まさかのどうぞどうぞ!?
「あれ、飯田さん」
声のした方を向くと、申し訳なさそうな顔をした飯田さんが立っていた。
「こ、こんばんは……」
「あはい。こんばんは。こんな夜遅くに1人?」
「塾帰り……です。と、隣いいですか?」
「あぁどうぞ」
俺は少しベンチの端に寄り、飯田さんの座れるスペースを作る。
てかあれだな、飯田さんと二人っきりって珍しいな。
「どうか……しましたか?」
「え?」
飯田さんは俺の事をなぜか心配そうに見つめる。
「さ、最初は声だけかけよう……と思ってたのです、が。何だか、辛そうな顔をしてた……ので」
あれ、マジか。そんな顔してたのか?
俺は意味がないことを理解しつつ両手で顔を触り表情を確認する。うん、いつも通りだ。
「何でも無いですよ。すいません」
「な、なら良かったです……」
そこから沈黙が続いた。
話が続かねぇ……。飯田さんは何というか学年生徒会内でも唯一まだ接し方がよく分かっていない。だから、こうして飯田さんから話しかけて来たことにも驚きだし、おどおどしながらでも逃げるように帰らないことにも驚きだ。
前までは泉の後ろに隠れるように居るか、泉が居なければひっそりと端で過ごしている様なイメージがあったのだが。飯田さんも知らぬ間に変わったって事なのだろうか。
とりあえずこの場をどうにかする為に何か話題でも振ってみるか。
なんだろ、仲がいい泉のこと?生徒会の事とかか?いや、無難に勉強のことでも聞いてみるか。俺も分からない事を聞けて助かるしな。
「あの」
「あ、あの……」
おっと、被ってしまった。これは飯田さんの話題をもらった方が助かるな。
「あ、ごめんなさい。先どうぞ」
「い、いえ……一上さんの話からして、下さい」
「いえいえ、俺のは全然意味ない話題なので、先に話して下さい」
「いや……でも。あ、後でも……構わない、ので」
日本人特有のどうぞどうぞになってしまった。
目線を合わせずに身振りで押し付けあってるあたりコミュ症同士だな。
「いや、俺のは本当に適当な雑談なんで気にしないで下さい。てか、何も考えてなかったですし」
あははと分かりやすい作り笑いをしながら話の主導を飯田さんに渡す。
ちらっと横目で飯田さんを見ると、怯えた様に身を縮こまらせながら顔は下を向いていた。
俺そんな怖がるようなことしたかな?
「は、はい。では。あ、あのっ」
珍しく大きな声を出した事に驚き、横を振り返ると、飯田さんも背筋を伸ばし少し震えながらこちらの顔をしっかりと見ていた。いつもは前髪で少し隠れている瞳が髪の隙間から力強く輝いていた。
「わ、わたしもっ……皆さんと、仲良くなり……たい、です」
言いながらどんどんと背中が丸まり、声がか細く消えそうになりながら、泣きそうな顔になっていく。




