まさかの名前で!?
「え?」
俺は飯田さんの言葉に素っ頓狂な声で反応してしまった。
「あ、いえ……その、す、すいません。何でもない……です」
丸まっていた身体が更に丸くなる。ハリネズミみたいで少し可愛いな。
「あいや、違います違います!ただどういう事かなって」
俺は正気に戻り、急いで逃げようとする飯田さんにフォローを入れる。
飯田さんは小さく身体を震わせながら顔だけをこちらに向け、髪の隙間から泣きそうな瞳をちらつかせる。
飯田さんの顔をしっかりと見たことはなかったが、全体的に幼く小さいというイメージが強く、とても綺麗な瞳をしている。髪で隠れてしまっているのがもったいない。
「わ、わたしだけ、生徒会の皆さんと、距離を作ってしまって……いて。いずみんにも、迷惑かけてて……申し訳、ないな、と」
なるほど、確かに飯田さんは俺らとは少し距離は感じられる。見ていたら分かる様に飯田さんは積極的に発言するようなタイプではないし、人見知りなのも分かる。
だから俺らも別に避けていたわけではないが、積極的に関わろうと行動していたわけでもない。それを飯田さんはずっと感じ取っていたのだろう。
「そんな事ないですよ」
豊美さんの件でこの学年生徒会の弱さが露見した。
豊美さんの弱さ、桜の弱さ、俺の弱さ。泉と智也はまぁ昔なじみだから前から知ってたが、泉は泉で素直になれない部分があるし、智也も全能にみえてそうではない。それは、飯田さんもそうなのだろう。
学年生徒会のみんなが不安定だったからこそ、飯田さんも心配になってしまったのだろう。
「そんな事はないです。泉も飯田さんを迷惑とは思ってないですし、俺らももちろん思ってないです。なんなら、もっと色々なことを遠慮なしで話したいと思ってますよ」
学年一位の人だ。勉強だって色々なことを聞きたいと思っている。だからこそ今が関係の変え時なのだと俺は思う。
「あ、ありがとう、ございます。で、でも……」
「じゃあこうしませんか?みんなの呼び方と話し方を変えてみたらいいんですよ」
「呼び方と話し方……?」
「そうです。俺の知り合いでコミュ力が高い奴がいるんですけどね。まぁ智也ですけど。あいつを見ていると初めて話す相手でも良い意味で距離が近いんですよ。あそこまでなれとは言いませんし俺も無理ですけど、少しばかり真似をしてみたらどうかなって思います」
飯田さんは考えているのか少しの間黙り込み、勇気を振り絞るように声を出す。
「い、一上くん」
名前で呼ぶのはハードルが高かったのか、苗字のくん付けで呼ばれた。まぁ、俺も名前呼びは少しばかり恥ずかしいからありがたい。
「はい。じゃあ、俺も飯田って呼びますね」
ここは俺も合わせたほうが自然だろう。呼び方の変化って何だか変な緊張がある。
「あ、あかりでい、いいです。あ、あと話し方も自然で、だ、大丈夫です」
え、名前でをご所望ですか?でも、ここで断るのは飯田さんに失礼だよな。仕方ない恥ずかしいが男としてここは覚悟を決めるべきだな。
「じゃあ、灯。灯も話し方を崩してくれていいからな」
「う、うん。わかり……わかった一上くん」
こうして、俺と灯は学年生徒会の仲間として少しばかり距離が縮まった。




