罪と罰
今回は主人公ではなく、前作の二人の話です。
開幕女子高生のいじめがありますが、この二人は今のところこの作品唯一の良心なので、注目して欲しいです。
「食え。お前の大好きなミミズだろ? 」
「やだ……やめて……お願い 」
昼休みのある高校の教室の中。
5人の女グループがメガネを掛けた大人しそうな女子を取り押さえ、その口に生きたミミズを入れようと頬に擦り付けている。
ミミズを掴む物は取り押さえられている女子の弁当の箸を使ってだ。いくら止めてと懇願しても聞き入れず教室の中の人間は誰も彼女達をとめようとしない。
(こんなの……、 毎日毎日もう嫌だ。死にたい。 生きててもいいことなんてないよ。
お母さんごめんなさい。私、もう我慢出来ない。
ーーこいつらを殺して、人間なんて辞めてやる)
不満が怒りに、恐怖が殺意に、不安が絶望に、そして、
体は怪物に変わっていく。
それがこの世界のルール、
悪魔の寄生虫、人間達からはpioneer from hell(地獄からの先駆者)を略し、ヘルニーと呼ばれている物に憑かれた人間は、不満が溜まりそして最後に殺人を犯そうとした時が最後。
人の形を失い、異形の怪物phantomになる。ファントムとなったものの殆どはただ殺戮のみを実行する、考えることをやめた殺戮兵器となる。彼女の体は異型に変わっていく。
胴体が膨らみブヨブヨの脂肪がたるむ。たるんだ肉は手と頭を飲み込み胴体が避けて大きな口が出てきた。たるんだ脂肪のすき間からいくつもの目が自分にミミズを擦り付けていた女の顔を睨みつける。
睨めつけられた女は驚きの余りその場で動けないでいた。
怪物はそのまま腹の大口を開け、ミミズごと女の上半身を食いちぎった。まだ微かに動く内蔵と生暖かい体温口の中で感じたその瞬間怪物の頭の中に言葉が響く。
「殺せ。 お前を余興の道具に使った奴らも、 お前を助けようとしなかった奴らも全部ね。お前は充分我慢したんだ。 バチなんてあたらないさ」
「そ、そうだね。 私ばかり嫌な目にあってきたんだし。ちょっとぐらい周りに八つ当たりしたって 」
「イヤイヤ、それはだめでしょ? 」
突如運動場側の窓ガラスを突き破って黄色の鱗に覆われた腕が蛇のように怪物に襲いかかり、そのまま窓の外に攫って行った。怪物が攫われた先には二人の青年がいる。
「流石アスカちゅん。俺と違って目が良いから助かるよ 」
「あのミコトくん、こいつ結構重いんでわりと大変だったんですよ。多分明日筋肉痛です」
「え〜? うっそ〜ん、男なのに貧弱〜 」
怪物を攫った黒の短髪の年齢13の青年の名は飛鳥
右腕の肘から先は黄色の鱗に覆われており、両足は骨のように細い真っ黒な機械の脚に青い羽根が集まったような腰マントをしている。
もう一人の責任間の欠片もなさそうな金髪の年齢16の青年の名は命
機械の黒い両腕に、黒い尾と鋭利な背びれ、両目は爬虫類の縦長の黒い瞳孔に黄色の強膜。腰には斧と銃が一体化したような武器を下げている。
「随分と太ったルーザーだね、こりゃ大分不満貯めてたんだろうな……。早いとこ仕留めようぜ、ぶっちゃけ金にならない人助けだしさ 」
「ま〜た誤解されそうな事言って。了〜解 」
アスカが怪物に突っ込んだ。目にも止まらぬ動きで標的の四方八方を回り蹴りを入れる。完全な防戦一方だ。怪物はアスカのあまりの速さに目が追いつかず、手も足も出ない。
「働け、ラプトル。蛇だ! 」
その言葉と共にアスカの両脚が青く発光した。その光はそのまま右腕に流れる。 すると突如右腕が蛇のように伸び、その鋭い黒い爪が怪物の脳天に突き刺さる。だが致命傷には至らなかったらしく息絶えてはいない。怪物は反撃しようとアスカに向かって突っ込む。
が、突如地面に膝を突き痙攣し始めた。さっきの攻撃が原因だ。ダメージが大きいのでは無い。
毒だ。アスカの右腕の爪には一瞬ではあるが動きを止める神経毒が流れている。動きを止めれる時間は約10秒。だが、手練二人にたいしその間一歩も動けないのは、余りにも致命的過ぎる。
「ナイスよ、アスカちゅんいくぜブレイガン!
ギュスターブでフィニッシュだ! 」
その言葉と共にミコトの持つ武器、爆砕機・ドラグ・ブレイガンが吠える。赤い電流が刃先に走る。そして怪物に襲いかかり、振り下ろす。刃は頭から入り、股から抜ける。
血は出ない、完全に焼き切っている。
一刀両断されたその巨大は地に背中を叩きつけた。
その体はドロドロに溶けて黒い液体になりそこからあの地味な女子が地面に膝をついて出てきた。
ふと思い出す。アスカは前に助けたファントムの少女のように人間に戻れるのではないかと期待した。
だが、【命を奪った罪は重い】。
彼女の指は、指先からドロドロと溶け落ちていく、溶けた体は黒い液体になる。
そしてその液体に映る、肉が溶けて骨がむき出しになっていく自分の顔を見て泣き叫び始めた。
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌……、イヤだぁァァァ! 」
溶けた液体を体に擦り付ける。
骨がむき出しの部分、筋肉がむき出しの部分、臓物がむき出しの部分。自分の体から出てきた腸を掴み腹の中に戻そうと足掻き、ちぎれた腕を引っつけようと体に押し付ける。
ーー死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない。
だが誰の目から見ても明らかだ。
彼女は助からない、ここで命尽きる。
「死にたくない! まだ死にたくないよ!!
誰が! 誰が止めてよ!
嫌だァァァァあぁぁあぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! 」
彼女は泣き叫び嗚咽する。ミコトがゆっくりと彼女に駆け寄り膝をつき視線を合わせて、言葉を投げた。
「お嬢さん、悪いけど・・・・・・無理だ。」
言葉を投げられた彼女は絶望し、もう叫ばなくなった。そして、肉一つ残らず溶けて彼女は骨だけになった。
アスカとミコトは目をそらさず、最期まで見届けた。アスカの目が少し赤みががっている。泣きそうになっているのだろう。
二人の体から人とは異なる部分が砂になっていき、二人は普通の人間と変わらない姿になった。
「あれが、ギアのファントム」
「自分の同類殺したぞあいつら」
「容赦無かったね、あいつら」
「あれが国の雇われ兵士って正気かよ」
校舎から命を助けられた者達とは思えない心無き言葉がいくつも飛んで来る。そして死んだ女子生徒の死を嘆く者は誰一人いない。
彼らはヒソヒソと話しているかもしれないが、ファントムである彼らには全て丸聞こえである。
「ははは、まあこんなもんでしょ」
「まさか、こんなのに慣れるなんて思いませんでしたよ」
「まあ残念ながら人間なんてあんなもんでしょ。
気にしてたら持たないよ? 見返りも求めない方がいいね」
「これじゃあの話聞けませんね」
「まあ大量殺人が起きそうだった現場にでくわせたんだから、よかったでしょ。二人も死んだのは残念だけど」
ミコトとアスカは警察を呼び、事のいきさつを話して日が落ちた夕暮れ時に家に戻った。
「いえーい今日の給料ゼロ円! 出来高性は辛いね。
あ、あのデブ社長遂に退任させられたか。この株上がりそうだな、今の内に買っとくか」
「本業より儲けてそうですね」
「はは〜まあね」
「今日シチューでいいですか? 昨日の徹夜仕事でお買い物行けなかったから、野菜の賞味期限が迫ってるんですよ」
「ん?いいよ、おれコンソメ多めで」
「えー!!? イヤイヤ!! シチューは甘めですよ!!」
「何いってんのよ! コンソメ味の効いたシチューこそ至高でしょ!!」
「いいから騙されたと思って僕に全部任せて下さいよ!」
「待て、さてはコンソメの偉大さをしらないな?
アスカちゅん今日は俺に任せろ。どんな料理でもコンソメ入れたら美味くなることを教えてやるぜ」
「たまには、薄味の素晴らしさも感じて下さいよ!!」
最期まで見ていただきありがとうございます。
そろそろ縦筋に絡みたいな。