乙女ゲームの世界に転生しました?(4)
放課後の教室で、私とルシアンは二人きりで向かい合っていた。
「始めようか」
そう言って教室の鍵をかけたルシアンはキャリーケースのふたを開ける。
すると飛び出してきたのは可愛らしい手のひらサイズの妖精だった。
炎のような服をまとったもの、鳥のような翼のはえたもの、中国の竜を可愛くデフォルメしたようなもの、花びらをまとったようなもの、色んな妖精が教室内を縦横無尽に飛び回る。
「みんな、今日は彼女に力を貸してほしい」
ルシアンの呼びかけに「どうしよっかなー」と声がする。
「でも、まず俺からやるから。そうだな、光。ここに光の球が欲しい。助けてくれるかな」
空中でイイヨーと声がする。
「ありがと。光の球!」
ルシアンの声と共に私とルシアンの間に光の球が浮かぶ。
「ありがとう。消していいよ」
アイヨーという答えと共に光の球が消えて、「ゴホウビはー?」と声がする。
ルシアンは声の主を手招きしてその耳に口元を寄せると、何事かを囁いた。頷く妖精はなにやらとても嬉しそうだ。
「こんな感じで、お願いをして力を借りるんだ。見返りはお菓子だったり、色々かな」
色々ってなんだろう……。
やってみて、とルシアンに言われるまま、妖精たちに呼びかけてみる。しかしその反応は芳しくなかった。
それどころかちょっかいなのか小っちゃい火の玉を投げつけてくる始末。
『キャッチボール!』
反射的に叫べば、火の玉が体に吸収される。……あれ? この感覚って。
もしかして私、前世のスキルが少しは使えるってこと?
「ねえ妖精さん。あなたに触れてもいいですか?」
ちょっかいをかけてきた妖精を呼んでみると、彼女は「いまのどうやったのー」と興味ありげに近づいてきた。
その小さな手に指先で触れる。
その瞬間、指先が熱くなって手から腕に熱が伝わってきたかと思ったら、妖精は消滅してしまった。一拍おいて残った妖精たちが騒ぎ出す。
「おい、いま何やった」
ルシアンが焦ったような声を出して、私は魔王専用車に素手で触れた時のことを思い出していた。魔力を吸い取ったら倒れる。ということは、その体から全ての魔力を吸い取ってしまったら、魔界の生き物は存在できなくなってしまうのではないか。
妖精たちに目をやる。
「ねえ、あなたたち」
「今日はここまでにしよう。風の妖精さん、カプチーノ家にアシュレイを迎えに来るよう伝えてくれる?」
私が妖精に質問しようとしたのを遮ってルシアンは窓を開ける。風の妖精と一緒に他の妖精も全部外に出ていってしまった。
窓を閉め、カーテンまで閉めるとルシアンは私の頬に触れる。
「おまえ……妖精殺しか」
灰色の目が突き刺すように私を拘束する。
キャッチボールの効力が残っているのに、ルシアンは影響を受けずに私の頬に触れ続ける。そういえば彼は私の手に触れても何の影響も受けなかった。
「違う、私は、私はただ、……無効化の魔法が使えるだけ」
妖精を消滅させるつもりなんてなかった。殺すつもりなんて、なかった。ちょっと触れて魔力を吸い取って返せば、黒兵衛みたいに懐いてくれるかもって思っただけだった。妖精殺しなんていう変なスキルだって持ってない。私はただ、仲良くなりたかっただけなのに。
でも、なんであなたは平気で私に触り続けていられるの?
ねえルシアン。
あなた、いったい何者なの?




