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隣に居てくれる人を、大切に

Morning Glory 〜君がくれた最後の夏〜

作者: あいまいもこ


 Morning Glory は「朝顔」です。



 登場人物


 志摩彩都しま さいと:主人公、画家である。自然に惹かれて田舎に来た。


 夜空:彩都の朝顔畑に現れた謎の少女





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 朝顔を眺める君の横顔が本当に美しくて・・・・


ーーーーーーーーーーーーーーー




 僕は家路をのんびりと歩いていた。


 周りは山で、小川が流れるのどかな風景。


 今日も家に帰るまで誰とも会わないのだろう。


 七月ももう半ばで、本格的に熱くなってきた。


 ギラギラと僕らを焼き付ける勢いで降り注ぐ太陽の輝きに、蝉の命を懸けた大合唱。


 こんな田舎、熱中症で倒れでもしたら最期だ。


 誰にも見つけてもらえないだろう。


 そう考えて、ぞっとしたりする。


「もう駄目だー」


 僕はそう叫ぶと、最高に澄み切った小川に倒れる様にして飛び込む。


「ふぃー、冷たー」


 さっきまでは暑さでボヤいていたが、今度は冷たさで心臓が止まりそうだ。


 そのまま川の中で立ち上がると、流れに逆らうように歩いて行く。


 この小川を登っていけば、僕の家がある。


 朝顔に囲まれた、自然豊かな田舎の家だ。


 木造二階建てで、古いあばら家。半年前越して来たばかりの頃は、床がきしむ音でビビったものだ。



 暫く川の流れに逆らいながら進み、足の感覚が麻痺してきた辺りで小川から抜け出す。


 すると、そんな僕の目の前には辺り一面の朝顔が映った。


 一面に広がる朝顔。


 いつもだったらその風景の中には、ポツンと建つ我が家だけだったのだが・・・・・


 その日は、より一層・・・美しかった。



 それは君がいたから。


 あの日も君はどこまでも綺麗だったね。


 生まれて初めてだよ。こんな綺麗な人に会ったのは。


 深く、蒼く、それなのに何故か澄んだ印象を与える群青色の長髪が風に美しくなびいていた。


 それはもう大成された芸術そのものだったんだ。


 僕は、動けなかったよ。


 圧倒されたね。


 それで、暫くしてからやっと声を掛けれたんだ。


「こんなところで何してるの?」


「花を観てるの」


 君はそう言って笑ったんだっけ。高鳴った心臓の音は今でも忘れられないなー。



「君が植えたんだよね?この花」


「う、うん」


 僕は君の近くまで歩いて行き、そう返事をした。


「綺麗だね!この花」


 そう言って君は最高の笑顔を、見せてくれた。


「っ、そう、だね。綺麗、だね」


「これは、朝顔?」


「うーん、まぁそうだね。朝顔もあるけど今咲いてるのは昼顔だよ。」


「昼に咲くの?」


「あ、うん。でも今もう夕方だから夕顔も混じってるかも。チラホラと」


「よく知ってるね」


「ずっと育てたいなって思ってたから。それよりも、君どこから来たの?ココらへんあんま人居ないんだけど」


「それは、言えないの・・・でも、またいつか話すから」


「そ、そうなんだ」


 ちょっと良く分からないが、一応返事はしておく。


 そして唐突に君は言った。


「それじゃあ、また明日ね。」



 びゅー、っと風が朝顔のつるを揺らした、瞬きの間の一瞬で君は姿を消していた。


「あれ?どこ行った?お〜い」


 これが僕と君との最初の出会いだったよね。




 次の日の朝も君はいた。


 朝露の輝く朝顔の花の中に立っていた。


「昨日は、観れなかったから、朝顔」


「綺麗でしょ。これ、群青色って言うんだ。この色」


「そうなの?わたし、この色とても好き」


「良かった。僕も大好きなんだ。神秘的でしょ」


 そう言った僕と君は一面に咲き渡る朝顔を見ていたね。


「そうだ、ねえ君、実は僕画家なんだ!駆け出しだけど。いろんな綺麗な風景残したくて!


 その、君の絵を描いてもいいかな?」


「わたし?」


「うん」


「良いよ。可愛く描いてねっ。」


 そう言って笑った君に、僕は自信満々の笑みを浮かべて頷いた。


「そりゃ勿論」




「へー、凄い!君、立派な画家さんなんだね!もっと沢山見てみたいなー。君が絵を描くところ」


「こ、これから山に絵を描きに行くんだけど一緒にどう?」


 僕が描いた絵を褒めてくれた君に僕はそう誘った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「へー。そうなんだー!」


 話してみると君はよく笑う子だと分かった。


「そう、そう、群青色ってのはラピスラズリって言う石が・・・・・」


 何が面白いのか分からない僕の話を嬉しそうに聞いてくれたよね。


 

 それから毎日のように、いや、毎日君と話をしたりした。


 夜顔が白く輝く月夜に、君と一緒に星空を観たり。


 川で一緒に遊んだり。


 一緒に焦げたハンバーグ作ったり、


 一緒にたくさん笑ったよね。


 凄く下手な君の絵を笑っちゃって君が拗ねちゃった事もあったよね。


 本当にごめんね。


 でも、僕は君との時間が最高に幸せだった。


 とてもかけがえのない時間だったんだ。


 だから。




「ずっと一緒に君とこの空を観ていられたらいいのに」



 だから、君が星空を見上げながら言ったその言葉が、僕の心に不穏な爪痕を残していった。




 その一週間後。


 夕日を観ながら泣いていた君に声を掛けてみたんだ。


「ねえ、君、もしかしてどこか悪いの?身体」


「え?」


 そんな、そんな驚いた顔をした君を見て僕は哀しくなった。


 その後で、困惑したような笑顔を浮かべた君の頬を涙が落ちたのを見て、


「ごめんね。今は言えないの」


 君のその言葉を聞いて、


 僕はただただ、哀しかった。




 その後、僕は家で一人考えた。


 年頃の女の子が、こんな田舎で毎日暇そうにしているのは?


 星を見上げながら泣いているのは?


 何でなんだろう?


 何でなんだろう。


 様々な考えが頭の中をグルグルとループしていく。


 でも、どんなに考えても僕の頭にはたった一つの結論しか出なかった。




 もしかして君は、


 身体が悪いのでは無いだろうか。


 もしかして君は、僕を置いて死んでしまうのでは無いだろうか。


 だから、こんな田舎に来て毎日過ごしているのでは無いだろうか?


 そんな事を考えたりしたんだ。




 今でも、あの時の自分が信じられないよ。


 だって、あんなに好きだった君に



「もう、僕に会いに来ないでくれ。僕の心を苦しめないでくれ!」


 

 そんな酷い事を言ったのだから。



 それから僕は、君を避けるようになった。


 最初は君も声を掛けてくれてたけれど、僕が断るからもう来なくなっちゃったね。


 それでいい、これでいい。これで僕は苦しまないで済む。


 そんな酷い事を、


 そんな自分勝手な事を、


 考えてしまってたんだ。



 君と会わずに半月ぐらいたったよね。


 もうそろそろ、朝顔も枯れてしまうような8月の末。


 

 僕は、風邪をひいたんだ。風邪の割にはとても熱が高かった。


 40度はあった。


 そんな時に頭に思い浮かべたのは君の笑顔。君の声、髪、温もり。



 そして、己の心の冷たさを知ったんだ。


 身体が悪い時なんて、身体が悪いときだからこそ、誰かに近くに居てほしいに決まってるのに。



 僕は、自分の事ばかり、自分が傷つかない事ばかり考えて・・・



 苦しいはずの君を見捨てたのだから。




 僕は、布団から起き上がって走り出した。


 熱のせいで予想以上に身体がふらついた。


 色んなところに身体をぶつけながら走った。


 靴も履かずに家を出て走り出した。


 まだ暗い明け方の田舎を走った。


 足の裏が切れて血が出たけれど気にしなかった。


 当然の事だと思った。


 君を苦しめた、哀しませた僕には当然の報いだと思った。


 朝顔が枯れかけた家の周りを見て涙が出た。


 君との記憶も、朝顔を見る君の記憶も一緒に枯れ果ててしまいそうで涙を流しながら走った。


 熱のせいでをとても熱い涙が頬を濡らす。


「あぐっ!」


 枯れた朝顔のつるに足が引っかかってこけた。


 起き上がろうとしても手に力が入らない。


 やっとの事で手をついても、身体がフラフラして起き上がれない。



「畜生、ちくしょう!!」


 思いっきり自分の足を殴った、役に立たないこの足を。


「行かなきゃ、行か、なきゃ駄目なのに・・・君と、星を観た、あの丘に、行かなきゃだめなのにっ!」


 さらに起き上がろうと力を込めた僕に、頭上から声が掛かった。



「彩都くん!ダメっ!動いちゃだめ!!」


 探し求めていた君の、夜空の声だった。僕の名前を呼んでくれた。


「あ、ぁぁ」


 歓びと哀しみと申し訳無さで喉から言葉にならない声が出る。


 屈んで僕の頬に触れた君が、「あぁ!」と心配そうに声をあげた。


 僕は、夜空に何か伝えようと、僕の非行を謝ろうと口を開くが、その口から漏れるのは熱い吐息だけ。


 何でだ!?起き上がろうと、君に謝ろうとしてるのに・・・身体が・・・・・。


「っーーーーー!?」


 突然君が僕の頭を抱き締めてくれた。


 そして、君は赤子をあやすように僕に声をかけてくれた。


「大丈夫だからね。今、楽にしてあげるから。本当の事話すから。」


 その言葉を聞いて、身体から力が抜けていくのが分かった。心が落ち着いた。涙が熱かった。



 僕の頭を抱き締めたまま夜空は辛そうに、そして優しく僕に話を始めた。


「本当の事を話すね。


 わたしは、あなたを、彩都くんを


 『送り』に来たの。


 わたしは『送り人』。


 死を迎える者に安らかな最期を贈る『送り人』」




 僕はとても驚いたよ


「あなたは真っ直ぐに生きてきた。貧乏でも画家という夢に向かって。私はそんなあなたの為の、『花の精霊、送り人』。」


 だって


「あなたはもうすぐ死んでしまう。未知の難病で。


 彩都は私を、朝顔を、大事に育ててくれた。


 だからーーーーーー」



 死んで消えるのは僕の方だったんだから。



「だから彩都には出来るだけ、最後まで真実を知って欲しくなかった!


 ごめんなさい。ずっと隠してて」



 夜空が泣いている。綺麗な群青色の髪が頬に張り付いている。


 僕は、嬉しい。最高に幸せだ。


 最期に君に逢えたのだから。


「わたしは、彩都くんに幸せになってもらわないと駄目だったのに・・・わたしが彩都くんに幸せを貰っていたんです。


 彩都くんが私を避けるようになったとき。とても哀しかった。


 それは、わたしが、朝顔が、彩都くんから今まで幸せを貰っていたから」



 僕は、夜空に、君に手を伸ばして頬を触った。そしてーーーーーーーーーー



「好きだよ」



 そう言った。


 熱のせいで声になっていたかも分からない。


 でも、伝わったと思うんだ。


 伝わったって分かるんだ。



 僕と君との、仲だから。



「わたしも、あなたが好きでした。


 小学生の頃に貰った朝顔の種を、私をここで育ててくれて。


 本当に・・・・・愛しています」


 君の笑顔が弾けた。



「ありがとう」


 僕のこの言葉はちゃんと声になったと思う。


 涙が止まらない。



 そして、なぜだか分かる。


 もう、この世には居られない。




「それでは、志摩彩都さん。『花の精霊送り人』夜空がお送りしましょう。


 これから先、愛するあなたへ、




 ーーーーーーーーーー幸あらんことを」



 そう言い夜空は目を伏せた。 


 夜空の言葉とともに枯れていた朝顔が輝きを放ち出した。


 

 夜空と僕の周りを囲むようにつるが動き出す。



 「あれ?」


 身体が光に包まれて宙に浮いた。


 そこに君も宙を舞って僕の事を抱き締めた。


 僕も君を抱き返した。



 二人の唇が重なる。



 心が繋がる。



 朝顔のつるは僕らを囲むように天に伸びていく。


 明け方の暗い空に朝顔の花が群青色に輝いた。






 この、僕の最後の夏。


 君と、夜空とーーーーーーーーーー






「君と一緒で」


「あなたと一緒で」



「「最高に幸せな人生でした」」





 朝顔が儚い光となって


 僕らを包み


 僕らと共に



 星になる



 

 最後までお付き合いありがとうございました!


 勢いで書いてしまって、おかしい箇所があるかもしれないです。

 もし良ければ、理解しにくい所とか教えてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みました。最初長いかな?と思いましたが、そうでもありませんでした。恋愛の切なさがよかったです。
2017/12/14 16:30 退会済み
管理
[一言] 私もこんな経験してみたいような・・・。 素敵なお話でした。
2017/12/06 23:24 退会済み
管理
[良い点] 感動的なストーリーですね! また田舎の風景の描写が詳しい為、爽やかな気分になります。 [気になる点] 私が言える立場ではないのですが……。 主人公が「あれー、幻覚?だったのかな。あの娘」っ…
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