おつかいには危険がいっぱい(1)
雪子は城下町をさまよっていた。
魔王城から山を下ること徒歩1時間、城下町は魔界で一番栄える町として存在している。
おつかいに行ってくれないかしら、とメイド長に言われたのが朝食後すぐのこと。しかし、時計を見るとまもなく昼になろうとしていた。
おつかいの内容はほとんど城下町で済むものだから昼には戻れるはずだったのに。雪子は大きくため息をつく。
残りの用事は、仕立て屋さんにお手紙を渡すことと、ドラゴンの卵3個。
一つ目の敗因は、朝一番に行った仕立て屋に見習いしかおらず、仕立て屋さん本人は留守だったこと。
お手紙を渡すくらい見習いさんにでも良い気がしたが、このお手紙、本人に直接渡さないと大声で叫びだすのである。そろそろ行き先の手掛かりが見つかればいいのに、と頭を抱えざるを得ない。
二つ目の敗因は、ドラゴンの卵を取り扱っているお店がないこと。
城下町にはいくつも食料品店をまわり、竜族の人にも聞いてみたが、首を横に振られた。というか、竜族の人には「竜族とドラゴンを一緒にするな」と怒られた。どうやら、人間とゴリラくらいの違いがあるらしい。落ち込む雪子を憐れんだのか、彼は城下町からほど近い洞窟にドラゴンが住んでいるらしいということを教えてくれた。忠告しておくけど、と続ける彼に、雪子の気分が地中のマントル深くまで落ち込む。
「自分の子を奪いに来るやからに容赦はないと思え、か」
思わず口に出して、まだ見ぬ母ドラゴンの姿を想像する。きっと大きいだろう。火を噴いたりもするだろう。ツメなんかも、大きく鋭く、触れればひとたまりもないような威力を持っているんだろう。
魔法も使えないし、軍の人みたいに筋力があるわけでもない雪子に頼む「おつかい」にしては、荷が重すぎるのではなかろうか。
渡されたメモをもう一度読む。
「一、仕立て屋本人に手紙を渡すこと
二、紅茶の茶葉10種類
三、ドラゴンのタマゴ3個 よろしくね」
ごめんなさいメイド長、よろしくできそうもありません。
あと、おなかが減りました。
美味しそうな匂いが、いま、目の前に。
腹が減っては戦はできぬ。
ドラゴンと戦うにしても、その眼をかいくぐるにしても、とりあえず、腹ごしらえしましょう。