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おつかいには危険がいっぱい(2)

「やっぱり、私じゃご不満かしら?」


 お茶を勧めるメイド長に、魔王は首を振って微笑む。


「ライラのお茶は美味しいよ、さすがメイド長」


 メイド長ライラはポットを置き、ふぅと息を吐いた。


「遅いわね、あの子。手紙と紅茶と……ちょっと私用を頼んじゃったけどすぐ終わりそうなものなのに」


 時刻は午後のお茶の時間。

 書記官のシェムも少し困ったように魔王を見る。

 魔王はぱっと見は平然としているのだが、さきほどからフォークを手の上で遊ばせて、持ち直したかと思えば置いて、スピーンに持ち替えたかと思えばまた置いて、と明らかに挙動不審である。それに、料理長お手製のケーキへの反応が芳しくない。あんなに無表情で食べられては輝くベリーも無念だろう。


「おやおや、お茶の時間はもう仕舞いかい?」


 突然の声。

 開けっぱなしの窓の外から「入ってもいいかい?」と聞く老女にライラは声を上げる。


「仕立て屋!」


 なんだい大きな声を出して、と言いつつ老女は窓をひょいと潜り抜け、乗ってきた絨毯を手早くまとめた。


「やけに早いじゃないの、仕事が早いのは知っていたけれど、こんなに早いなんて思わなかったわ」


 手際よく紅茶を用意するライラに、仕立て屋はゆっくり横に振る。


「いいや、何も知らないよ。ただ、魔王城のメイドが私を探してるって聞いてねぇ。どうせなら直接来ちゃえばいいと思ってね」


 そのあたりの空間からクッキーを取り出したライラに「相変わらずしょうもない魔法の使い方してるねぇ」と茶々を入れつつお菓子をほおばる仕立て屋。ついでに手を伸ばす魔王。


「それより若造、あんた相変わらずメイドいじめてるみたいだねぇ」


 にやりと笑う仕立て屋に、魔王は「この前ミニスカメイド服着せたこと?」と聞けば、仕立て屋は肩眉を少し上げた。


「あのメイド、ドラゴンから卵を強奪する方法を聞きまわってたらしいけど、あんたじゃないのかい?」


「ドラゴンの卵? さすがにあの子じゃ無理でしょ。まあ、やらせてみたいけど」


 笑う魔王。しかし、ライラは一瞬表情を失った。

 ドラゴンの卵。

 身に覚えがありすぎて、いたたまれなくなる。


「魔王様、もしかして、私が頼んだおつかいのせいかも」


 小さく言うと、魔王は顔をライラに向けた。


「雪子にハンドクリームを買ってくるよう頼んだのよ。仕立て屋のすぐ隣の店で売ってるから、ついでに買って来てもらおうと思って」


「いやいや、なんでハンドクリーム頼まれてドラゴン倒しに行っちゃうことになるわけ。雪子どんだけ馬鹿なの」


「商品名、ドラゴンのタマゴっていうのよ」


 魔王の動きが止まる。瞬間、空気がぐっと重みを増した。魔王から無自覚に漏れ出る魔力に息苦しくなる。

 仕立て屋が「それなら私も愛用してるねぇ」などと相槌を打つ。この空気の中で平然としているのはさすが年の功というべきか。


「ちょっと出てくる」


 言うが早いか、突風と共に魔王は消えていた。

 はらはらと床に落ちる書類を拾いながら、魔王様が戻ってきたらなんと言おうかしら、とライラは大きく息を吐いた。

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