手足を斬り飛ばし、解体していく。



「くっ……僕の魔法がこんな簡単に」


「ただ人形を造り出すだけの魔法など下術でしかないな。工夫が足りないよ、工夫がね」


「僕の魔法が下術だと!?」


「そうだとも。そうでなければ、こんなに簡単に終わるものかね? 結局君の魔法は真似事の域を出ない、その程度のものなのだよ」


「っ…………」



 悪相の男の畳みかけるような言葉に、ケインは悔しそうに表情をゆがめる。

 先ほどの魔法行使で魔力をかなり使ったのか。援護に回っていたルシエルがケインに「下がれ!」と何度も繰り返している。だが、魔力が急に減じたときの倦怠感から、動けなくなっているようだ。



 そんな二人の前に、クローディアが割り込んだ。

 悪相の男が見せるのは、ような倦んじ顔。



「……また君かね」


「ええ、『また』だろうとなんだろうと、わたしくはあなたの前に立ちますわ。何度でも」


「諦めの悪いことだ。力の差はすでに明白のはずだ。どうしてそこまで頑張ろうとするのかね?」


「わたくしはサイファイス家の人間、そしてその跡取りなのです! 相手が強大で、敵わないからといって、お役目を放り出すわけにはいかないのです!」


「愚かな。アスティアの甘言に踊らされ、最後まで舞台の上から降りようとはしないとは。その役目こそ、君の一族が聖賢からいい様に使われているという証拠なのだ」


「だとしても! こんな好き放題にされて黙っているわけにはまいりません!」


「ほう?」


「わたくしはこれから、この魔法院を担うのです。そんな人間が、脅威に立ち向かわずなんとするのですか! たとえそれで、命を失うとしても!」


「命を失ってしまえば、意味はない。誇りになんの価値があるというのかね?」


「命を失っても、誇りはいつまで誰かの中で生き続けますわ!」


「やれやれ話のわからない女だ。運の良さを利用してそのまま逃げればよかったものを……」



 悪相の男はまるで興味を失ったように息をこぼす。クローディアに向けられる視線も、ひどく空虚なものになった。



「責任感を持つことはいい。だが、君の役目は終わったのだ。いい加減目障りだ。ご退場願おう」



 悪相の男の力が高まる。

 鎧や盾には、どす黒い力の影かまとわりつき、剣はさらに多くの力を湛えている。

 直接叩きつけようが、余波や余剰でも、人一人くらいならば簡単に消し飛ぶだろう。

 これでは苦し紛れに魔法を撃っても打破できない。

 そんな中、クローディアはいま出来得る限りの、最大の防性魔法を使う。



《――覆え。囲え。何者をも拒め。意思は堅牢なる殻となって我を守る。大いなる者の権威よ我を包み込め――




 クローディアを包み込むように、外殻が構成される。以前にあの人との決闘のときに使った防性魔法をさらに強化したものだ。

 それに対し、悪相の男の剣が振り下ろされた。

 大地をえぐるような一撃が、横倒しにした柱のようになってクローディアの防性魔法に叩き付けられる。

 それだけでは防性魔法は破壊できなかったが、しかし悪相の男は剣に力を込め続ける。

 持続される威力によって防性魔法に注がれている魔力は徐々に削り取られ、そしてその負担はクローディアにのしかかった。



「くっ、うぅうう……」


「頑張るものだ。だがそれも時間の問題だな」


「わたくしは、負けられない! 負けられないのですわ!」



 クローディアは叫び、魔力を注ぎ続けるも、防性魔法の殻にひびが入る。



「クローディア様!」



 駆けだそうとするシャーロットに合わせ、自分も目くらましのように魔法を使おうとした、そんなときだ。



《――極微。結合。集束。小さく爆ぜよ。矮爆(ドゥワーフスター)



 呪文が聞こえると同時に、魔人の身体に赤い魔法陣が重なる。それはまるで魔人が魔法陣の輪の中心に囚われてしまったかのよう。



 それだけで、すぐにわかった。


 これは、あの人の魔法だ。あの人が来てくれたのだと。



「む――?」



 男が言葉を紡ぐ暇もない。すぐに小規模な爆発が巻き起こる。

 小規模と言っても、威力はかなりのものだ。捕まればどんな相手でも一撃でバラバラに吹き飛ばす強烈な一撃である。

 悪相の男が炎と黒煙に包まれる。おそらく攻撃的な効果は見込めないだろうが、それでも相手の意表を突いて驚かせることや、目隠しになることは間違いない。



「兄様!」


「アークス君!」



 クローディアのもとに歩み寄る人影を見て、シャーロットともに声を上げる。

 あの人はこちらに一度頷いたあと、クローディアを助け起こした。



「クローディア様、大丈夫ですか?」


「アークス・レイセフト、あなた、どうして……」


「どうしてって、俺も魔法院の生徒ですから、そりゃいますし、何かあったら出てきますよ」



 援軍に自分たちは安堵するも、しかし何故かクローディアは悔しそうに項垂れる。



「……またわたくしは、膝を折ることしかできないのですか」


「クローディア様。悪い癖が出てますよ。なんでも自分でやろうとしなくてもいいって、この前言ったじゃないですか」


「それは!」


「人間なんでもできるようになることなんてできないんですから、なんでもできるようになりたいな……って思うくらいでいいんですよ。ダメだったら誰かが助けてくれます」


「そんな都合の良いことがいつでも起こるなど……」


「少なくとも、俺は助けに来ましたよ?」


「――!?」



 あの人がクローディアを諫める中、後方から一人の人物が歩いてくる。

 二剣で武装したスウシーアだ。上着の上からハーネスを取り付け、制服を無理やり動きやすそうに改造しているといった出で立ち。見るからに、いつもとは違う雰囲気を出している。



 鋭く、しかし厳格。まさに武官貴族の在り方を体現したような貫禄が感じられた。

 そのまま、あの人の横に並び立つ。



「なんだアークス。いつからそんな軟派な口を利くような男になった?」


「は? 俺がいつ軟派なこと言ったよ?」


「いまし方言ったろう?」


「……?」


「自覚なしか……」



 あの人が言葉の意味が解らず困惑している一方、スウシーアは話の分からない男に呆れるように、大きなため息を吐いた。額に手を当て、頭を抱えている。

 そして、その瑠璃の散った視線を、いまだ炎と煙に包まれた悪相の男に向けた。



「にしてもあの気色の悪い肉の塊の次はこれだ。まったくアークスの周りにいると事件には事欠かんな」


「俺はそういうのもうお腹いっぱいだっての」


「ははは! いまからその調子ではそのうち腹が破裂してしまうぞ?」


「聞きたくない聞きたくない」



 スウシーアのお固い口調から放たれる軽口に、あの人はそんな冗談めいた泣き言を口にする。

 そして、



()()を何とかしてやっと着いたらこんな状況だ。一体全体どうなってんだ。俺に心の平穏をくれっての」



 この悪態だ。ずっといろいろな事件に巻き込まれてばかりゆえ、こうして文句も言いたくなるのだろう。



「君は……」


「ケインか。さっきからのデカい魔法はお前のだろ。遠間から見えてたぜ」



 あの人がケインとそんなことを話していると、ルシエルも声を上げる。



「おま、来るのが遅いぜ……」


「いや悪い。いろいろと手間取ってさ」



 あの人のへの信頼は、シャーロットも殊の外(あつ)い。



「アークスくん。遅い登場ね」


「いえ申し訳ありません。あと、ミリアは来ていませんか?」


「いいえ? こうなる前に校舎の方に向かったのは一度見たけど?」


「マジか、あいついま一体どこで何やってんだ……」



 あの人は何か呆れている様子。ミリアと口にしていたが、シャーロットの言うように彼女の姿は見ていない。

 そんな話をする中、やがて炎が消えて黒煙が晴れる。

 やはりそこには、無傷のままの悪相の男がいた。



「……効いてないだって?」


「アークスのいまの魔法を受けきったのか? あの男一体……」



 あの人とスウシーアは、男が無傷であることに眉をひそめる。事情を知らないゆえ当然だが、初めてあんなのを見ればこんな風に驚きもするだろう。先ほどの自分たちと同じだ。

 そんな中、悪相の男はあの人に見覚えがあったのか、眉を急角度で吊り上げる。



「誰かと思えば、この前のガキか」


「っ、お前はこの前の……さっきも聞いたがやっぱり地下のことはお前らの仕業だったのかよ」


「見た通りだよ」



 見た通り。その言葉で、あの人は改めて男のことを観察する。

 それで、何かに気付いたのか。



「なるほど。魔人の力の影を得たのがお前ってことなのかよ」


「ほう? 見ただけでよくそれが看破できたものだ」


「他に仲間がいなくてお前一人ってことは、もうそれしかないからな。おかしな力を扱ってるうえ、その顔だ。どこからどう見てもそうだろ」



 どうやらあの人はすでに、魔人のことも知っているらしい。

 自分たちも先ほどクローディアから聞いて知ったばかりだというのに、どういうことなのか。



「だが、よくここまでこれたものだ。あちらには煩わしい肉塊がいたのではないかね」


「そっちは処理してきたさ。おかげで結構時間食ったが」


「処理だと? あんなものでもそう簡単に駆逐することなどできないはずだがね?」


「前に作って封印した非人道的な魔法の一つを使ったのさ。肉が増えるなら、細胞分裂できなくさせてやればいいってことだ」


「さいぼう……?」


「お前は知らなくていいことだよ。下手すると人間が簡単に滅んじまうような技術だからな」

 悪相の男はよくわかっていなさそうだったが、しかしあの人は彼の怪訝そうな表情をさらりと流した。



 ……しかし、なんだろうか。あの人はいま何かとてつもなく物騒なことを言ったようにも聞こえる。以前にクラウンがあの人の『魔導籠手(チャンバーガントレット)』を見たときに口にした「これはとても危険な物だ」という言葉にどこか通じるものがあった。



 許容する限界を超えた力は、扱いを間違うと必ず跳ね返ってくる。それはクラウンも言ったことだ。

 だからあのとき、自分はあの人に「危ないようなもののような気もしている」と言ったのだ。



 とどのつまりはいまの話も、その類なのだろうか。

 だが、あの人はそれ以上のことは頑として口にしない。



 ふいにクラウンが『へぇ。そんなことまで知ってるんだ』と感心したような声を漏らした。

 その魔法がどんな類のものかはわからないが、肉塊の方はあの人がどうにかしてきたというなら、もう心配することもないだろう。



 だが、いまはまず伝えておくべきことがある。



「兄様! この男、攻性魔法が効きません! 傷を負うことがないようです!」


「……リーシャ。へえ、じゃあおとぎ話の通りなんだな」


「ご存じなのですね!?」


「ああ。まあそれなりに」



 やはりあの人も、魔人のことを知っているらしい。

 その力は誰にとっても脅威だが、それでもああして怯えがない辺り安心だ。

 あの人ならきっとどうにかしてくれるという希望が持てる。



 だが、そこで声を上げたのはクローディアだ。



「アークス・レイセフト。あなたどうしてそのことを知っているのですか? いえ、そもそもどうして、あれが魔人だと気付いて……」


「さっきちょっと魔人グロズウェルの話を耳に挟みましたからね。それで大事になったってことは、力の影が誰かに()()()()()ってことになる。深く考えなくてもわかることです」


「なぜあなたはそんなことまで……?」



 あの人が話の奥深くを知っていることに、クローディアは当惑気味だ

 一方で悪相の男が、あの人に冷たい視線を向ける。



「それで、この私を止めようとするのかね? 魔人グロズウェルの力を得たこの私を? お前のような魔力の少ないガキが」


「魔力が少なくて悪かったな。だけど、今日はこの前のときとは違うぞ」


「ふん。どう違うというのかね?」


「あのときとは違って守るものもないし、魔力もきちんとあるってことだ」


「ほう? 大口を叩く割には、随分とささやかな量に思えるが?」


「お前程度これくらいで十分倒せるさ」



 あの人はそう言って、口元に不敵な笑みを浮かべる。

 そんな挑発的な言葉に、悪相の男の眉が動いた。



「……言ってくれる。だがどうするというのだね? 魔人となった私に魔法は効かないし、そもそも傷をつけることもできないのだよ?」


「魔法が効かない? ん? ああそうか。さっき言ってた攻性魔法が効かないとかどうとかって話か」


「そういうことだ」



 その言葉を聞いたスウシーアが神妙な表情を見せる。



「……攻性魔法が効かないとは厄介だな」


「そうだな。さっきもやったけど、殺傷魔法でドカンが無意味だもんな」


「アークス、私は手が思い浮かばん、どうするべきか案はあるか?」



 スウシーアが訊ねると、あの人はポカンとした表情で答えた。




「――え? いや別に。倒し方なんていくらでもあるだろ?」




「……は?」


「……なんだと?」


「いや、だってそれ、魔法で傷付けられないってだけだろ?」



 困惑するスウシーアと悪相の男を余所に、あの人はなんでそんなことを訊ねられるのか心底わかっていないような、そんな表情を見せる。まるでボタンを掛け違えたかのように三人の常識がかみ合っていない。いや、この場ではあの人だけと言った方が正しいか。



「君はよくわかっていないらしい。それが、魔法使いは決して私を倒せないという証左でもあるのだよ?」


「は? それなら動けないよう拘束するとかさ……」



 そこで、シャーロットが叫んだ。



「アークス君! さっき講師の方々が使ったけど、力で吹き飛ばされてしまったわ!」


「なるほど。生半可(なまはんか)なのじゃどうにもできないってわけか。まあいいさ、やってみればわかることだ」



 あの人はそう言って前に出る。

 そう、さも自分が倒すのだと言うように。

 そんな中、ふいにケインが声を上げた。



「待て! 無茶だ!」


「無茶?」


「そうだ! その男は僕たちの攻性魔法でも傷つけることができなかったんだぞ! それを魔力の少ない君がどうにかできるわけがない! 大人しく下がるんだ!」


「いや、だから別に攻性魔法を使うわけじゃないし」


「だが威力の高い魔法を使わないことには倒せないはずだ!」


「だからそんなことないんだって。そうだろ? 外傷を与えられなかったら倒せないなんて範囲が狭い。そうじゃないか?」


「だが攻性魔法くらいの威力がなきゃ動けなくさせることはできない! それが助性魔法ならなおさら……」



 そこで口を挟むのは悪相の男だ。余裕を崩さないあの人に、かなり苛立っている様子。片目をぎょろりと剥き、さらにゆがめられた悪相は、さながらおとぎ話に出てくる悪鬼のよう。



「よくもまあそんな自信を持てるものだ。君は魔法についてなにか勘違いをしているのではないかね?」


「いや自信も勘違いもなにもないだろ? え? なにそれ? 常識の範疇だろこれくらい」


「常識だと?」


「だって、魔人だ何だって言っても、一応は人間……()()()であることに変わりないだろうしな」


「なに?」


「そうだな。まず、どうして人には、目があり、鼻があり、耳があると思う?」


「ふむ。君が何を言っているのかわからないが、まあ問答に付き合ってやろうじゃないか。目や耳があるのは、物を見るため、聞くためだ」


「そう。周りの状況を正確に知覚するためだ。だから――」



 そう言って、あの人は詠唱を始める。



《――夜でも昼でも明るく眩しい偽物太陽ここにあり。天に満ちろ地に満ちろ。突き刺さる光。反転する神気。逆流する経脈。明滅する赤と青。行き過ぎた眩暈がその身を亡ぼす》



 ふいにあの人が、後ろ手でスウシーアに合図を送り、それを察したスウシーアがこちらに目を隠すように指示を出した。



 直後、白光輝く魔法陣が生み出される。

 一方でこちらは指示通り、すぐに目を閉じた。

 まぶたの上から、強烈な発光が透けてくる。無論目を閉じているゆえ目がくらむことはないが、それでもかなりの光量だ。



 悪相の男の声が聞こえてくる。



「ははは。こんな光が一体なんだというのかね? 苦し紛れの目くらましにしては――む?」



 目を開けると、悪相の男は足を踏み外したようによろめいた。

 急にどうしたのか。酔っ払いの千鳥足のようになる。見たところ光で目がくらんだ様子ではないが、なぜそうなったのか。



「な、なんだ。これは、一体」


「目は、物体を見る器官であるが、光を受領する器官とも言える。そしてこれは、光刺激性の発作だ。重度だと光と点滅で()()()()を起こすが、軽度だといまのお前みたいにめまいを起こしたり、気分が悪くなったりする」


「ひきつけ……? めまい……?」


「要するにてんかんだよてんかん」


「てん、かん……だと?」


「そう。これは脳の一部を損傷させているわけじゃなくて、勝手に異常な反応を起こしているだけだからな。だっておとぎ話の通りなら、攻撃じゃない魔法は効くってことだろ?」



 当たり前だが、あの人の話はいつものようによくわからない。

 だが、それにいち早く理解を示したのは、誰あろう背後のクラウンだった。



『――ははん。なるほど。そういうことね』


「どういうことです?」


『お兄ちゃんが言ったことそのままだよ。まあ見てればわかるって』


「は? いえ……」


『いいからいいから見てればいいよ。僕の考えとは少し違うけど、君のお兄ちゃんがどうにかしてくれるからサ』



 クラウンはそう言って、それ以上は語らない。ただただ面白いものへの期待の念が抑えきれず、忍び笑いを漏らすだけだ。どうやら観戦に回るらしい。



 そして、またあの人の口が開かれる。



《――弾けろ。暴れろ。目覚ましラッパに大いびき。犬の吠え声金切り声に、四流五流の音楽家。赤子の癇癪おやじの怒号。うるさいものは全部くるめてぶちまけろ。耳をつんざくシャボンの泡沫(うたかた)



 【びっくり泡玉(アストニッシュバブル)】だ。

 魔法陣から、複数のシャボン玉が生み出される。それはふわふわと漂い、男のもとへ。



「このようなシャボン如きなんだというのだ!?」



 悪相の男は苛立たしげに叫ぶも、その魔法の凶悪さは誰もが知るところ。

 これは以前に、あの人がクローディアと戦ったときに使ったものだ。

 威力や結果を知っている者はみな、すぐに耳をふさいで縮こまった。

 直後、シャボンの破裂が連鎖し、爆音が周辺を容赦なく叩く。



 それは悪相の男も例外ではない。シャボンが生み出す大音量に晒される。

 次いで、聞こえてくるあの人の声。



「鼓膜も頑丈だろうが、鼓膜は鼓膜だ。それがどこまで行っても音を聞くための器官であることに変わりはないなら、こういう魔法も効果がある」



 悪相の男は輪をかけてふらついている。傷をつけられないゆえ鼓膜は破れなかったようだが、脳みそが盛大に揺さぶられたらしい。

 額に汗しながら、苦しげに呻く。



「ば、バカな……こんな音と光だけで」


「攻撃が効かないからって油断したな。確かにお前を魔法で傷つけることはできないかもしれないが、生物という括りにある以上脆いところは確実にある。いや、それは脆くなければならない。そうだろ? 生物は生きていくために、外界から『刺激』を受領する器官が必要不可欠なんだから。刺激を刺激として受け取ることができなければ、お前は自分の周りの様子が分からなくなる。要するに、防御の魔法と同じようなものだな」



 あの人は話に一区切りつけ、事実を突きつける。



「お前は、魔法の()()には強いのかもしれない。だが、それが攻撃じゃなけりゃ、こうして効果が及ぶってことだ」


「何を言っている!? 私は傷を負わないのだぞ!?」


「だってそれは魔法が効かないとか、効きにくくなったってだけなんだろ? あとは身体が頑丈になったとかか? でも、そういった要素が関係しない他の部分には、効果があるってことだ。っていうかそもそも俺の声聞こえてるか?」



 悪相の男が意味のない反論を喚く中、あの人はスウシーアに顔を向ける。「アークス。手は要らぬようだな?」「ああ。大丈夫そうだ。任せてくれ」そんな短いやり取りをして会話は終わる。

 歩み寄って行ったシャーロットも、余裕を取り戻している様子。



「こうも簡単に手玉に取ってるところを見ると、自信失くしちゃうわ」


「いえ、俺は戦い方を持ち合わせていただけにすぎませんよ」


「よく言う。そんなものアークス以外は持っていそうにないがな」


「そんなことないさ。たとえば伯父上なら、鉄床海嘯を周辺一帯にぶちまけて、適当に立方体でも作って冷やして固めて閉じ込めて終わりだろうし、まあそんなことしたら魔法院の敷地は使えなくなるだろうけど」


「――! なるほど、そう言った手もあるな」


「……なんか魔導師って考え方が怖いわ」


「そういうもんですから」



 彼らがそんな話をしている一方で、クラウンが声を上げた。



『いやー君のお兄ちゃんはえげつないこと考えるね。あんなの見てるとおとぎ話の魔人が可哀想になってくるよ』


「クラウン。そろそろ教えてくれてもいいのでは?」


『つまり、君のお兄ちゃんが魔法で働きかけている部分は、生物である以上どうしても影響を受けなきゃいけない部分なんだ。当然、それを遮断すれば困るだろ? 目は見えないし音も聞こえない。だから遮断なんてできないし、そう言った攻撃は。この前君のお兄ちゃんが、あそこの彼女を決闘で倒したときと一緒だ。防御の魔法はなんでも遮断していいものじゃない。もちろんいまの魔法は道具を使えば簡単に守ることができるけどね』


「しかし、魔人はいまその手段を持っていない……」


『そういうことだね』



 だが――



「ですが、あの男には魔人の持つ自在の力があります」


『あるよ? あるけどさ、どう防ぐかまでは頭が回っていないんだよあの男はサ。防ぐ手段を作れるなら防げるだろうけど、でも、どう防ぐ? リーシャちゃんは、お兄ちゃんが使った魔法に、すぐに対応策を打ち出せる? ああいうの、効果が出てから何かするんじゃ遅いんだよ?』


「それは……」



 できない。口先を読むことができるのはあの人だけだ。聞こえた【古代アーツ語】から瞬時に魔法の効果の先読みめいた割り出しを行い、それに対応した魔法を使う。実際は割り出しだけでなく、その魔法に対する防御手段を備えていなければならない以上、どうしたって間に合わないのだ。



 そして、それはあの魔人の力を持つ男も同じ。

 どんなことでもできるのかもしれないが、対策を講じれない以上、防ぐことはできない。



「光や音を使うならば……」



 だがそれを認めない悪相の男は、自在の力を取り巻くように展開する。

 紫まじりのどす黒い力が球形に展開。すぐにその姿が見えなくなる。

 外部からの働きかけを完全に遮断した形だが、おそらく悪相の男はその状態でも攻撃ができるのだろう。



 だが、それを軽々に許すあの人ではない。



「ならば、なんだって? 引きこもりなんてするもんじゃないぜ?」



 呆れたようにそう言うと、また詠唱を開始する。



《――魔法の家のお遊戯場。回転錯覚無重力。床に立てない壁に立て。天井横向き花瓶は逆さま。足元ずっと揺れたまま、地面はしばらく船の上。びっくりどっきりお楽しみ。さあさ真っ直ぐ立ってみろ》



 ――【イカれたお(うち)へようこそ凶悪版】



 詠唱の直後、地面が揺れる。揺動する。

 地揺るぎか。いや、先ほどケインが巨人を動かしたときよりも震動は感じない。



「っ、こんな、地面を少し揺らしただけで」


「警戒心が足りないな。さっきからそれでしてやられてるのに、もっと頭を使ったらどうだよ? 余裕を見せるのにも限度があるぜ?」


「地面が揺れただけでどうにかなるとでも!」


「思ってるよ。思ってるからやったんだ」



 悪相の男の怒鳴り声にも、あの人は動じない。

 ふいに、球形の囲いが消失する。

 悪相の男はその場で、膝を突いていた。



「な、なんだ? 地面がおかしく……? いや、身体が言うことを聞かないだと……?」


「マジックハウス、ホーンテッドスウィング、マッドハウス。呼び方は数あれども、傾いた床や回転する室内を使って平衡感覚の狂いを楽しむアトラクションには、体質にも依るがめまいや吐き気が伴うものだ」


「またおかしなことを……」


「おかしくなんてあるもんかよ。要するに、三半規管を狂わせたのさ。地上で生きている以上は、天地の上下が必要になる。それが定まらなきゃ自由には動けない。空を自由に泳げるっていうなら、話はまた変わってくるんだろうがな」


「私は、自在の力を扱えるのだぞ! それがどうしてこんな弱い魔法に翻弄されなければならないのだ!?」


「自在の力ね。確かに、お前の言うその力ってのは、言葉通りなんでもできるんだろ。でも、それを使いこなすには必要不可欠なものがある」


「なに……?」


「それが、想像力だ。そして、そういう力は得てして天才って奴にしか使えないものだ。だろ? お前がもっと柔軟な思考を持っていて、飛躍した閃きがあって、言葉や行動からすぐに察知できれば、俺の魔法も防げたはずだ」


「馬鹿な……そんなことができなくとも、この力があれば誰をも凌駕することができるはずだ! そのはずだ!」


「それを引き出し切れてないから言ってるんだ。お前には過ぎた力だってことだったんだよその力は」


「調子に乗るな! いずれにせよお前の魔法などめまいを起こさせて動けなくさせるだけのものだ! こんなものすぐにもとに戻る!」


「だが、俺には十分な時間ができる」


「時間ができるだと? 仲間でも頼みにするのか」


「まさか。お前はこのまま俺が倒す予定だ」


「傷を与えることはできないとさっきから言っているだろう!」


「だからそれじゃあ範囲が狭いって言ってるだろ? 頭が足りてないぜ?」



 こめかみを人差し指でトントンと叩く仕種をする。煽っている。いや、あれは純粋に、わからずやに対して呆れているだけなのだ。あの人にとって、煽って隙を狙わなければならないような相手でもないのだろう。



「お前も生物である以上、必要不可欠なものがある。生命に必要な三要素はなんだかわかるか? その一つが、呼吸で取り入れるものだ。だが、問題はその呼吸で取り入れているなにが、生命活動に必須なのかというところにある」


「そんなものは空気に決まっているだろう!」


「違うな。俺が言っているのは、空気の成分のことだ。お前にわかるか? 俺たちの吸っているものが、一体どんな元素で構成されているのかってことを」


「く、空気は空気だ! それ以外に何があるというのだ!?」


「……酸素21%、窒素78%、アルゴン0.93%、そのほかもろもろが0.1%だ。そして、生物が最も呼吸に必要とするものは酸素であり、濃度がたった2%低下するだけで、人間の生命活動に重篤な支障を与える」


「なにを言っている!?」


「だから空気の成分だって言ってるだろうが。それが失われると人は死ぬ」


「胡乱なことを! そんなものはお前の考えたまやかしにすぎん!」


「それは……そうかもな。お前の言う通り、もしかしたらあの男の知識とはまったく違うかもしれないということは、俺も考えたさ。これまでもあの男の常識が役に立たなかったことが少なからずあったからな。だけど、これはもう証明済みだ。この世界は酸素もあるし、この世界の生物もまた、その酸素がなければ生きていけない。帝国の兵士はこれで倒すことができた。あとは……」




 ――お前も、その理論が通じる生き物かどうかってだけだ。




「その様子じゃもう人間辞めてるみたいだからな。もしかしたら酸素を必要としない生物なのかもしれない。そうなってくるとまた話は変わるんだが、これで判明するだろ」



 そう言うと、あの人が魔人のもとに歩み寄って行く。一方で魔人は足元が覚束ず、逃げることもできない。



「……クラウン、援護は」


『必要ないでしょ。君のお兄ちゃんの勝ちだ。あいつは君のお兄ちゃんが何をしているのか全然まったく理解できていない。そして死因は酸欠死。アハハ、聖なる力で追い払われるのが定番の悪魔の下僕が酸欠で死亡するとかまったくなんの冗談だって』



 クラウンは、まるで滑稽な見世物でも見たかのように、愉快そうに笑い続けるのみだ。

 どうやらあの人がどんなことをするのかも、この後ろの何者かにはわかっているらしい。

 あの人が、悪相の男の口元に手を差し向ける。



『――奪え。奪い去れ。奴の致命となるように。あらゆる吐息はこの手の前に絶え果てよ。酸の源を(さら)う手のひらよ、お前は吸気の収奪者』



「ガッ――」



 まもなく、魔人は白目を剥いてその場に倒れ伏した。

 あまりに、あっけなく。

 そして、あの人が口にするのは何の気ない言葉だ。



「ま、どんなことに対しても、やりようはあるってことさ」



 そんな声が、うつろな空間に響く。

 誰も彼もが、驚きで呆けていた。普段通りなのは、クラウンと会話していた自分とスウシーアくらいのもの。シャーロットでさえ、驚きを隠せていない。



 その一方で、クラウンが悲鳴のような声を上げる。



『うわ……なにあれこっわい呪文。完全に殺しにかかってるじゃんあんなの。行使対象が正面の空間だから、呪文に干渉するしか防御する術がないんじゃないあれさ。ナーヴレスの暗殺者だってあんな殺意の高い呪文使わないゼ? やっぱ君のお兄ちゃんおかしいよ』


「…………クラウン。酸素とは一体なんなのですか?」


『空気は……さて、メガスの語るところによれば、目に見えないほど細かい粒の集まりだ。君のお兄ちゃんの言った通り、複数の要素で構成される。生き物はそのバランスが大きく崩れると生きていけない。たぶん君のお兄ちゃんはそれを知ってるから、ああいった魔法が使えたんだと思うよ』


「どうしてそんなことがわかるのですか?」


『僕たちの時代じゃ常識だからね』



 クラウンは事も無げに言う。

 しかし、『僕たちの時代』とはそれは、一体いつのことを言っているのか。



「ではクラウン。兄様の言った、げんそ、というのはなんですか? 属性をつかさどるものとは違うようないい方でしたが」


『その呼び方は僕もよくわからないけど、話の流れからするに構成している成分とかの総称だと思うよ? さっき言ってたようにあそこまで細かく特定なんかできるのかは不思議だけど』



『まあ、問題はどうしてそれを、僕たちよりも細かく知っているのかってところなんだけど。ほんとどうなってるのさ君のお兄ちゃん』


「兄様は昔からこうです。あなたと同じように、多くのことを知っています」


『知識と、その知識を具現化できる識格? ヤバいね。これで魔力がリーシャちゃん並みにあったらとんでもない魔導師になってるんじゃない? いや、それもつい最近アレで克服したんだっけ……あー、やっぱヤバいわあの子』



 クラウンはそんなことを言っている。首を後ろに傾けて、大きく空を仰いでいる光景がありありと浮かんでくる、そんな言い草だ。



 ケインが呆然としたようすで口を開く。



「あんなに強かった奴が、こんな簡単に……」


「用意が良かったってことだな。やっぱり魔法はいろいろ作って持っておくべきだ」


「それでも、ですわ。あれは魔人の力を得た。それを何もさせないまま倒してしまうなど……」


「その魔人の力をうまく使えなかったから……つまりは宝の持ち腐れって奴ですよ。魔人の力が最強だとタカをくくって余裕ぶっていたからでしょう。あとは、まあこの前俺が魔力切れで何もできなかったからってのが大きかったんだと思います。油断しすぎだ」



 分析なのか。その話を聞いたスウシーアが、面白い皮肉を耳にしたというように、忍び笑いを漏らす。



「ふむ。宝の持ち腐れとは、なかなか面白い言い回しだな。確かにうまく扱えない宝は死蔵されてカビが生える運命よ」


「スウシーア様、余裕そうですね」


「よ……当然だ。私は何もしていないからな。そもそもアークスがいれば大抵なんとかなろう。それはシャーロットも知っていることだと思っていたが?」


「それはそうですけど」



 スウシーアの言に、シャーロットも同意する。

 ともあれ脅威は去った。そう思った。



 だが、あの人は魔人を睨み続けたままだ。

 ということは、だ。



「クラウン。まさかこれは……」


『……うん、そうだね。まだ油断はしちゃあいけないのかもね』



 あの人は雰囲気から察したのだろう。まだ、倒せてはいないのだと。

 スウシーアもそれを怪訝に思ったのか、あの人のもとに歩み寄る。

 そして、



「――アークス。まだ匂いが消えてない。これは……」


「やっぱりそう簡単に倒せるような奴じゃないのか。そりゃこんな簡単に倒せてたら、おとぎ話の主人公たちも苦労はしなかっただろうしな……」



 悪相の男が痙攣するように震えだしたのは、二人がその場から飛び退いた直後だった。






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