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彼女と彼の攻防戦  作者: 氷月
SIDE:N
4/20

4.いいこと思いついた

 一週間後の放課後、わたしは生徒会室にいた。


 わたしよりも遅れてやってきた生徒会長に、ぺこりと頭を下げる。愛想を振りまく気は当然ない。だが、そんな無愛想なわたしを気にする様子もなく、彼はにこりと笑う。


「こんにちは。二度目まして、だよね、中原さん?」


ああ、やっぱり覚えられてたか。派手な名前が悔しい。


「え、結城。もう後輩に手ぇ出しての?いくら何でも早すぎない?」

茶化すように割り込んできたのは、3年生だ。結城先輩は、その台詞に顔をしかめる。

「出してません。何言い出すんですか」

「でも、もう知ってますよ、て言い方が怪しいよね」

「中原ちゃんは覚えてるなんて意外、って顔してるし」

「そういうちょっとした出会いを覚えてるってのが、女子的にポイント高いってわかってるよねー」

すかさず、他の先輩たちがかしましく乗っかる。


 嫌な流れに続きそうだったので、わたしは前触れもなく立ち上がった。


「内山先輩、帰っていいですか?」

無礼なのは百も承知。とりあえず、生意気な後輩路線、これで行こう。

「え、やだ、中原ちゃん。帰っちゃダメだよ!結城君が来たから、これで全員揃ったのに」

「何かもう、本格的に面倒くさそうなんで、今すぐ帰りたいです」


本音だだ漏れだが、その方が生意気に映るだろう。そう思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。


 「ごめん、中原さん。君をからかうつもりはなかったんだけど」

何故かフォローされた。あれ、ここ、わたしにむかつくとこですよ?

「すいません。とばっちりが来そうな気がしたので」

さらに淡々と言いきったわたしの態度に、何故か結城先輩以下、複数の先輩が吹き出した。何でだ。


「彼女はクラブ紹介の最中に、保健室に来たんですよ。そこで会ったんです。今日は体調、大丈夫?」

最後のわたしへの問いかけに、わたしはにっこりと微笑んでみせる。

「いえ、本調子でないので帰らせていただきます。では」


いつもの猫をかなぐり捨てて、出て行きかけるわたしの腕を、内山先輩が掴む。

「いやいやいやいや。逃がすわけないじゃん、中原ちゃん!」

言って、そのまま元の席に座らされる。ちっ、甘かったか。


 でも、わたしの本性を知ってる内山先輩ならともかく、他の先輩たちの心証は悪くなったはず……。


 「まあまあ、お茶でもどう?」


 え?


 「あ、実はこっそりお菓子もあるんだ。食べる?」


 うん?


 「紅茶よりコーヒーがよかったら、そっちもあるよ」


 えっと。


 なんで、皆こんな歓待ムードなわけ?


 にこにこと上機嫌な先輩たちに囲まれたわたしを、結城先輩が面白そうに見ている。あれ、何でこの人も楽しそうなの?


 「何か自己紹介も済んじゃってるっぽいけど、改めて仕切直していいかな?まずはおれ、2年の結城遥斗。会長やってます。よろしく」

「え、よろしく、お願いします……?」

「じゃ、3年からね。そちらが菊川さん、副会長。隣の三橋さんは、会計ね。あと、向かいの鷹野さんも3年。3年はこの3人だけで、鷹野さんはクラブの体育会系担当で、アメフト部にも入ってるんだ。ぽいでしょ?」

「へ、はあ、まあ……」

「残りは全員2年ね。紅一点の内山はよく知ってるんだよね?こいつは風紀担当。内山の隣の井出と一緒にやってる。その隣の滝川は会計ね。あと、逆隣の斎藤が書記で、中原さんの目の前の清水がクラブの文科系担当。これが全員なんだけど、中原さんには斎藤と一緒に書記をやってもらうから、よろしくね」

「は、はい…………て!いやいやいやいやいや!ちょっと待って下さいよ!何でもう生徒会に入ること決定なんですか?!」


危なっ。何か勢いのまま肯くとこだった!何、今の丸め込まれ感!危険すぎる。


 「申し訳ありませんが、わたし、生徒会に入る気はありませんから」

ここははっきりきっぱり断るべきだ。わたしの危険回避能力がそう言っている。このままいたら危ない!


「でも、中学の時はやってたんでしょ?好きじゃないの?」

「中学の時は内申のためです。別に好きでやってたわけじゃありません」

「高校では内申はいらない?」

「そうですね。高校受験ほど重要じゃないので」


無愛想なはずのわたしの答えに、結城先輩が何故か楽しそうになっていく。て言うかその笑顔、めっちゃ怖い気がするのは気のせいですかね?


 「なるほど、内山から聞いたとおりだなあ」

何を言ったんだ、内山先輩!


 思わず先輩をふり返ると、思いっきり目をそらされた。わたしの疑問に答えてくれたのは結城先輩だ。


「いやさ、中原さんって、たいていは大人しい猫かぶってるけど、自分の意志を曲げたくない時とかの頑固さは尋常じゃないって」

ちょ、内山先輩!貴女また、余計なことを!


「で、まあ、今日の様子を見て、生徒会に入りたくないんだなってのは、よくわかったよ」

「あ、じゃあ……」

「だから、生意気な後輩に見えてもいいやって思ったんだよね?」

えっ、と。何だろう、この人。思わず、座ってることも忘れて後ずさりしそうになった。寒々しいまでに、背後から漆黒のオーラが見える、よ……?


「でもね、残念ながら、その作戦、大失敗だから」


実に実に楽しそうに、結城先輩はそう言い放った。


「はい?」


全くもって、意味がわからない。そこへ、三年生たちがさらに不思議な質問を重ねてきた。

「時に中原さん、こいつの顔見て、イケメンだって思わなかった?」

意図のわからない唐突な質問に、わたしは考える余裕もなく肯いた。

「あ、はい。ジャ○ーズにいそうとか思いました」

「だよねえ。しかもこいつ、ただのイケメンじゃなく、勉強もスポーツもできるんだぜ。天は二物を与えずなんて嘘っぱちだよなあ」


一体、何が言いたいんだろう?曖昧に肯くわたしに、先輩は続ける。


「と言うことはさ、こいつがもてるのは当然だと思わない?」

「まあ、もてないって言われたら、光速で嘘つけ、とは思うでしょうね」

「素敵解答をありがとう。じゃあ、そんな中原さんに質問です。クラスや学年が違うイケメンの結城君に近づきたい女子は、どうすればいいと思う?」


結城先輩と接点を持つためにどうするか?同学年ならともかく、他学年だったら?


「えっと…………生徒会に、入る?」


「ハイ、正解。当然、そうやって入ってきた子が、真面目に仕事するかって言ったら、しないんだよな、これが」

うん、わかる。わかるけど、この流れ、すっごい嫌な感じする。


「というわけで、うちの生徒会に入る絶対の条件を、おれたちは設けることにしました。それはねえ『結城の外見にぽーっとしない』です」


 言われて、血の気が引いた。


 え、その条件って。


 「というわけで、中原さんはその大変希少な条件に当てはまる1年女子な訳です。おめでとう!おれたち、そう言う子、喉から手が出るくらいほしい」

「自分で言うのもなんだけど、中原さんの反応、おれに対してめっちゃレアだから。しかもその打てば響くという反応、マジで生徒会向き」


 て、くるよねえええ!!!

 うわあ、マジで作戦ミスった!!!


 「てわけで、あきらめて生徒会に入って?」

キラキラした笑顔で、結城先輩が言う。騙されるもんか!


 「お断りです!」

「うーん、困ったなあ。それだと平行線だよね」

勝手に困っておけばいい。キラキラのイケメンだが、この人のお腹の中は真っ黒だ。

「こういう平行線の場合、わたしの意見の方に優先権があると思うんですが」

「優先権、ねえ。それを折れてほしいなあって」

「だからお断りします」

「どうしても?」

「どうしても!」


頑固に言い張るわたしを追い込んだのは、それまで黙っていた副会長の菊川さんだった。

「あ、良いこと思いついた」

ぽむ。打たれた両手の出す音が、大変に癪に障る。


「三顧の礼だよ、結城君」


「三顧の礼?」

「そう、あの三国志のアレだよ。劉備が孔明を軍師に引き入れるのに、三回も家を訪ねたって、アレ!」

唐突に出てきた話に、わたしは目をむいた。ちょっと、待って。それって。


「ああ、なるほど!うんって言ってくれるまで日参して説得するってことですね!」


「絶対、止めて下さい!!!」

立ち上がって、叫んだ。


 当然だ。

 目立ちたくないってこんな格好までしてんのに、このイケメン生徒会長が日参だと?

 ふざけてんのか。


 「でも、それくらいしないと、うんって言ってくれないでしょ?」

なんて、タチの悪い。これはもう、はっきりきっぱり脅迫じゃないか。

「………………今ここで、生徒会に入りますって言ったら、やらないですよね?」

「入ってくれる?」

キラキラキラキラ。イケメンの笑顔にこんなに腹が立つなんて、生まれて初めてだわ。


「っ!!わかりました!やりますよ!やれば良いんでしょう?!」

「じゃあ、決定!これからよろしくね、中原さん」

おお、という歓声と共に、わたしは拍手で迎えられた。


 心の底から叫びたい。


 何でこうなった!!!

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