赤い悪魔と白の救世主 (冥界の魔物)
演出は爆発だ
天井・床・壁、血と肉片がへばりつき、さっきまで命だったものが辺り一面に転がる。キラーホエールの足跡は血と大量の死と人の形を失った肉塊だ。そこにファントムも人間も関係ない。
ここはある会社の社員室。彼らがどのような悪行を行い彼女の依頼主に恨みを買ったのか誰にもわからない。彼女は次にどこへ行くのだろうか。
※※※※
「あと少し・・・あともう少しで…」
「いやいやレンちゃん、そう見えるだけだって」
「もう止めときましょうよレンさん・・・ 」
「……………」
アスカ達4人は、大型ショッピングモールのゲームセンターの中にいた。そして彼ら未成年3人はクレーンゲームで財布の中身を溶かしていくダメな大人を哀れみの目で見ていた。
何とかゲームセンターにへばりつくレンを引き剥がし4人はフードコートに向かった。
レンとアスカはひそひそ話を始めた。
「ねぇアスカちゅんどう思うよあの女」
「あの女ってミコトくん……サキさんの事ですか?」
「なんか知らないけど普通に着いてきたしさ。つかあいつ、あの時の暴れっぷりが嘘みたいに口数少ないし……どういうキャラかわかんねぇよ全然」
「そんな悪いものじゃないと思いますよ。ほらいるでしょ。乗り物に乗ると性格が変わる人。あれと一緒ですよきっと……」
このあとはレンが皆の会話が途切れないように一人で喋り続けたがついにネタが尽きたのかついに黙り込んだ。会話の無い時間が続く。
そんなぎこちない雰囲気をよそにサキはさっきからしきりに時計を気にしている。まるで何かを待っているようだ。
(誰か待ってるのかな?……あ)
アスカがそんな事を思っているのもつかの間、サキとアスカは建物の南側から何者かの気配を感じた。サキはニヤリと口角を上げ、ゆっくりと立ち上がった。アスカもやれやれと言った表情で立ち上がる。
「ミコトさんファントムです。多分3人程、南側にいます。テイマーです」
「マジかよ……、休日ぐらいゆっくりしとけっての。
……オイお前、知ってたろ? だから着いてきたんだよな? 」
サキはミコトの質問に答えず体から黒い蒸気は出して人外の姿に変わる。
「殺人もいとわないファントムと人間の混合強盗団らしいですよ。人通りの少ない職員入口から入って来てるらしいので早く始末しないと、お客さんから犠牲者が出るかもしれませんね? 」
その一言だけ残してサキは我先にと目的の場所へ向かう。
「わ……私ここの人達の避難を!!」
「大丈夫よ〜レンちゃん。必要ないから」
アスカとミコトはその場でファントムの姿になる。それを見ただけで周りの人間達が悲鳴を上げて逃げ出した。店の人間達の反応は最初に変身したサキに対しても一緒だった。
「レンちゃん、とりあえずお巡り呼んでね。まあ着いてる頃には終わってると思うけどさ 」
ミコトは愛想のいい笑顔でそう言い残し、アスカと共に現場に向かった。
「ミコトさん!! アスカさん!! ケガだけはしないようにしてくださいね!!」
※※※※
サキから少し遅れてミコトとアスカが現場に着き強盗と出くわす。いるのは全て人間。
アサルトライフルを手にミコト達に立ち向かう強盗団。躊躇なく彼らに銃弾をお見舞いする。
……だが見た目とは裏腹にテイマー以上に皮膚の硬いギアのファントムに人間の兵器である銃の球は彼らに傷を入れることが出来なかった。全て弾かれ閉まっている。ミコト達は銃弾の雨を避けることなく突き進んでいく。
ミコトとアスカは命は奪わぬように加減しながら荒くれ者を片付けていく。アスカは一瞬サキの方を横目で除く。目的の獲物がいないせいか少し気だるそうにしている。
意外にもあの馬のテイマーの手足を引き裂いた片手鎌を使わず使徒空拳のみで戦っている。大の男が少女1人に力押しされながら一方的に殴られている不思議な絵に違和感を感じながらも、アスカには彼女が極悪人とは思えず彼女の心理が知りたいと戦いの中で考えていた。3人はあっという間にこの場の人間達を地に伏せた。
「あれ……おかしいな。テイマーのファントムがいませんね。ここら辺から気配したんですけどね」
「ちょっと二人ともしっかりしてよ。俺皆と違って鼻が効かねぇからさ」
「チッ……」
サキがミコトの言葉に気分を害したのかわざとらしい舌打ちをした。
「は? 喧嘩売ってんのかお前? 」
「もぉ! 二人ともまた喧嘩しないで下さいよ! 」
この会話の約3秒後……ミコトの後方の壁を緑の腕が突き破り彼を壁の向こうに攫っていった。その先は広い職員駐車場だ。
体格の大きいテイマーは狭い店内を戦いの場所に選ばない。
「やろう! っざけんなごらぁ!」
ミドリの腕の主はミコトの怒りを買ってしまったようだ。腕を振り払らわれて重い拳の連打を腹にねじ込まれた。鈍い音が響く。
ミドリの腕の主はバッタの怪物の背中に肉の垂れ下がっただらしない男の上半身が付いたテイマーのファントム。3メートル程だ。体格では勝っているはずだがミコトの相手になっていない。拳の応酬にまるで手が出せず、一方的なミコトの優勢が続く。
アスカ達二人が遅れてやって来る。
ついに目当ての獲物を目の前にしたサキは、ニヤリと笑って鎌を片手にテイマーの襲いかかる。
「ミコト君! 心配してないですけど大丈夫ですか? 大丈夫ですね。早く片付けましょう」
「うわぁ俺の周りは温もりでいっぱいだなぁ……」
サキは今まで鬱憤を晴らすよう片手鎌を振り回しバッタの足をあっという間に解体してしまった。
「ハハハハ。では、敗者に相応しいエンディングを……」
その続きを言おうとした刹那横からアスカが入る
「はーい! 止めは僕やります!! ラプトル、走馬灯ね! 」
主人の命令に竜脚パイルガンラプトルが答える。右足に黒、左足から白い炎を纏う。
そのままテイマーの首元まで跳躍、炎を纏った両足で首をがっちり挟み込む。挟まれた首の肉は焼け、消し飛んで行く。肉の焦げる臭いと直視出来ぬほど光を放ち、そして首の皮1枚残さず焼き切って閉まった。
首を挟まれた時点で器官を潰された相手は叫ぶことすら許されなかった。微動だにしない体から頭が転がり落ちる。最期は黒い水になって地に帰っていった。
「……あのぉアスカさん? 何故……私の相手を……横取りなされたのでしょうか?」
彼女の笑顔は絶望に変わる。
「えぇ!? いやぁ丁度いい感じに首が空いてたなぁーと思って……」
アスカがやってしまったと思いながもヘラヘラしながら答える。
サキは生気を失った目で膝を付き、地に目をやる。哀愁が漂っている。アスカにとってその姿は妙に面白かったが……、
「あぁ! でも後二人いますから仕留める時は譲ります。元気出してくださいよ!」っと上部だけの慰めを言った。
彼女はそれを正直に受け取った。
「その言葉!! 是非忘れないでくださいよ! 良いですか!? 止めは私がやりますからね!! 絶対ですよ! 」
単純な思考回路にも程がある。
見た目でいい印象を持たれるが結構腹黒く、狡猾なアスカにいとも簡単に騙されるサキ。
ミコトが目を丸くして二人を見ている。何かサキがだんだん【悪】と言うには少し違う物質に見えてきている。
ーー、ここまではまだ3人には余裕があった。あっさりと強盗を阻止し、さらに相手のファトムもそこまで強くない。落ち着いて行けばスグに終わる簡単な仕事なのだから当然だ。
……だが、テイマーの3人を狩りに来たのが彼らだけとは限らない。
そして、その狩人が彼らの様に少々ひねくれている……が、善人。とは限らない。
ファントムの気配を掴むのを苦手とするミコトも流石に感じた。
血生臭く・鬼神の様で・決して出会うべきではない
3人は直感で感じた。
凄まじい殺気と執念の塊の様な気配。
自分達の……後方に。
「やめろォォォォ!! だっ、誰か、助けてくれぇぇぇ!!」
男の悲鳴が鳴り響く。さっき程ミコト達が戦えない程度に甚振っておいた人間達がいた職員入口の通路からだ。
ミコト達は急いで前の道に戻る。が……先ほどファントムと色違いの2体と出くわしてしまった。黄色と赤だ。
この2体もアスカ達と向かう場所は同じようだ。しきりに職員入口の方角を見る。2体は焦っている。仲間が襲われているのだから当然だ。
もう手遅れ……ではあるが。
突如、自分達が向かっていた入口が爆発。中からは黒い煙が立ち上る。黒い煙から逃げ延びてきた強盗団の一人が涙と恐怖に歪んだ顔で出てきた。自分のボス顔をみて表情を緩める。
助かったと思ったのだろう。
微かな夢を見てしまったのだろう。
その背後、吐息が当たるほどの距離に人の形をした、自らの死が迫ってきていたことも知らず。
黒い骨の様な左腕。それは男の背中から肋骨をいとも簡単に貫き、掴み取った心臓を持ち主の目の前に見せつける。
貫かれた男は一瞬何が起きたか分からず自分の胸から飛び出しているものがなんなのか……、この胸の痛みの原因がなんなのか。
その鼓動を止める瞬間まで男は自分の死を受け入れられなかった。
心の臓は鼓動止め、黒い骨の腕からこぼれ落ちる。男の目から光が消え、瞳孔は開ききった。
男は前かがみに倒れこみ、その後ろに隠れていた彼女が姿を表した。
彼女の名は明日。
この世の全ての悪に対するシリアルキラー。
歪んだ正義の体現者であり、
悪人専門の大量殺人鬼。
この世界の通り名は……、
killerWhale。
ついにだしたぜ、
主人公