まさかの大切!?
豊美のお母さんは、部屋に入ってきた豊美を桜の隣に座らせる。
豊美は今、どんな状況か把握できていないのか、困った顔でお母さんと桜の顔を交互にみる。
「豊美はそこで黙って聞いてなさい」
「は、はい……」
豊美に冷たく静かな表情で告げる。
その顔はやっぱり第一印象の顔だ。それでもさっきの優しそうな母の顔も嘘とは思えない。
しかし、そんな母の顔を知らぬのか隣の豊美は下を向き、ひざの上に置いたこぶしを強く握っていた。どう見ても怯えている。
その原因の母親は怯えている豊美のことも。この状況に困惑している桜のことも気にせず話を始めた。
「まずは、豊美のことを心配してくれてありがとう。それと勘違いはしてほしくないのだけど、私は決して豊美のことを娘と思っていない。自分の道具だ。そんな風には考えていないわ。それだけは分かってほしいのだけど大丈夫?」
その問いに桜は黙って小さく頷く。その返答に笑みを浮かべながら「よかった」と独り言のようにつぶやき、話を続ける。
「豊美や紗那は将来この会社を継ぐことになるの……って言っても子供には伝わりづらいか。この子達は将来大変な思いをするの。だから、親として母として、この子たちが将来につまづかないように出来る限りの事はしてあげたい。だから、豊美には経験値になる子を紹介したの。人はね近くのものに似るの。近くの人ににて。近くの概念に似る。つまりね近くの存在に似る。最初は親に似る。学校では先生や友達に似る。大人になったら会社に似る。老後になったら国に似る。人は必ず変わる生き物なの。そのままの、変わらない人間なんていない。いつだって変わり続けていく。だから、私は豊美たちに必要と思える人を近くにいてほしいの。板橋さんのような運動が出来る人もそう。勉強が出来る、リーダーシップがある、正義感がある。そんな人が豊美と仲良くなってくれて、豊美の知識となってほしいの。だから、親の身でありながら豊美の友人関係に口出しをしちゃうの。暴力をする人や、物を盗む人、悪口を言う人、約束を破る人。そんな人から可愛い娘を遠ざけたい。それが親である私の意見よ」
最後のほうはとても優しそうな母の顔に戻っていた。
子供にはわからない親の気持ちを諭され、いつもだったら気にしない事が、分からないことが感情で声色で理解した。
何も難しくない、ただ豊美のために。豊美が大切だから友達を決める。
でも、でも……
「……間違ってる」
桜は豊美のお母さんの顔を、眼をしっかり見る。
「それでも、親が友達関係を言うのは違う。仲良くしたい人を決めるのは違う。子供を見守るのも親には大切だって桜のお父さん達が言ってた。運動のできひん友達だっていい。勉強のできひん友達だっていい。もし、悪いことをする友達がいたら桜が正してあげなさい。子供にそういう経験をさせてあげる事が桜にとって大切になることやからって。親が決めたら桜の可能性を決め付けるのと一緒やからってそう、パパに言われたから、だからその考え方は違うと思う!」
いつの間にか、桜の眼からは涙が流れていた。
しかし、そんな涙を桜は気にする事なくただ真っ直ぐに豊美のお母さんの眼をみた。
そんな桜を豊美は驚いた顔で、豊美の母は嬉しそうに笑って見ていた。




