まさかの高く大きく!?
桜はそのまま豊美の姉に着いていくと、たくさんある部屋の中でもひときわ大きな扉の前で立ち止まる。
「ここが僕の……いや、僕たちの母の仕事用の部屋だ。本当は緊急時以外は来ないように言われているのだがな。まぁ緊急時ってことでいいだろう。君はここで静かにしていてくれたまえ。僕が母に説明する。僕が話すように指示するまで決して要らぬことを話さぬように頼む。決してだぞ」
桜の方を向くことはせず、背中を向けたまま話す。
返事くらいはした方がいいかと思ったのだが、そうする前に扉を強くノックしたので、桜は何も言わず、大きな扉を見上げた。
「……だれ?」
ノックしてしばらくすると、扉の奥から透き通った大人の女性の声が返ってきた。
この前家に来たときも思ったが、やはり心を引きつかせる不思議な感覚になる声をしていた。
桜が勢いでここまで来たのは良いが、この姉から感じた威圧を扉越しからでも感じ、試合前のプレッシャーと同じものを感じていた。
この威圧のせいなのか、音が全く無いように感じる。いま、唾を飲み込んだらその音が聞こえそうだ。
「僕だ。紗那だ。母上に少しお話があるのだが入ってもいいだろうか?」
扉の向こうにも聞こえるように大きな声で返事する。
その姿は、年齢が少ししか変わらないとは思えないほど大人びた風格をしていた。
背丈は桜よりも少し大きいぐらいだったのに、今の桜の目にはどこまでも高く大きく写った。
「それは今私がしている仕事より大事な仕事なの?」
ノックした者が自分の娘だと分かり、仕事の邪魔になったのだろうか。声が冷たくなっていた。
桜なら、、こんな声で親に話されたら何も言わずに、誤魔化して立ち去ってしまうだろう。
しかし、桜の前に立っている彼女は違うようで前となんら変わらぬ声で答える。
「大事かどうかは分からぬが、客人がいて今しか出来ん話なので聞いてもらえるとありがたい。今が無理なら後日でも良いが、その場合はここで日程を決めたいと思っている」
「……いいわ、入って来なさい」
少しの静寂の後、入室許可の返事が返ってくる。
その返事を聞くと、扉をゆっくりと開く。
「おじゃまする」
「お、おじゃまします……」
部屋には以前見た笑顔で優しそうなお母さんの顔ではなく、眼鏡をしたテレビで見るようなイメージ通りの、でも圧倒的な存在感のある風貌の女性が座っていた。
豊美の姉は自分の母親に軽く頭を下げてから部屋に入った。
桜もそれに真似て頭を下げてから部屋に入る。
部屋の中は書類などがまとめてあるであろう、ファイルがたくさん並べられた本棚や、大きなソファが机を挟んで向かい合っていいる。そして、その奥に豊美たちの母親が座っていた。




