エピローグ
本日3度目の更新です。
魔王様の突然のプロポーズから数か月。
私たちは新魔王選定戦の準備と並行して結婚準備を進めていた。
新魔王が決定したら引き継ぎが軌道に乗り次第魔王城を出ようという魔王様の提案により、新居を探したり、結婚式の場所選びに悩んだり、魔王様に内緒で料理長から料理を教わったりと、毎日忙しい日々が続いている。
新魔王選定戦は最終試験の会場でもあった軍の訓練所でやるらしく、敗者復活ありのトーナメント戦で十人にまで絞ってから一人ずつと手合わせすることにしたらしい。ちょうど公募期間が終わったところだけれど、応募者が数百人と少なく、来月には新魔王が決まるんじゃないかと予想されている。
魔王って意外と人気ないんですね、と言ったら、命の危険を伴う仕事であることに加え、前魔王様と今の魔王様が休日皆無で働きまくった上に節約志向なせいで魔王=ブラック職種というイメージがついてしまったとのこと。
うん、イメージ以前に客観的にブラックだと思う。
「そういえば雪子、異世界王国物語は全部クリアしたの?」
モンブランを食べつつ聞いてくる魔王様に、咀嚼していたイチジクを飲みこむ。
「はい。あれ、バグルートがあってびっくりしました」
攻略本には書かれていないバグルート。それは攻略対象者の好感度を全部低く抑えた上でライバルキャラである悪役令嬢の好感度を引き上げた状態で最後の選択に辿り着いた場合に発動する。
もっとも、悪役令嬢の好感度は画面で見ることができないのでそのへんは勘だ。
「で、何が出た?」
「画面が暗くなって、魔王様の顔そっくりなイラストが出て、魔王様そっくりの声で『この世界は異世界じゃない、すぐそばにある』って言われました。ホラーでした。しかもそこまでのプレイデータ消えた状態でスタート画面に戻されるし」
「うん、それバグじゃなくて仕様ね」
「いやいや、ゲームやってるのに魔王様が出てこられても困るんですけど。……ってか仕様? なんで仕様で魔王様が出てくるんですか」
「だって、そのゲーム作ったの僕だから」
なんですと?!
「副業で知育玩具の会社やってるって言ったでしょ。異世界王国物語は魔族の子ども世代に人間の国について知ってもらうために作ったゲームなんだよ。他にも経済を学べるゲームとか歴史を学びながら世界征服するゲームとか作ってるよ」
乙女ゲームを知育玩具にしないでください!!! 夢が、夢が壊れる!
「ちなみに雪子に渡したゲーム機とソフトは僕が特別に改良したやつだよ。雪子が素手でゲーム機に触っても壊れないように防御かけて、ついでに雪子が無意識に空気中から回収してる魔力をゲーム機に流すように魔法を組んであるから充電要らずで遊び放題。感謝してよ」
ケーキを平らげた魔王様が机の下に置いていた段ボールをがさがさ漁りだす。
「というわけで、次は試作品のデモプレイしてみない? 今度は吸血族と獣人の理解推進用知育玩具なんだけど」
魔王様に渡されたゲームカセットと仕様書。そこには「東の楽園~二人きりのエデン~」というタイトルと共に「見慣れぬ魔法陣を踏んだせいでイーストランドに飛ばされてしまった主人公。助けてくれたのはドSなイケメン、お隣さんは犬耳の美少年! 甘い誘惑ともふもふ天国、選ぶならどっち?」と書かれていた。
「これ、イラスト見る限りR指定つきませんか、特にこの半裸のイケメン吸血鬼」
「んー、一応R150かな。吸血族は女性も活発だから女性キャラの攻略も可能にしてあって、攻略対象は前より増えて6人だよ。お買い得」
「私、まだ20歳なので買えないんですけど」
「寿命の比率から計算すれば雪子は210歳だから問題ない。なんならR180もやりたい? 実地訓練してあげるよ」
魔王様が楽しげに体を乗り出してくる。
「結構です」
すぐさま断るも、魔王様は「そう?」と立ち上がった。私の座るソファに近寄り、すぐ横に座ったかと思えば体を寄せてくる。
「ちょっとつれないんじゃない? 僕たち一応婚約してるよね?」
「魔王様、私、そろそろ仕事に戻りますね。こちらのゲームは空き時間にプレイしてレポートさせていただきますので」
最後の一口を放り込んでケーキ皿を片付け、紅茶も一気飲み。そのまま立ち上がろうとして、
「待って」
腕を引かれて、触れるだけのキスをされた。
「魔王様セクハラ。パワハラ。変態」
「仕事が終わってからなら良いってこと?」
「そういうわけでは……っ、考えておきますね」
魔王様が瞳に色気をにじませてきて、つい断り切れなかった。
私の答えに魔王様は目を細めて口元に笑みを浮かべる。
太陽が欠けた日、私の世界から太陽が消えた。
でも、太陽を失った代わりに、私は居場所を手に入れたんだ。
終
これにて完結です!
お読みいただきありがとうございました。
完結ご祝儀に評価をいただけると嬉しいです!(おねだり)
誤字・語句誤りの指摘などいただければ随時手直ししようと思います。
いただいた感想に応じて後日談やサイドストーリーを追加する……かもです。




