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第一話 夢から覚めたら廃嫡されてた



 子爵家の子弟、アークス・レイセフトは、その夜、おかしな夢を見た。



 それは、一人の男の一生だ。アークスが生活するこの世界とはまったく違う世界の、平凡な家庭に生まれた男のもの。十代、二十代前半を学業に費やし、ふとした事故で死んだという、どこにでもあるようなありふれた人生である。



 アークスは、それを追体験した、とでも言えばいいのか。

 男の世界の学校で習った歴史や文化に触れ。

 この世界とはあまりにかけ離れた技術である科学の存在を知り。

 大会で賞を取り。

 友人と交流し。

 そして、恋人を作った。



 いつも見る夢は無軌道であやふやなものなのにもかかわらず、その夢はとても現実味を帯びたもので、夢と言うにはあまりに鮮明なものだった。

 さながらそれは、男の世界で言う夢オチの逆バージョンか、男の世界の学問にあった『胡蝶の夢』のようなものだった。

 もしかすると、実はアークスという存在はそもそもなく、このアークスの目覚めは、事故に遭った男が今際の際に見ている夢ということも考えられた。



 それほどまでに、その夢は長く、そしてアークスに大きな影響を与えていた。

 起きて目が覚めると、レイセフト家のベッドがその男が毎日寝起きしていたベッドだと勘違いしてしまうほどに。



 いや、すでにかなりの自我を、男に引っ張られているという自覚がアークスにはあった。

 人の性格はこれまでの経験によって形成されるというが、アークスが六歳という年齢にもかかわらず、いまは男のように、成熟した大人の思考を獲得している。



 なにより、結婚目前で死別する羽目になった男の彼女のことを考えると、自然と涙があふれて来るのだ。まるで自分のことのように。アークスが男と同化してしまったということは、疑うべくもない。

 その日の日中は、それのせいということもあるが、様々な要因が重なり、ひどい熱を出した。体温はみるみる上がり、男がインフルエンザという病気に罹ったときに相当するほど、アークスは体調を崩してしまった。



 アークスがベッドで寝込んでいるとき、使用人とは違う格好をした男女が見舞いに訪れた。

 銀色の髪をした男と、この世界ではありふれた茶色の髪を持った女だ。もちろん、アークスはその二人のことをよく知っていた。



 アークスの両親である、ジョシュア・レイセフトとセリーナ・レイセフトだ。



「父上……母上……」



 アークスは熱に浮かされながらも、血を分けた両親に呼びかける。

 助けて欲しいと願うように。

 だが、次の瞬間、アークスの顔を覗き込んだ二人の表情が、ひどく歪んだものとなった。



「……しぶとい子供ですね」


「……そうだな」



 それはまるで、地べたを這いずる虫けらでも見たかのような言い草だった。

 両親から向けられたのは、あまりに冷え切ったまなざし。



 そこで、アークスは思い出す。



 ――そうだ。アークス(ぼく)は魔法の才能が低くて、少し前に跡取りから外されたのだ。



 アークス・レイセフト、六歳。

 男の記憶を手に入れたこの日から、彼の成り上がりの物語が始まる。




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