まさかの散歩!?
「さて行きましょうか」
豊美さんは立ちすくむ俺をよそに歩き出す。
「いや、は?どこだよここ……」
「心霊スポットです!さぁ行きましょう!」
豊美さんは振り返ったと思うと目を輝かせながら一人寂しく拳を掲げる。
いやいや、小さい声で「おぉー」って言ってるけど忘れてないからな?豊美さんがお化けとかそういった心霊系が苦手なの。
前に行った遊園地のお化け屋敷で気を失ってた人がこんな不気味な所歩けるわけないだろ。てか、声も軽く震えてたし。あと全然関係ないけど俺も怖い。いや行かない理由とは全然関係ないけどねうん。全然関係ないけど。
「まぁまぁせっかくですし軽く涼しくなりましょうよ」
「いや、もう充分涼しいからね?むしろ寒いくらいだからね?」
夏はもう終わってんだよ!肝試しするには季節はずれ過ぎるだろ。
「じゃあいいです。私はこのまま目的地に向かいますので竜は一人で帰ってください。ではさようなら」
「一人で帰るも何もせめて車で待って……って」
車がいねぇぇぇええ!?
あれ、さっきまであった車が知らぬ間に消えてるんだけど!?え、何?取り残されたやつ?
「車なら今向かっている目的地の近くで待機してもらっています。目的地には徒歩でしか行けないのでせっかくなら少し散歩でもしようと思いまして」
「……心霊スポットを?」
「心霊スポットを」
馬鹿だこの人。もう駄目なくらい馬鹿だ。
「せめてもう少し明るい道歩くとかは……」
「無理ですね。そうすると遠回りになりますので今日中に帰れないと思ってください。あと、私一人にしたら、気絶した私を介護する人もいなくて捜索しなくちゃいけなくなりますのでその場合も今日中に帰れないと思ってください」
介護って言っちゃったよ……。どちらにせよ帰りたければ着いて来いってことですよね。
「あー!分かったよ!行けばいいんでしょ行けば!」
俺も別に得意って訳でもないのだが腹をくくり、少し先にいる豊美さんの横に並ぶ。
獣道のような整備のされていない道を眺めながら絶望に浸る。
「さぁ行きましょうか。私も初めてなので道が合ってるのか全く分かりませんが姉さんが言うには多分この道を真っすぐ歩けば30分ほどで着くそうです」
え、豊美さん知らないの?いや、そりゃそうか。あの豊美さんが一人で心霊スポットの下見とか出来る訳ないしな……てか、情報源も怪しいし、真面目に遭難だけは勘弁してほしいのだが……。
「竜、これを真っすぐと書いてあるのですが、大丈夫ですよね?」
豊美さんはスマホの画面を俺に見せてくるので確認する。
『可愛い妹よ見ているかい?まずはこの道を真っすぐ歩いてだな、うむ木の枝には気を付けたほうがいいぞ。夕方でも今は暗いからな。あと虫も多いみたいだ。対策するのだぞ』
紗那さんの声が聞こえてくる。
「動画の道はこれで合ってると思うけど。何これ」
「姉さんに下見してもらった時の動画です。怖いのでちゃんと見れてないですが」
情報源がめっちゃしっかりしてたわ。それでもちゃんと見てもらえないの可哀想……。
あとこの人は動画でも怖いのに実際に歩くとか大丈夫か……。
動き出す前から色々と不安だが、ここにずっと居る訳にもいかないので仕方なく紗那さんの動画を見ながら動き出す。




