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第百三十七話 アークス・レイセフトの日記その一

ちょっと話がバラバラしているので、こんな感じに……


 ○月×日


 この日、魔導師ギルドの工房を訪れた。


 魔力計の増産を行って以降、魔導師ギルドには工房が設置されている。

 工房と言ってもただ作業所のみがあるわけではなく、工房の実務を行う作業スペースに、報告書作成の事務スペース、作ったものを動かすための実験室などだ。

 ギルドからかなりのスペースを融通してもらっていたが、それもこれも魔力計製作の実績のためのだ。もちろん国定魔導師たちの後押しもそうだが、それらがあったためその後の開発事業もスムーズに進んでいる。



 瞬間湯沸かし器のおかげで好きなときにお茶が飲めるし、冷蔵庫のおかげで食べ物、飲み物の保存も楽ちん。光源は輝煌ガラスがスイッチ一つで点灯するので手間が省け、エアコン完備のおかげで夏場でも快適に業務に従事できるといった近代的な職場環境が実現された。

 いまこの国で最も環境のいい職場だと言えるだろう。



 ……まあ仕事は常にブラックと隣り合わせなのだが。性質上どうしようもない。



 最近では魔法院の講義が終わると、すぐ赴くようにしていた。

 庁舎に入って魔導師ギルドの正面受付に差し掛かった折のこと。



 ふと、受付の方から声が聞こえてくた。



「えあこんがあるのはここか!」


「責任者を出せ!」


「うちに! うちにえあこんを! えあこんぉおおおおお!」


「病気の母が一目えあこんを見たいと!」



 ……魔導師ギルドの窓口には新し物好きの貴族が詰めかけ、わけわからんことを喚いていた。病気の母にエアコンは絶対関係ないと思う次第。



 窓口で彼らに対応する職員に心の中で謝りながら、そそくさと自分が管理する工房へと向かう。

 庁舎を抜けて向かうのは、ギルドの敷地の一角だ。

 ドアを開けると、職員たちが出迎えてくれた。



「アークス様!」


「おはようございます!」


「みんなおはよう。今日もよろしくな」



 挨拶をしてくれたのは、工房立ち上げ最初期である魔力計増産計画の頃に雇い入れた職員たちだ。ここに詰めている人間のほとんどは初めに錬魔力の精製を伝えたベテランたちであり、面子はほぼ変わっていない。

 それだけ、ここの職員の選別は大変だということだ。適当な人間を招き入れると情報漏洩の危険がある。不祥事や賄賂、ハニートラップなどもそう。危険は直接情報を狙ってくるスパイだけではないということだ。

 繁華街への飲み歩きには必ず素面の従者を付けるだとか、女性関係の報告は逐一しろとか。プライベートを完全無視した制限がいくつかあるが、職員たちもその条件を了承しているため、その辺りは問題ない。

 マイナス分は、手当や試作品の使用実験という名の開発品の優先的な提供で優遇している。



「アークス様。以前、案を出された虫よけの刻印の試作が完成しました」


「あ! ありがとう! やっといてくれたか!」



 虫よけ。要するにあの男の世界で言う、ぶら下げるタイプの虫よけプレートだ。

 王国でもすでに、毒物による殺虫剤の開発は進んでいるし、輝煌ガラスを用いた虫の誘引なども考えられているが、こういったタイプのものはなかった。



「この時期はありがたいですね」


「夏は蚊がひどくてなぁ」


「これの開発がうまく軌道に乗れば、農民だけでなくおそらく軍からの要望も出るかと」


「軍から? なんでまた?」


「行軍中は虫で困りますので」


「あー、虫に食われたり、食料やられたりするのか」


「ええ」



 確かに、見過ごせない敵だろう。軍隊は何も敵とだけ戦っていればいいわけではない。

 飢えに渇き、不安、気候、虫。

 それこそほとんどは周りの環境と戦っていると言っても過言ではない。

 そのうち行軍セットが必要になるかもしれないなどと考えつつ。


「……あっちの方はどうなってる?」


「例のものですね。歪みなく真っ直ぐ作るのが難しいらしく、ご要望のものはいまだ」


「そうか……」


「あとは内部の溝に関しても、見合わせさせて欲しいと相談が」


「そっちはいいよ。難しいもんな」


「アークスさまもこれから?」


「いや、そっちとは別のだ。個人的にやりたい研究。じゃあ俺、これから工房にこもるから」



 職員にそう言って、工房にある自分専用の個室に引きこもった。

 と言っても男の世界にあるような鏡張りの小さなオフィスだ。

 棚や台の上には、様々な物品が山になっている。すべて、試作で作ったものばかりだ。大抵は廃棄するのだが、別のものに利用できそうなアイディア性のあるものはそのまま残している。



 工房の設計台に向き合った。

 紙に書くのは、製作に必要な情報だ。

 どんな材料がどれだけ必要になるのか。

 そもそもどんなデザインにするべきか。

 まず魔力の漏出を制御する機構が必要だろう。

 放出した魔力が垂れ流しにならないよう、自動的に制御される開閉器を作るべきだ。

 思い浮かぶのは、真空管やトランジスタだ。

 幸い王国は輝煌ガラス事業のおかげでガラス工業が盛んであるため、容器の作製はそう難しくない。刻印で強度を持たせ、ガラスチューブを作るなどすればいい。



 ……これまでの実験で、わかったこともある。

 巻物(スクロール)に注ぎ込む魔力の量が増えれば増えるだけ、魔力の伝達速度が速くなるということだ。

 そうなれば当然、新たな課題が出てくる。

 魔法銀やその接触部にかかる負担だ。

 巻物(スクロール)は高温になるため、当たり前だが機構の各部にダメージが蓄積され、これを放置していれば壊れてしまう。

 となると、その負担を軽減するために、排熱する機能が必要だ。

 各部に耐熱部品を使うというのも手だし、発熱量を少なくするという考えも重要だろう。

 しかし、耐熱部品となると、発熱量を少なくするメカニズム的に難しい。もともと魔力のロスを減らすために悩んでの作製であり、常に発熱が付きまとうのだ。



 改善するには、排熱機構もしくは放熱器の作製が必要だ。

 材質の候補は鉄、銅、アルミニウム、セラミックだろう。

 鉄や銅は重たいし、アルミニウムに至っては独力での精錬は不可能だ。

 現物もないし、これをやろうとすれば大規模な事業クラスになるのは目に見えている。

 放熱用のセラミックもアルミニウム精錬時に、酸化アルミニウムが必要となるため不可能という訳ではないがほぼほぼ不可能。

 刻印で誤魔化すか、他のものを放熱素材として代用するべきか。



「なんにしても電池みたいな役割が持てる物質があればいいんだけどなぁ……」



 むしろそんなものが存在すれば、こうして魔力消費を抑える機構を作らなくてもいいのだが。

 ともあれ、これに当たって使用する魔力の計算のやり直しも必要となる。

 課題はまだまだ山積みだ。

 これほど栄養ドリンクが欲しいと思ったことはない。

 睡眠時間が削られそうだ。最近はどうにもあくびが止まらない。



 ●


 〇月〇日


 この日は珍しいことに、屋敷に客人が訪れた。



 突然の訪問者に応対したカズィが口にしたのは、意外な人物の名前だった。



「カルダート・ディンバーグ?」


「ああ、人の良さそうな顔したじいさんだ。なんかジジイの割には随分足腰がしっかりした印象だったがよ」


「前に会ったことがある」


「そうなのかよ? じいさんに知り合いがいるとは意外だな」


「この前、細剣術の道場に行ったときにちょっとな。そのうち挨拶に来るとか言ってたけど、ほんとに来るとはな」


「なんだそりゃ? 知り合いってわけでもねえんだろ?」


「そうなんだよな。なんでまた直接挨拶になんか来たのか」


「ともかくだ。どうする? 先ぶれもねえし、特に知り合いでもないんなら、適当に言い訳して追い返すのもありだと思うが?」


「いや、相手はクレメリア伯爵の知り合いだ。そのまま応接室で待ってもらっててくれ。会う準備をする」



 カズィにそう言うと、手早く身だしなみを整えて準備を済ませて応接室に向かった。

 塔の部屋のドアを開けると、応接用のソファに小奇麗な老執事が腰掛けていた。

 間違いない。以前に細剣術の道場で会った、カルダート・ディンバーグだ。



 こちらが入室したのに合わせ、カルダートも立ち上がって礼を執った。

 シワ一つない執事服と片眼鏡が特徴的で、まさに執事という言葉がぴったり合う見た目。背筋は真っ直ぐ伸びており、立ち姿もシャンとしているため、持っている杖が実は仕込み杖なのではないかと思ってしまうほどだ。



「ディンバーグ殿。ご無沙汰しております。ようこそ我が屋敷においでくださいました」


「いえ、この度は先ぶれもなく押しかけてしまい申し訳ございませぬ。アークス様とは大した面識もないにもかかわらず、こうして迎え入れていただけたこと、感謝いたします」


「これも以前お会いした縁でしょう」


「は。そう言っていただけるとありがたいですな」



 笑顔を見せると、カルダートも笑顔を返す。

 そのままてくてくと歩いて対面のソファに腰かけた。

 カルダートもそれを見て、ソファに腰を掛ける。



「それでディンバーグ殿。今日は一体どんなご用件で」


「はい。それについては――」



 用件に移ろうとした折、部屋にノックの音が響いた。

 次いですぐに、ドアの外から声がかかる。



「お客様がおいでになったとお聞きしましたが」



 声の主はノアだった。ちょうど別の仕事を任せていたのだが、それに一段落付いたのだろう。

 入ってくれと声を掛けると、ドアが開かれ、すぐに怜悧な美貌が入ってくる。



「失礼いたします」


「ああ。それでノア、この人は」


「これは……」



 ノアにカルダートを紹介しようとすると、ノアが驚いたような表情を見せる。


 一方でカルダートが立ち上がって真っ直ぐ背筋を伸ばした。

 やがて、腰をきっちり四十五度曲げて、ノアに対して礼を執る。



「坊ちゃま、ご無沙汰しております」


「へ? 坊ちゃま?」


「ん? 坊ちゃま?」



 坊ちゃま。あまりに耳慣れない言葉を耳にしたせいで、カズィと二人、間の抜けた声を出す。

 カルダートがお辞儀をして、挨拶をした相手はノアだ。

 その一方で、ノアは少し恥ずかしそうにしている。

 目を瞑って、なるべく顔が紅潮しないよう堪えているかのような表情で。



「その……(じい)。坊ちゃまはよして欲しいと言ったはず」


「おお! これは申し訳ありませぬ。いやはや私もそろそろ耄碌してきましたかな」



 カルダートは生真面目な老執事然とした態度を一変させ、まるで好々爺が見せるようなとぼけたような笑みを見せる。

 二人の態度から、どうやら知り合いらしいことはわかるのだが。



「なあ、坊ちゃま。ディンバーグ殿とは知り合いみたいだけど、どんな関係なんだ?」


「そうだな。俺も知りたいぜ、坊ちゃま」


「……お二人とも」



 カズィと二人でニヤニヤしていると、ノアは非難するような視線を向けてくる。



「坊ちゃま、仲のよろしい主と同僚がいるようですな」


「カルダート……」



 カルダートの発言を聞いたノアは、珍しく頭痛そうにしている。魔法関連の話で彼に頭を抱えさせる事柄はよくあったが、こういったおちょくるような事柄ではそうそうなかった。



 ノアはなにか言い返したそうにしていたが、すぐに諦めてカルダートの紹介に移る。



「アークスさま。こちらはカルダート・ディンバーグ。以前に私の家で執事長をしていた者です」


「改めまして、カルダート・ディンバーグと申します。ノア様が御幼少のころより、ノア様のお家にお仕えしておりました」


「食えないジジイですがね」



 ノアがジト目で睨むが、しかし言われた当人といえば涼しいものだ。

 どこかの主従のやり取りを客観的に見ているかのような錯覚を覚える。

 そもそもノアが他人にこんな態度を取っているのも珍しい。

 ともあれ、



「カルダート殿は細剣術の名人って聞いたけど?」


「はい。爺は剣一本で勲爵位を得たほどです」


「剣一本で」


「もちろん戦場で功を上げたというのもありますが」


「いえ、お恥ずかしいことです」



 カルダートは謙遜するが、とてつもないことだ。身一つ、一芸を突き詰めて名人にまで至ったこともそうだが、それで勲爵位を得たというのは並大抵のことではない。



「じゃあノアの細剣術も?」


「はい。カルダートの仕込みです。執事としての心構えもカルダートから教わりました」


「キヒヒッ! 育ちが良さそうだからお前もどっかの貴族の出とは思っていたけどよ」


「と言っても小さな男爵家です。庶民とあまり変わりありません」


「そういう謙遜してるヤツに限って、結構なところの出だったりするんだよな」


「でもイングヴェインなんて貴族家の名前聞いたことないんだよなぁ」


「それに関してはまたいずれ」



 ノアはそう言って話を終わらせると、カルダートの方を向いた。



「それよりも爺。どうして王都に? 北の方で隠居するのでは?」


「久しぶりに坊ちゃまのお顔を拝見したく思いまして」


「ですが、私に会うだけの用でわざわざアークスさまの屋敷に訪ねてくるのはいかがなものかと思います。アークスさまは多忙なお方です。ご迷惑を考えていただかねば」


「いえいえ、こんなやり取りがあれば驚かれるかなと思った次第。人生意外なことがあった方が面白いもの。それに突発的な事態に直面したときの予行にもなりますゆえ」


「まったくお前はいつも口の減らない……」


「皮肉であれなんであれ、口数は手数と同じく多い方が人生を切り抜けられるもの。何事にも通じるコツでございますれば」



 そこで、ピンと来る。



「ん? じゃあノアが毎度毎度余計な言葉がくっついてるのも?」


「これはこれは……弱りましたな」



 カルダートに訊ねるような視線を向けると、言葉とは裏腹にまったく弱っていないような笑みが返ってくる。むしろ、愉快そうだ。

 どうやらノアが余計なことを口にする元凶はここにいたらしい。



 非難のジト目を向けると、笑いを堪えているような忍び笑いが漏れてきた。



「前に訪ねてくるって言って、それから結構時間があったけど」


「それが、いろいろと断れない筋からのお誘いが多く……。申し訳ございません」


「カルダートは細剣術の名人ですからね。こんな性格でも召し抱えたいというところは多いでしょう」


「上級貴族から勧誘を受けていたと」


「はは。このような老人でも、召し抱えたとなれば見栄になると思っているのでしょう」



 貴族は見栄の文化だ。もちろんそれがすべてではないが、常に他の貴族にマウントを取りたがる者が多いのも事実だ。政治的な有利を取る目的もそう。派閥を作り支持者を集めるのもそう。

 有能な者を部下にすれば、自然に主人の評判も上がる。そういった目論見で声を掛ける者があとを絶たなかったというのは、容易に想像することができる。



「爺。今後はどうするのです? やはり北に戻るのですか?」


「いえ、しばらく王都にいるつもりです。最近では宗家の道場に顔を出すのも日課となっておりますので」


「そうですか。では、たまに私も顔を出しましょう」


「腕は腐らせていませんかな?」


「誰に言っているのです?」


「では、久しぶりに味わう坊ちゃまの剣技、楽しみにしていましょう」



 カルダートはそう言って、愉快そうに笑っている。

 というか、結局カルダートは坊ちゃま呼びをやめないらしい。



 ノアとカルダートが談笑している中、ふとカルダートの表情が優しげなものに変わる。



「坊ちゃま」


「なんです?」


「いえ、お顔が以前よりも明るくなったと思いまして」



 それはどういうことなのか。しかし、ノアには心当たりがあるようで。



「……ええ。結局、爺の言う通りになってしまいましたからね」


「それがよろしいでしょう。溶鉄の魔導師様には感謝せねばなりますまいな」


「カルダート」


「私も複雑な部分はございますが、あれは旦那様が望んだこと。散り際を選べるのは、武人として幸せなことだったと存じます」


「…………」



 ノアは、北側の窓を見て黙ったまま。

 おそらくいまの話は、彼らの深部にかかわる話なのだろう。

 しばらく世間話などに興じ、カルダートが屋敷を辞したあと。



「伯父上以外にノアの知り合いに会うのは初めてだな」


「……いろいろありまして、私の知り合いというのは数えるほどしかいないのです」


「そのうち、その辺りの話も聞きたいな」


「ええ。いずれお話いたします」


「ああ。坊ちゃまだった頃の話とか楽しみにしてる」



 そんなことをおどけて言うと、ノアらしい切り返しが浴びせられる。



「では私も執事らしく、アークスさまのことを坊ちゃまとお呼びいたしますか?」


「う……それはやだな」


「でしょう? しかも私はこの歳になっても坊ちゃま呼びされるのです。たまったものではありません」


「うん。まあ、そこは同情するよ……」


「キヒヒッ! こいつの場合坊ちゃまって言うよりは――」


「おい! その先は言わせねえよ!?」



 余計なことを言おうとしたカズィに、すかさず突っ込みを入れて黙らせた。



 ●



 ○月×日。


 設計台に向かい合ってから数日後のこと。

 一応、仮のものは完成した。



 魔法銀を魔力の伝導体にして、改良を加えたチューブを利用し、それを手で保持する部分を製作。巻物と直接触れないようにすることによって熱が伝わることを防ぎつつ、巻物(スクロール)への魔力注入から排出までを手を触れずに行うというものだ。



 排熱機構に関しては錬魔銀を膨張させて、逐次放熱板を露出させるというものにしたのだが――アイディアを盛り込んだ結果、よくわからないごつい機構になってしまった。



「…………」



 出来上がったものは、ただひたすらに大きくてごつい長方形の何か。

 これが何なのかと他人に訊ねて、「敵を殴る鈍器だ」と返されても、反論できない域にある。当初考えていた携行性に優れたものを作ろうという考えは一体どこに行ってしまったのかというほど、持ち運びにくく扱いにくいものになってしまった。

 機動性がまったくの皆無で、取り回しが面倒。持ち歩くのにも、バックパック化を考慮しなければならないほど。



 デカい盾を持っていると思えばいいのだろうが、内部機構が存在するため、そんな風にも使えない。



 しかも、使ってみるとうまくいかなかったというていたらく。

 パッケージングした巻物(スクロール)を装填して魔力を注いだのだが、各部に充填した錬魔銀は予想外な膨張を見せるし、巻物(スクロール)は魔法銀をもとに算出した数値以上の熱を発するしで、予想外のことばかり。

 しかもなぜか魔法は成立せず、詠唱不全になってしまった。

 幸いだったのは、錬魔銀の膨張でできた隙間から、きちんと熱が排出されたことだろう。



 ただ……、


(計算で出た以上に魔力の消費が少ないみたいなんだよなぁ。これはどうなってんのか)



 巻物(スクロール)使用時に消費する魔力は、規模の小さい魔法をいくつか使って必要魔力の減少比率を求めて算出した。だが、そこから割り出した比率と実際に使用する魔力量に大きな差が出ているらしいのだ。

 結局それで、詠唱不全だ。

 魔力を過剰に注ぎ続けたときに起こる暴走めいた現象が起きるようになってしまった。

 計算上は合っているはずなのだ。

 にもかかわらず、魔力が多すぎるという状態に陥っている。

 熱が発生して、魔力が損をしているはずなのに。

 ということは、だ。



「うーん、どういうことなんだろ?」



 予想以上に魔力消費が少ないのはありがたいことだが、計算が合わないのはやはり困る。

 結果、今回の実験でまた悩みどころが増えてしまった。

 問題はまだまだ山積みである。

 睡眠時間がまた削られるだろう。




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