まさかの素直な気持ちで!?
「と、豊美……なぜ豊美がここに居るんだ?僕はちゃんと豊美がそこにいる彼と一緒に勉学に励んでいたのは確認したぞ」
紗那さんが本当に驚いた様子で豊美さんに問う。
桜も驚いているのか小さく豊美さんの名前を呼んでいた。
「紗那が今日何かをしようとしているのを気付いたから家の者に頼んで迎えに行ってもらったわ。あなたが帰ってきた頃にはもう豊美はこの部屋にいたのよ」
「僕が今日このタイミングで何かするってことを前から気付いてたのか……」
「そうよ。私はあなたの母親よ。あなたが考えている事なんてすぐ分かるわ。でもまぁ、話し合いに負けたのは私のようだけどね。まさかあそこまで言われるとはさすがの私でも思ってなかったわ」
そう言う母親の前で紗那さんは悔しそうにうつむく。
そろそろ俺も今の状況に理解が追いつき、豊美さんの方を見ると豊美さんは戸惑っている様に周りに視線を泳がす。
「まぁいいわ。豊美、さっきの話は聞いていたわよね?」
その一言で色々なところに向けられていた皆の視線が豊美さんに集まる。
さっきの話とは俺が言っていたことだろう。本当は豊美さんには自分に責任を感じて欲しくなかったからこの話は聞かれたくなかったが、それももう今となってはどうしようもない。こうなることを俺たちよりも前から予測していた豊美さんの母親はとんだ化け物だと理解できた。
「……はい」
豊美さんは恐る恐る頷く。
「それで、あなたはどうしたいの?今の婚約を続けても、彼に責任を持ってもらうのでもどっちでも私は構わないわ。あなたの望む方を教えてちょうだい」
「わたしは……」
豊美さんが言葉を詰まらせ、俺のことを見る。
きっと俺に負担がかかるのを申し訳なく思っているんだろう。
「俺のことは気にしなくても大丈夫だから。豊美さんの素直な気持ちで答えてくれ」
俺が詰まっている言葉を出せるように言ってやると、豊美さんは覚悟を決めた様に頷く。
「私はこの婚約を破棄したいです!あ、でも……金城さんは……」
自分の気持ちを言葉にしたことで気付いたのか、もう一人のことを申し訳なさそうに視線を向ける。
視線を向けられた本人はそれに笑顔で返し、豊美さんの母親に向かう。
「僕も今回のこのお話はなかったことにしてもらえたらと思います。少しの間でしたが豊美さんの学校での活躍を拝見し、自分では伴侶になるには力不足だと判断しました。私事で申し訳ありません」
そう言うと頭を下げる。
その立ち振る舞いは本当に同い年かと疑いたくなるくらい大人らしかった。
豊美さんの母親は金城の言葉でようやく諦めたように肩を落とす。
「わかったわ。こちらこそ振り回してごめんなさい。迷惑をかけてしまったから、これからあなたがしたい事を私が責任を持ってサポートするわ。前の学校に戻るのも今の学校に残るのも別の学校に行くのも好きにして構わないわ。それと……豊美、後のことはあなたの好きにするといいわ。でも何かあったらすぐに言ってね」
「はい」
豊美さんは大きく頷く。
ひとまずこれでこの話は一件落着だな。だよな?もう何もないよな……?




