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乙女ゲームにはまりました(1)


 学校生活も後半に入って、学校の中は慣れた空気が漂っていた。休み時間には友達同士で本や漫画の貸し借りをしていたり、ゲームで共同戦線を張っていたり。

 そんな中、雪子は一人で教科書を読んでいる。

 そう、雪子はぼっちだった。

 昼休みは教室で一人でお弁当。下校時は誰も行かない方向へそそくさと帰っていく。そしてダントツビリの成績。採用試験でもあるこの学校生活で、友達ができる要素はほぼゼロだった。最初のうちは友達ができそうな感じでもあったけれど、水道を壊したあたりから風向きが悪くなったらしい。世知辛いものである。

 そんなわけで成績向上のためにも教科書を読んでいると、斜め後ろの席の女の子たちの会話が耳に入ってきた。


「やっぱり鬼畜メガネ最高! 彼のためにここ数日寝不足になったかいがあったわぁ」

「えー、ぜったい王子様でしょ」

「それやると悪役令嬢が可哀想だから嫌」

「は? あのキャラ好きなの?」

「最近悪役令嬢モノにハマってて」

「まじか」


 なんだか夢とロマンと少女漫画の雰囲気がする!

 ぐるりと後ろを向くと、二人の女の子の手にはゲーム機らしきものと薄い冊子が数冊、そして厚めの本があった。よくよく目を凝らすと「完全攻略ガイド」と見える。


「あ、えーっと、ユキコさんだっけ? ごめんね、うるさかった?」


 目を凝らすときに目つきが悪くなっていたのか、二人が謝ってくる。

 違う! そうじゃないの!


「あの、楽しそうだなって、思って。私漫画とか好きなんです」


 本を隠そうとする二人になんとか言うと、二人は安心したように笑った。


「乙女ゲームやってる?」


 乙女ゲーム?

 聞くと、乙女ゲームは美少女ゲームを女性向けにしたもので、プレーヤーはヒロインを操作してたくさんのイケメンの中から一人を選んで恋に落ちたり、全員と恋して逆ハーレムを築いたりするゲームのことを言うと教えてくれた。

 「完全攻略ガイド」の人物紹介を見るとキラキラなイケメンがいっぱいで、スポーティーな少年から色気のあるオジサマ、真面目そうなメガネ男子に甘い笑顔のアイドルキャラまで選り取りみどりだ。

 すてき、と呟くと、二人は「でしょー」と頷いてくれた。

 もっと話を聞こうとしたところで休み時間が終わる。残念、と思っていると「また放課後にね」と言ってもらえて、思わず力いっぱい頷いた。



「自室前」


 ふぁーん、しゅー、ごっとん。

 授業後、研修施設の陰で吊り革を使って帰宅するが早いか両手に抱えた本を広げる。

 イケメンたちがピンク色の髪の少女を囲んで微笑む表紙には、「異世界王国物語~学園ラブはキケンがいっぱい☆~ ノベライズ1」と書かれていた。

 ゲームをするのもいいけど小説版も良いんだよ、という持ち主の言葉を思い出しつつ、雪子は本の世界に飛び込んだ。


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