1話 出会い
男の子はみんな、ヒーローになりたいのだ。
誰であっても特殊能力なんてものに憧れがある。
だから、ファンタジーってジャンルの本やゲームがあるわけで、それで本来の欲を満たす。
しかし、そんな力を手に入れたとき、世界は変わって見えるものである。
「はい。今日の授業はここまで。」
そんな声がして、意識を戻す。
教室を見渡すと、さっきまで教壇に立っていた先生が荷物をまとめて出て行く傍ら、そそくさとやってくる友人の姿を見つけた。
「よーっす!お疲れ」
友人の挨拶を適当に流して話しかける。
「なぁ、特殊能力ほしいよな。チキン。」
「何をいきなり?欲しいけどさ。」
こんな風にバカな話をできる友人は数少ない。
彼は俺のアホな話でも乗ってくれるのだ。
チキンと呼ばれた彼の名前は笹見 健一。
笹見ゆえにチキン。昔からずっと仲のいいやつだ。
言うところの幼馴染というやつか。
それと、自己紹介が遅れました。
俺の名前は。
「逆巻 拓真。」
名乗ろうとしたときだった。後ろからの謎の声に振り返る。
そこには、白衣を着た白髪の少女が棒付きのキャンディをなめながら立っていた。
「逆巻 拓真だろ?違ったか?」
偉そうな物言いで、白衣を着た少女は自分の髪をくるくると弄びながらこっちを見ていた。
白髪のツインテールは腰まで長く、赤い瞳をしている。加えている棒付きキャンディーでさえも凶器に思えてくる。しかし、そんな中にある作られたようなかわいさは、まるで人造人間とでも言わんばかりだった。
すぐにわかったのは住む世界の違う人間に声をかけられたということだった。
彼女はすぐにこちらを向き直し、真剣なまなざしで言う。
「逆巻。お前は何かやり直したいこと、あるか。」
急な質問で正直答え方に戸惑う。
やり直したいこと。人間ならそりゃ1つや2つあるはずだ。
しかし、こんな問いを昼間の学校で、しかも知らないやつにいう事じゃない。
でも、さっき、思っていたことを言ってみる。
「特殊能力…。特殊能力のある人生が良かった。」
「ほう…。」
彼女は腕組みをして考え込む。そして一言こういった。
「交渉成立と見た。放課後、保健室に来い。」
彼女はそう言うと、白衣をくるりと翻して、教室から出て行ったのだった。
「な、なんなんだ?あいつ。」
チキンが首をかしげながら話しかけてくる。
それによぉとチキンは続ける。
「特殊能力って、中学生かよ。」
別にそう思ってるんだからいいじゃないかと思いつつも反論はしない。
「で、行くの?放課後に保健室。」
「いかない。」
そう言って一瞥する。
「いけばきっと楽しいかもしれないじゃないか。」
そう言ってチキンは煽ってくる。
「お前は他人事だからな。」
「特殊能力手に入るかもしれないぜ。」
チキンがおどけて言う。
「んなもんあるか。ジュースでも買いに行こうぜ。」
「おっけー」
いつも通りのあほな会話を繰り広げながら、放課後までの時間をいつも通りに過ごしたのだった。