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区分無し-糸

滴り落ちる透明なしずく-廻りの光

作者: RYUITI
掲載日:2016/06/27

 ――――頭の中と視界に白光がちらついて。

ある女性が、いつの間にか土砂降りの雨の中、

呆然と傘を差したまま棒立ちをしていた。


ざあざあと土砂降りの雨がアスファルトの色を変えながら水たまりを作っていく。

持ってきていた傘が役に立たないほどに大粒で殴りつけるような雨は、

吹き荒れるたびに服を濡らし、肌につたり、身体を隅々まで冷やしていった。

雨に染め上げられるような感じさえする。

けれど、立ち尽くしている一人の女性にはその事実すら気にもとめるそぶりも無く、

上を向いたまま暗い顔をしていた。

「言葉って――」ワタシは――。

一見空を見上げているように思えるその瞳は、

澄んだように空の黒雲を映し出してはいるけれど、

立ち尽くしている女性にはやはり、何も映っていないかのような表情のままで、

依然としてその場から動くことはなかった。


「雨に似ているよね――。」なんのために此処にいるんだろう。

呟いた言葉は溶け込むようで、

土砂降りの雨の中、

立ち尽くしたままの女性が動き出したのはそれからすぐの事だった。

光の灯っていないような女性の瞳より先に、

彼女の耳にとても小さく、か細い動物の鳴き声のようなものが聴こえたからだ。

「みゃう、みゃう」と聴こえる鳴き声は土砂降りの雨音にかき消されるように小さく響いていて。

自らの身体が雨に濡れ沁みるような冷たさを自覚した瞬間でさえ、

彼女は必死に鳴き声のする方向を、鳴き声のする場所を探そうとしている。


もう完全にアスファルトが藍色から漆黒に染まっている程の土砂降りの雨だというのに、

持っていた傘を気にするそぶりも無く、か細い鳴き声のする方向を辿って走り出していく。


女性が鳴き声のする方向へ向かってから、しばらくして。

彼女の眼に映ってきたのは、中ぐらいの段ボール箱のようで、

それを見る限り段ボールの底はかなり前に雨が染みているようだった。

急いで段ボールの中を覗き込んだ女性が眼にしたのは、

空の雲と同じように真っ黒な色をした小さな猫で、

もぞもぞと必死に動こうとしていた。

女性は、その猫を抱きかかえると、

近くに見えた駐車場の中に小走りで入り込んだ。


ピチャリピチャリと音を立てていた靴が、

白い息を吐く彼女の落ち着きと共に音を響かせるのを止めて。

「ごめんね、寒いね――ごめんね。」

駐車場に入った女性は、悲しそうにそう黒猫に呟いた。

黒猫は抱かれている腕から逃げ出そうともがいて、

なおも黒猫の事が心配になった彼女は、電話でタクシーを配車して、

そのまま動物病院へと移動した。


結果を言えば黒猫は少しの衰弱はしていたものの無事だった。

病院に居た女性がさらっと黒猫を引き取ると言い出して、女性が動物病院を出るときには、黒猫を探す前と変わりの無い表情に戻っていて、

獣医の先生にも気を遣われて声をかけられたりもした。その事実がなんとも可笑しくて、虚しくてもどかしくて腹が立った。もちろん自分に。


病院の入り口を過ぎて、階段を降りていく時。

ふいに水溜まりに浮かんだ自分が眼に入る。


その表情はなんとも悲しそうで寂しそうで。


なにも変わらない感覚に沈むかのように、

冷たい雫に濡れ沁みて歩き続ける。


いっそ、冷たい雫に打たれるよりも、

荒れ狂う海の波に飲まれたほうが。

真っ白になるんじゃないかとも考えたけれど、ただでさえ何も考えたくないのに海についた瞬間にまた色々な事を延々と考えてしまいそうなので、このままゆっくり歩いている方がマシなのかもしれない。


私はただまっすぐ歩きたいだけなのに。

ただ、温かい光の中に居たいだけなのに――。


女性は、願いを、想いを抱いたまま心という大海にゆっくりと沈んで行く。


――眼が覚めると、広い多目的室の中に立っていた。

周りには複数の知り合いがいて、

誰かが、ワタシに対して声を荒げながら向かってきた。


その言葉がどんなものだったか思い出したくもないくらい、

今のワタシには胸が張り裂ける感覚を抱いて思い切り眼を瞑った。


眼を瞑った直後から、まどろみの中に落ちていくような感覚がした。


その瞬間。


――――頭の中と視界に白光がちらついて。


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