まさかの景色!?
「あれ……ここは?」
ちょうど紗那さんの道案内動画が終わったタイミングで豊美さんが目を覚ました。
「着いたよ」
「すいません、予想はしてましたがやはり倒れてしまいましたか」
予想してたんならやろうと思うなよと思ったが、人ひとり抱えて山道を歩いたせいでツッコむ気力がもうない。ほっとこう。
「どこだここ?」
疲れたので腰を落として軽く周りを眺めると、あるのは正面に気持ちばかりの柵がある崖だ。
山の上だからか、さっきよりも風が強く少し肌寒く感じる。
「ここは私の家が所有する山の一つで、私のお気に入りの場所です。何かに悩んだりした時によくここに来るんですよ。まぁ、今日のルートで来たのは初めてですが」
豊美さんはそう笑いながら話すと座っている俺に手を伸ばす。
俺はありがたくその手を借て立ち上がり、砂を軽くはたき、崖の方へと歩く。
「今日は何で?」
「最近色々ありましたからね。来たいとは思ってましたが時間が取れずなかなか……。そして、竜にはそのことでお世話になりましたのでせっかくなら……と。この場所を知ってるのは家の者だけなのですよ。桜でも知りません」
崖の向こうには自分がいつも暮らしている街が個々の明かりが集まって、イルミネーションの様に輝いていた。
一つだけぽつんと置かれたベンチに豊美さんが座り、俺も合わせて座る。
「どうですか竜。綺麗じゃありませんか?」
「そうだな。綺麗だ」
いつも過ごしている場所なのに上から見ると別世界に感じる。
どこか違う場所から違う世界を眺めている。そんな気持ちになる。
「ここに来ると私の悩みなんてちっぽけだなと思い、気持ちを前に向けるようになるんですよ。この広い世界では今見てるのはまだまだほんの一部なのに、もう人の姿も見えない。そんな小さな人たちがこの景色には万といる。そう思うと自分の悩みも小さなものに感じれて向き合える様になるんですよね。単純でしょうか?」
豊美さんは困ったように笑いがら問いかけてくる。
「いやいいと思うよ。単純でも馬鹿でも何でも。自分の中で解決できるならそれに越したことはないと思う。俺もよく自分で解決したことに対して人から自分勝手だとか色々言われたりするけど、でも結局は自分を納得できるのは自分だけなんだから。それで落ち着いたら周りにも目を向けたらいいと思って俺も過ごしているしな」
人に相談するけどそれはあくまで相談だ。他の人ならどうするかを一意見として一選択肢として聞くだけであってそれが自分にとっての最善策かは別問題だ。って考え方が俺の考え方だがまぁ人によってはぼろくそに言われたりする。
「なるほど……。人の悩みの解決方法も様々ですね」
「だな。体を動かしたら悩みも消える脳筋タイプの桜とかもいるからな」
「でも桜も色々考えていますよ」
「知ってる。馬鹿なりに脳筋なりに必死に豊美さんを助けようとしてたからな」
「……はい。桜にも本当に迷惑をかけてしまいました」
「それは豊美さんがこれからどうするかだよ」
「その通りですね。でもまた桜に迷惑をかけてしまいそうです」
「それまたなんで?」
俺たちはお互いに景色だけを見ながら話す。豊美さんがどんな顔をしているかは分からない。ただ風が冷たくて心地良い雰囲気が流れているように感じる。
豊美さんは少し黙ると、場を繋ぐように大きな風が吹く。
「……竜、私は貴方のことが好きですよ」




