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乙女ゲームの世界に転生しました?(2)

「アシュレイ、母さんはわかるわ! あなた転生したのよ!」


 和やかな食卓。

 お嬢様とか言う割にはカレーとサラダと言う普通の食事に舌鼓を打っていると、自称母さんはそんなことを言い出した。


「爺やから聞いたわ。あなた、自分を雪子って名前の女の子だと思っているんでしょう? しかも妖精を使わずに魔法を使おうとしたんですって?」


 爺や、あんた部屋に監視カメラでもつけてるんじゃないでしょうね?

 にらんでやろうと爺やを探すも、爺やの姿は見当たらない。逃げたか。


「最後の記憶の中で事故に遭ったりした記憶とかあるんじゃない?」


 自称母さんはそう言って微笑む。

 うん、たしかに魔法の光に貫かれて死を覚悟したけどね。


「その顔はあるんでしょう? 大丈夫よ、前世の記憶を思い出すときって、記憶が混乱してそれまでの記憶を忘れてしまうことがままあるの。そのうちこれまでの記憶を思い出すだろうし、思い出せなくたって未来はこれから作っていくものだもの、問題ないわ」


 自称母さんのテンションの高い一人語り。

 そういえば、異世界物語のノベライズと一緒に借りた薄い冊子にそんな話があったっけ。

「キャロラインは思い出した。この世界が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界であることを。そして同時に知る、自分がゲームのヒロインに転生したことを。」

そんな出だしで始まる短編小説は、ヒロインに生まれ変わった主人公がゲームの世界の記憶を頼りに爆速でイケメンを攻略したり前世の記憶を頼りに世界に革命を起こしたりする清々しい物語だった。

 ……ってまさか。まさか私が、異世界物語の世界に転生? もしそうだとして、カプチーノ家の令嬢ってたしかヒロインのライバルキャラで王子様と良い感じで、でもヒロインが略奪愛しちゃうせいでドタバタあって家から追い出されるんじゃなかったか。え、私追い出されるの? いま来たばっかりなのに?


「ごちそうさまでした」


 そう言って立ち上がれば、自称家族の二人が「もういいの?」「もっと食べなさい」と言ってくる。本当のお父さんとは顔も声も年齢も全然違う自称父さんだけれど、お父さんが家にいたらこんな感じだったのかなって、ふいに悲しくなる。


「あの、お風呂入りたいんですけど」


 悲しくなったことを悟られないように笑みを作って聞けば、自称母さんは「出て右の扉にお手伝いのメアリーがいるから準備してもらうと良いわ」と教えてくれる。

 これには素直にお礼を言って、私はリビングらしき部屋を出た。

 出て右の扉。


「あの、メアリーさん」


 ノックと共に声をかければ、お掃除会社の人が着ているような作業服を着たお姉さんが出てくる。年齢は三十代より少し若いくらいか。


「お風呂に入りたいんですけどどうすればいいですか。その、お風呂の位置とかタオルとか着替えとか、全部記憶がなくなってて」


「はいはい、お湯入れますね。タオルは私がご用意しますし、お着替えはお嬢様のお部屋にあると思いますのでご自由に選んでいただければ大丈夫ですよ。準備が出来たら呼びますのでお部屋にいらっしゃってください」


 まるで温泉旅館で説明を受けているような気分になりながらメアリーさんの説明を聞き、ついでにトイレの場所も聞いて部屋に戻る。

 ベッドの上に座って、ついでに寝っころがって考える。

転生。ということは、雪子はもう死んでしまっているんだろう。そうなると、この世界は魔王様やメイド長の生きている時代からずっと先の時代かもしれないし、はたまたまったく違う世界線上にあるのかもしれない。

 暇つぶしに本棚にあった妖精に関する本を開けば、妖精の種類やランク、生息地域などが書かれていた。妖精は肉体を持たず小人のような姿をしているが、下の方のランクだと綿毛のように見えるらしい。妖精にお願いすることで妖精が自身の魔力を火や水に代えてくれて、それを利用するのが魔法であると本には書かれていた。

 この世界の魔法はお願い力が物を言うということか……。そりゃライバルキャラは魔法苦手だわ。ライバルキャラらしく高笑いして高圧的にお願いされて喜ぶのってマゾの資質がある妖精くらいだろう。

 ここまで考えたところでメアリーさんが呼びに来た。

 お風呂にシャワーがついてなかったり追い炊き機能がないあたり、お金持ちっぽい家なのに設備不備が目立つ。しかも石鹸が一つに、何に使うのかわからない液体の入った瓶が一本あるだけで、シャンプーやコンディショナーがない。慌ててメアリーさんを呼ぶと、石鹸で頭と体を洗った後、瓶に入った液体を洗面器のお湯で希釈して髪をすすぐとサラサラになりますよ、と教えてくれた。

 魔王城にはシャワーも追い炊き機能もあったしシャンプーもコンディショナーもヘアパックも完備されていたのに、この世界って私が生きていた時代よりも旧時代な設定なんだろうか。うわあ、嫌だなそれ。ドライヤーあるかな。

 恐る恐る聞けば、ドライヤーはあった。しかし、内部の魔石に風の妖精の力をため込んで放出する装置らしく、風の威力は非常に心もとない上に温風は出なかった。

 どうやら異世界王国物語は王子とか騎士とかが存在するだけあって旧時代的な世界観らしい。どうせ生まれ変わるなら近未来な世界に行きたかったわ……。

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