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乙女ゲームにはまりました(2)

 魔王様からの呼び出しはいつも突然だ。

 一応休暇中のはずなんだけどなぁ、と思いつつ走っていくと、執務室の扉は開いている状態で、料理長が魔王様と話しているところだった。


「失礼します、雪子です」


「入って」


 魔王様の不機嫌そうな声にどきどきしつつ背すじを伸ばして壁際に立つと、魔王様は目を開いた状態で雪子をじっと見る。


「最近、おやつがマンネリなんだけど」


 そうなんですか? と料理長を見れば、少し困ったような目を向けられる。


「ネイサンに聞いたら、最近雪子が城下町でお菓子を買ってこないのが原因なんだって?」


 ネイサンとは料理長の名前だ。

 料理長、私を売ったのね?! とは言わず、穏便に済むにはなんと言えばいいかなぁと考えつつ口を開く。


「夜のおやつ会のために買いに行ったりはしてましたけど……最近は学校のことで忙しくて城下町に行けてなくて。でもそれは料理長への差し入れで、魔王様は召し上がったことはないはずです。魔王様デザートは全て料理長の手作りなので」


 結局事実をそのまま話すことにした。ここ数日は学校に行っている以外は部屋に引きこもって乙女ゲームのノベライズを読んでいましたとは言えない。いま良いところだから勉強しろとか言われると困るし。


「僕が一日に何種類のお菓子を食べているか知っている?」


 何種類? 何回とかじゃないんだ……。


「朝食のデザート、昼前のおやつ、昼食のデザート、午後のお茶、夕食のデザートで5種類ですか?」


 魔王様が首を横に振る。


「午後のお茶か夕食のどちらかで2種類以上、あと夜食のフルーツサンドで最低7種類だよ」


 糖尿病になりますよ、魔王様。

 そんな私の心の声は通じない。


「だから、ネイサンのアイディアのために新しいお菓子や季節ものをどんどん発掘してもらわないと困るわけ。ってことで、行ってきて。今すぐ」


 わがままか!

 いきなりの呼び出しだから緊急事態かと思ったのに、なんだか拍子抜けだ。

 それ、私の貴重な読書タイムを犠牲にしてまでしなきゃいけないことじゃないよね魔王様?


「雪子嬢、私からもお願いします。魔王様の執務が滞ることだけは避けねばならないのです」


 いつの間にいたのか、反対側の壁際にいたシェムさんが言葉を続ける。


「あとで休日手当をお渡ししますから」


「いくらですか」


 普段は聞かないけれどつい聞いてしまうと、シェムさんは少し考えて「先日、おもちゃ会社の方がPR用にと限定色のゲーム機とソフトをくださいましたので、そちらを差し上げましょう」とにっこり笑った。


「たしかソフトの名前は……異世界王国物語とかなんとか」


 異世界王国物語!

 今読んでいるノベライズのオリジナルのゲームだ!


「承知しました!」


 ゲームのためならお菓子やケーキくらいさくっと買ってきちゃうんだから。

 もうこれはさっそく行くしかない、と執務室を飛び出して鞄をつかむ。

 行き先は……。


「城下町噴水前」


 百貨店の閉店時間まであと二時間弱、城下町のケーキ屋さんをまわってから百貨店前に移動するルートで行こう。

 吊り革を鞄にしまうが早いか、雪子は城下町を駆け出した。

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