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交わり始めた道

16 交わり始めた道筋



学園に向かう電車で揺られながら、雲ひとつ無い空を眺める神鳥 切。

自分の過去を話した事で閉ざしていた記憶が蘇り、感情がまだ混乱していた。

嬉しさや、驚きや、緊張や、寂しさや、悲しさなど、いくつもの感情が駆け巡る状況で、鷹柱 為心に話した夜を思い返していた。





❇︎ ❇︎ ❇︎





神鳥 切が鷹柱 為心に自分の過去の話しを始めてから約1以上が経過していた。


「…その東京から来た美容師さんにお願いしたんだ。寝た切りになってしまった妹の髪も整えてくださいって。…そしたら、本当にOKしてくれてさ。びっくりしちゃった。」


神鳥 切は暗い話にならない様に話を進めるが、何処か少し空元気で、思いつめている様だった。


「え…?…嘘…で…しょ…?」


その時、鷹柱 為心は何かが繋がったかの様に、驚いていた。


「え…?どうしたの?」


鷹柱 為心の表情と、その言葉に、話は途中で止まった。


「切くんが…あの時の……そんな…辛い事があったんだね。」


「…え…?」


神鳥 切は鷹柱 為心の言葉が理解出来なかった。


「…切くんが…あの…病院での…男の子だったんだね。」


そして、その言葉に驚きを隠せなかった。


「え!?ちょっ…ちょっと待って?!どいう事!?今…なんて…言った…?」


「妹さんの髪を切ったのは…私の姉の旦那にあたるおじさん…それが…駿我 遊谷だよ。」


「え…。」


「そのアシスタントは…私。」


「え…!?…あっ…」


神鳥 切は思い出した。

サロン ド デューエで始めて鷹柱 為心と出会った日の違和感を。

何処か…懐かしかった。

初めてではない気がした。

何故か暖かかった。

その違和感が今、繋がった。

約4年前のたった数時間だった為に、顔は思い出せなかった。だが、内容も、恩も、感謝も、経験も、それだけは2人とも忘れてはいなかった。いや、忘れられるはずがない出来事だった。


「まさか…そんなことっ…て…。」


神鳥 切は言葉にならない感情が込み上げていた。

そして、鷹柱 為心が言葉を発した。


「すごいね…あれから本当に頑張ってるんだね…。」


「う…うん。…でも…苦しかったけどね…。」


「そうだよね。」


「それでも…俺は頑張らなきゃいけないんだ。正直…妹がどれぐらいもってくれるのかさえ、わからないから。」


「え…?…どういうこと?」


「今、妹は目覚めるかもしれないし、目覚めないかもしれない状態なんだけど、それを調べるのにあたって脳死判定をする。でもそのタイミングが重要で、脳死判定をする際は親族の了承の上で臓器提供が必要なんだ。」



「つまり…それって…」


「もし、脳死判定をしたタイミングが悪かった場合、脳死との判断が出たら美撫は…。」


「…。」


「だから脳死判定は今はせず、延命処置を続け、センシビリティの賞金で海外の病院に移してやりたいって思ってるんだ。だから本当は美容師になってから学ぶ事や、勉強することを急ぎで今やってるんだけどね。…正直…全然わからなくて、見よう見まねでやってるようなものなんだよね。」


「そうなんだ…。」


「うん…。」


「……私に……私にも何か手伝えることない?」


「え?」


「手伝えることならなんでもいい。切くんの力になれるなら私…協力する。こうして、巡り巡ってまた切くんに出逢ったってことは…きっとまだ私にも手伝えることがあるってことだと思うの。…だから、私に出来る事なら言って。」


「あ…ありがとう。」


神鳥 切はまた出逢えた事を心から喜べた。

もし、あの日に須堂 恵が髪を切る為に誘ってくれなかったら。

自分が勇気を出して聞いていなかったら。

駿我 遊谷と、鷹柱 為心と出会えてなかったら。

黒駄 未沙の話がなかったら。

美容師に成ろうと思わなかっただろう。

この巡り合わせが運命と言うのか、縁と言うのかは神鳥 切にとってはどちらでも良かった。

ただ神鳥 美撫を中心にこの巡り合わせの事実があったことが、とても嬉しかったのだ。

その後、数時間の雑談や美容の話で盛り上がり、重い話しは嘘のように消えた夜だった。


次の日に神鳥 切の携帯が音を鳴らした。


「チッーン…。」


誰かと思い開くと、咲ヵ元オーナーからであった。


「お待たせ!友達のスランプに協力してくれる人の連絡先!その人には内容報告してあるから、あと、俺の元部下だから!アポ取ってみて!」


神鳥 切は須堂 恵のスランプを修正する為に、オーナーに相談していたのだ。

神鳥 切はオーナーにお願いしたかったのだが、忙しいということもあり、適任者を紹介してくれたのだ。


「恵のスランプは早急になんとかしなきゃな…連絡してみるか。」


神鳥 切は多壊 陽と連絡を取り、学園が終わり次第、須堂 恵と2人で多壊 陽の所へ向かうことになった。


そして、今に至る。


「起立。気を付け。礼。ありがとうございました。」


クラス全員がお辞儀をした事で帰りのホームルームが終わりを告げた。

生徒たちは帰る者、残って練習する者、色々といた。


「恵!行くぞ!」


神鳥 切は須堂 恵を呼んだ。


「おう。で?どこに向かうんだ?」


「俺も初めて向かうから良く分からないんだけど…昭島って所?」


それを聞いた須堂 恵は、


「え゛!?島!?今日船乗るの!?」


「いや!ちがう!昭島って言う駅!!」


神鳥 切はすぐに訂正した。


「びっくりしたー!」


2人は昭島へ足を向けた。


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