第九十九話 論功式典
論功。
それは主君が戦功を挙げた部下を表彰し、功の度合いによって褒賞の授与や領地の分配、陞爵や任官を行うことである――というのが、一般的な論功の在り方だ。
当然ライノール王国の論功も、その例に違わず、論功式典と銘打って今回の戦で活躍した者たちに褒賞の授与などを行うという。
式典が執り行われる場所は、王城内に複数ある大広間の一つだ。
戦に参加したすべての者が呼ばれるというわけではないが、主立った手柄を挙げた者は必ず招待される。
(……今回、奇襲のときに挙げた手柄のほとんどは殿下のものになるんだったな)
以前国王シンルに謁見した際にも話があったことだが、あのときの活躍については、ほぼなかったことになった。
セイランの活躍を水増しし、箔をつけるため。
奇襲によって追い詰められたことを隠すため。
あとは、手柄の大きさの調整と、近衛たちの名誉のためということもあるのだろう。
それらの理由があり、あのときのことは『帝国はセイランに奇襲を仕掛けたが、あっさり返り討ちにあった』というストーリーに再構築された。
……というかもともとデュッセイアにとどめを刺したのはセイランなのだから、手柄の所在はセイランにあるのだ。
奪われた、取り上げられたという気持ちは微塵もないし、むしろこれが当然だと言える。
それでも、感状と報奨金くらいは得られるだろう。
ノアやカズィも活躍したので、あとで彼らのものと一緒に、新しく買った自分の屋敷に送られて来るはずだ。
今回は、式典に出席して観覧させてもらえるという栄誉を喜ぶべきだろう。
これだけでも、廃嫡された子弟には破格な待遇である。
しかして式典当日、アークスはノアと共に王城へと向かった。
例によってカズィは格式張った場所を嫌ってお留守番。ノアに「いつかは出てもらうことになりますよ」というお小言を貰いながら、三角巾とエプロンを着けて新しい家の掃除や荷物の整頓などに勤しんでいた。
…………なんだかんだ家庭的なのは、兄弟の面倒を見ていたからなのか。
ともあれ、式典が行われる会場は長く広く、二階両脇にはバルコニーが設置されているという規模のもの。
部屋の奥は王が腰を掛ける椅子があるため、かなり高くなっており。
いまだけ御座所の御簾は上げられ、姿が見えるようにされている。
一方でその他の場所は、どこを見ても、人、人、人だ。
一階広間には招待された者たちが規則正しく並んでおり、ほぼ人で埋め尽くされているといった状況である。
ふいに学校の入学式や卒業式、大会社の入社式などが思い浮かぶ。
当然、規模はこちらの方が大きいのだが。
「すげぇ人……」
「戦でご活躍された方々やそのお付きの者たちの他に、王国の武官貴族、文官貴族。そして友好国から招かれた来賓の方々もいらっしゃいますので」
「……ということは、あのクソ親父も?」
「いえ、ジョシュアさまは現在東部に出向中とのことで、招待されていないようです」
どうやらジョシュアは王都にも居ないらしい。
これで、今回顔を合わせる可能性はなくなった。
そのことにひとまず安堵して、再度周囲に目を向ける。
大広間の脇には、国軍を率いる近衛将軍、そしてクレメリア伯を含む東西南北将軍四名と現在臨時で任命されている将軍二名、国定魔導師十二人。もちろん、伯父クレイブの姿もあった。
一方で王が座る舞台の両翼には、傘下の独立君主たちの席が設けられている。
国定魔導師たちもそうだが、こちらも誰も彼もが一癖も二癖もありそうな者ばかり。
当然その中には、今回の主役の一人であるルイーズの姿もあった。
ふと前方の列に、知っている顔を見つける。
「お、ディートだ」
「ルイーズさまがご活躍され、ディートさまもいち部隊を率いて戦われましたからね」
「ディート、もしかしたらここで名前を呼ばれるかもなぁ」
「可能性は大いにあると思われます」
だろう。戦の後半では、敵横陣に突撃してポルク・ナダールの背後を脅かしたし、従士の首級もいくつか挙げたと聞いている。功の等級こそわからないが、呼ばれてしかるべき活躍はしているはずだ。
他には、北部連合からの貴賓や、サファイアバーグの将軍や貴族たち。
大広間の二階席を見ると、和風と中華風がごっちゃになったような服装をした者たちの姿もあった。
「もしかしてあれって東方の?」
「ええ。おそらく佰連邦の貴賓でしょう」
「佰連邦からも来てるのか……」
これも、クロセルロード家が東方と縁深いためだろう。
東クロス山脈を越えて、超大国がわざわざ祝辞を届けに来た。
それだけでも、式典に箔が付くというものだ。
よく見れば舞台の袖などにも、他国の使者らしき者がちらほらいた。
今回の戦は、傍から見れば、いち貴族の反乱という国内の不祥事であり、内外に喧伝するのは外聞的にもよろしくない。
貴賓は招かないのが一般的だが、今回は帝国が暗躍していたということもあり、その糾弾もかねて盛大にやるらしい。
それに、ここに集めるのはギリス帝国と敵対している国ばかり。
戦としては快勝ということもあって、うまく同調してくれるだろう。
……準備が整ったのか、やがて式典の進行役が、舞台の袖へと歩み出る。
そのまま、式を始める挨拶を行うと、国王ならびに王太子が入場。彼らがそれぞれ席に着くと、進行役が口を開いた。
「――今回のナダールの反乱は、ギリス帝国が企てた卑劣な策略だった。しかし、王太子殿下はその策略を見事跳ねのけ、王国に勝利をもたらされた」
進行役は、戦争のあらましを述べていく。
ときに抑え気味の口調で。
ときに怒りを露わにし。
列席者の心情に訴えかけるように、抑揚強く感情豊か。
一通り経緯の説明が終わると、他国の使者が国王シンルの前に立って次々祝辞を述べていく。
「――このたびは戦勝、おめでとうございます」
「――王国の快勝、まこと慶賀のいたりにて」
「――これもクロセルロード王家の威光ゆえかと」
などなど。
まずは戦の勝利について、形式的なやり取りが繰り返される。
それが終わると、今度は国王のお言葉だ。
「ライノール王国国王、シンル・クロセルロードだ。まず、このたびの式典に際し、遠路より来られた貴賓の方々に、ねぎらいと御礼を申し上げる」
国王シンルは貴賓に対し謝意を示すと、次いで、
「そして論功の儀に先立って、まず申し伝えることがある。この度の戦で我が太子セイランは初陣にもかかわらず総大将を勤め上げたうえ、戦に勝利し、そのうえギリス帝国東部方面軍副将デュッセイア・ルバンカを討ち取る大功まで挙げた。ここではまずその活躍を評したい」
……セイランの活躍は、論功とはまた別だ。王太子が総大将である以上、手柄はセイランが一番でなければならないし、しかし褒賞を与える側であるため、功第一等にしてはいけない。
そのためこうして、最初に別枠にしてその活躍を褒め称えるといった形式執っているのだ。
進行役の官吏が「王太子殿下、どうぞ前へ」と言うと、用意されていた鐘が盛大に鳴らされる。
やがてその鐘が鳴り止むと、今度は沢山の拍手が打ち鳴らされて、セイランが国王の前に歩み出た。
「――ライノール王国王太子の地位に恥じぬ活躍、見事だ。これからも王国のため、民のため、よく励め」
「は! 今後も、精進いたします」
シンルとセイランのやり取りが終わると、使者たちが改めて王太子セイランもとを訪れ、の活躍に祝いの言葉を述べていった。
「ではこれより論功の儀に移る! まずは此度の戦にて大きな功を挙げた者から順に、国王陛下より、畏くも手ずから褒賞が下賜される! 呼ばれた者は心してこれを受け取るように!」
進行役の発言のあと、わずかな間。
ふとドラムロールが頭の中に響くが、当然ここでそういった演出はなく、会場内は静謐なもの。
やがてしんと静まりかえった大広間に、進行役の声が響き渡った。
「――功第一等はラスティネル領領主、ルイーズ・ラスティネル閣下!」
周囲からはどよめきと共に、「さすがは馘首公……」「やはりルイーズ閣下か……」などと声が上がる。
「ルイーズ閣下におかれては、ミルドア平原の戦で中央突破の大役を勤め上げ、そして攻城戦において一番に乗り込み、敵首魁であるポルク・ナダールの首級を挙げ、この戦に終止符を打たれた! その活躍を鑑みて、功は第一等とし、金500と、大十字殊功勲章を授与、旧ナダール領メイスバ、ロシュナー、ラートを割譲することと相成った! ではルイーズ閣下、陛下の御前に参られよ!」
「ああ」
ルイーズが進行役の言葉に頷いて、前に出る。
この日の出で立ちはしっかりしたもので、以前見たような山賊を思わせる野性味はまったく感じられない。まったく軍の女将校といった風体だ。
彼女が動くと同時に、官吏が複数人、国王シンルの側に歩み出た。
官吏たちはみなそれぞれトレーを持っており、その上には感状や勲章の他に、金銭と交換するための割符や、領地割譲に関する書類などが置かれている。
「よう、ルイーズ」
「は。国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「帝国のことになると、いつもお前のところに助けられるな」
「お望みとあらば【馘首】の名において、いくらでも首を挙げてみせましょう」
「頼もしいが、あまりやり過ぎると他のヤツらの手柄がなくなるからな、ほどほどに頼むぜ?」
「お約束はできませんね。なにぶん剣が首を欲しがるもので」
「くく……そうか」
シンルは冗談交じりのやり取りのあと、凜とした表情を見せる。
そして、
「ランを助けてくれたこと、礼を言う」
「勿体なきお言葉」
そう言い合うと二人、こん、こんと、軽く拳をぶつけ合った。
ルイーズも宗主国の国王相手に随分と気安いが、もしかすれば、シンルと傘下の君主とは、だいたいがこんな関係なのかもしれない。
他方、ディートは不満げな顔でぶつぶつ口を動かしている。
唇の動きを見るに、どうやら「……カーチャンに手柄を取られた」とぶーぶー文句を言っているらしい。なんというか、相変わらずである。
ルイーズはお付きの者に褒賞を山盛り持たせると、それをその場でこれ見よがしに掲げさせる。
最も功を挙げたということ、それに対しこれだけ褒賞がもらえるということを、アピールしているのだろう。
盛大な拍手と歓声が巻き起り、ルイーズはその中を戻っていった。
……ある意味何が起こるか分かり切っていたルイーズの表彰が終わると、シンルは進行役の言葉を待たず、口を開く。
「功第二等は、シャールマン、そして、ローネルだ。戦場にバルグ・グルバが現れたにもかかわらず、これと戦い、一歩も退かなかったと聞いている。オレはその勇を評したい。二人とも、前に来い」
国王から直接呼ばれたためだろう。シャールマン伯爵、ローネル男爵は、緊張でピンと背筋を伸ばしたまま、部隊の前へと歩み出る。
見ればローネル男爵は顔に大きな傷を作り、女伯爵であるシャールマンは片腕を失っている。どちらも、バルグ・グルバとの戦いで負ったものなのだろう。
功よりも忠義を第一にするという論功の査定も、なかなか珍しいのではないか。
というか、あの部隊ごと食い潰しそうなとんでもないのと戦って、一歩も退かずにその動きを食い止めたのだ。
それだけで十分大手柄だと言えるようにも思える。
一方で、来賓たちもバルグ・グルバについては、随分と重要視しているらしく「あのバルグ・グルバと……」「生き残っているだけでもすごいぞ」などと、大きな驚きと感心の言葉を漏らしていた。
こんな風に、手柄らしい手柄というわけでないにもかかわらず、誰も不可解に思わない、ということは、だ。
(……あれ、やっぱヤバいの?)
(……バルグ・グルバは近隣諸国に恐れられる帝国最強の将です。あの男によって多くの将や王族が討ち取られ、落とされた国も少なくありません。近隣にはあの男への恨みを持たないものなど一人もいないと言われているほどです。バルグ・グルバの前には、ルイーズ閣下の名声さえも霞むでしょう)
(マジか……)
あの猛牛、それほどなのか。
いや、確かにあの威圧感や戦いぶりはものすごかったのだが、まさかそれだけで功に見合うものになるとは思わなかった。
それだけ、帝国とあの怪物を取り巻く事情が特殊だということだろう。
シンルが再度口を開く。
「手柄ではない。だが、戦場でその勇を示し、横陣の崩壊を食い止め、王家への忠義を見せた。これは功第二等に相当するものだ。シャールマンには金200とロベリアを割譲、ローネルは子爵に陞爵、そして二人に武功十字勲章を授けるものとする」
まさかの領地割譲と陞爵に加え、勲章の授与だ。
シャールマン伯爵、ローネル男爵ともに、驚きながらも国王の前に歩み出る。
シャールマン伯爵は緊張した様子でシンルの言葉を受け、その一方でローネル男爵は国王に直接賞されたからか、男泣きまでしているほどだ。
主君から直接努力を労われれば、恩顧を受ける家臣は感無量ということなのだろう。
頑張ったことを褒められると嬉しいのは、誰でも同じ。
なんとなくだが、大河ドラマでも見ているような気分になって、こちらまでもらい泣きしそうになる。
シャールマン伯爵とローネル男爵は、拍手と歓声の中、もといた場所へと戻っていく。
(はー、みんなすごいなぁ)
なんというか、もうそんな感想しか思い浮かばなかった。
すると、ノアがどことなく呆れたような息を吐く。
(……アークスさま、随分と暢気に構えていらっしゃいますね)
(だってこの式典、俺にはほとんど関係ないし)
(そんなことを言っていると、呼ばれたときに泡を食いますよ?)
(まさか! 成人もしてない貴族の子弟が呼ばれるなんてことあるはずないだろ?)
基本的にここで呼ばれる者は、主立った手柄を挙げた人間であり、相応の地位がある者ばかりだ。
自分などは地位もない、さらには一兵卒にも満たない立場なのだ。式典で呼ばれることなどまずあり得ない。
ともあれ、ノアとそんな話をしていると、
「――そして功第三等は……レイセフト子爵家長男、アークス・レイセフト!」
そんな風に、自分の名前が呼ばれた気がした。
(ほらな、そんなことあるはず……)
(あるはず……なんです? いま随分と聞き覚えのある名前が聞こえたようですが)
(…………)
顔を上げると、進行役がこちらを見ていた。
「…………へ?」
頭の中が疑問符で満たされる中、やにわに会場内が騒がしくなる。「一体誰だ?」「レイセフトの……長男だと?」「何故西部の戦で東部の家の名が?」など、当然周囲から上がるのは困惑の声ばかり。
戦に加わっていた人間ならいざ知らず、他に集められた貴族たちは知る由もない。
ざわめきが次第に大きくなる中、進行役が功の内容を語り始める。
「此度は事前に王太子が狙われることを察知し、情報の集積場を襲撃。ナダール離反と帝国との内通の証拠を見つけ、王太子殿下のナダール領脱出に一役買い、戦においては、帝国軍魔導師部隊を撃破殲滅。そして、ナダール軍従士筆頭【猪矛】バイル・エルンを一騎打ちにて討ち取った」
確かに、それらは今回の旅で自分の行ったことだ。
内通者たちの捕縛に協力し。
セイラン救援に一役買い。
魔導師部隊を【輪転する魔道連弾】で壊滅させ。
言われてみれば、セイランの命令で一騎打ちのようなこともやっていた。
(……へー、俺って結構活躍してたんだなー)
(……何を他人事のように言っているのですか? もしやご自覚されていなかったのですか?)
(……だっていろいろと夢中だったし!)
ノアとそんなことを言い合う中も、進行役は話を続け、
「それらの活躍を鑑み、此度の功は第三等! 金100の授与に加え、白銀十字勲章を与えるものとする。アークス・レイセフト! 陛下の御前へ!」
まさかのお金と勲章の授与である。
(ま、マジか……)
金100という破格の大金もそうだが、驚くべきは与えられる勲章だ。
白銀十字勲章。戦で目に見えた活躍をしなければ与えられないような勲章であり、国内の人間、将軍以下の者に与えられる勲章では、黄金十字勲章に次いでグレードが高いとされている。
思ってもみないことにこちらが怖れ慄く一方で、ノアはしれっとした様子で手を叩く。
(アークスさま、おめでとうございます)
(なんでいつも通りなんだよお前は!)
(まあ、いつも通りのことですからね)
何がいつも通りのことなのか。
ともあれ、進行役に御前に出ろとは言われたが、どうすればいいのか。
緊張と混乱で動けずにいる中、徐々に焦りが生まれ始める。
(な、なあノア? これって本当に前に出ていいのか?)
(アークスさま。いいもなにも、呼ばれたのですから前に出ないといけませんよ?)
(そうだけどさ……)
(皆さん待っています。さあ、覚悟を決めてください)
ノアに背中を後押し(強制)されて、戸惑いながらも人をかき分け、赤絨毯の広がる通路へと出る。
すると、当然のように周囲から驚きの叫びがあがった。
「こ、子供!? 子供ではないか!」
「バカな、あの背格好、まだ十やそこらだぞ!?」
「あの子供が【猪矛】を一騎打ちで……? な、なにかの冗談ではないのか!?」
驚愕が周囲に伝播し、会場内は尋常ではない喧騒に包まれる。
当然だろう。こんな子供が武勲を挙げたなど、にわかに信じられるはずもない。
そもそも、武勲を挙げた本人が困惑しているのだ。もはや会場はどこもかしこも混乱の極みである。
「みな御前であるぞ! 私語は控えよ!」
近衛のエウリードが注意の声を張り上げると、やがて会場内が平静を取り戻す。
その機を見計らって、セイランが椅子から立ち上がって前に出た。
「アークスの活躍については、余が証明しよう。従士長との一騎打ちは余が命じ、余が求めた通り見事その首を余に捧げたのだ。無論、それは近衛も見ていることだ」
セイランが武功の中身を保証すると、会場は今度こそ水を打ったように静まり返った。
まだ半信半疑の者も多いようだが、まさか論功に偽りがあるはずもない。
そのまま赤絨毯の上を歩いて、国王シンルの前に出る。
見れば、どこか笑いをこらえているような表情。
「どうやらきちんと驚いたみたいだな。顔に書いてるぜ?」
「それは……当然目立った手柄はないものと考えていましたので……」
「そいつは、考えが甘いな。激甘だ」
シンルはそう言うと「中身のわかってるびっくり箱じゃ、誰も驚けないからな」と囁いた。
ということは、こちらの驚いた顔を見たかったということか。なんとも人が悪いことである。
ともあれと、シンルはすぐに真面目な表情を見せる。
「やれやれまさか子供に戦の褒賞を与えることになるとは思わなかったな。長い王国の歴史の中でも、成人前の論功で十字勲章をもらうなんてめちゃくちゃをやった奴はお前が初めてだろうよ。しかも、お前にはデカイ手柄がもう一つ残ってるときた」
聞こえよがしの言葉に、再び会場内がざわつき始める。
国王の口から、さらに自身が表彰される旨を示唆した形だ。
これについては、貴賓までもが興味を示し始めたのか「まだ何かあるようですな」「ここで表彰されないということは、戦とは別のものか」などと声が聞こえてくる。
「あっちはこちらの準備が整うまで待っていろ。式典は盛大にやってやるからな」
「は、はい。ありがたき幸せにございます……」
「この功績に満足することなく、さらに励め」
「ははっ!」
シンルから感状を受け取り、再度礼を執る。
そして、官吏から割り符と勲章を受け取ると、先ほどのルイーズや伯爵たちのように、拍手と歓声が巻き起こった。
いまは無数の眼が、こちらを向いていることだろう。
多数の視線が向けられているせいか、背中がぞくぞくと粟立って仕方がない。
だが、注目されるというのも、存外悪くないものだ。
注目を集めることの楽しさ。
それが羨望であるからこその嬉しさ。
これまで受けられなかったものが、一気に手に入ったような気分になる。
我ながら俗っぽいことだが、随分と気分がいい。まったく胸のすくような思いだ。
これが、これまでの努力の結実なのだろう。
ふとクレイブの方を見ると、この活躍を喜んでくれるように、屈託のない笑みを向けてくれた。
……表彰を終えて、もといた場所へ。
戻り道の赤絨毯が、ひどく見えにくかったのが印象的だった。