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下校ルートは危険がいっぱい(4)

 アベルの執務室。

 夕食を終えて紅茶を飲むアベルの横で、小瓶の中をてんとう虫がせこせこと歩き回っている。君は元気だね、と瓶をつついてみるも、てんとう虫はなんら意に介さずせこせこと歩き回り続ける。この肝の座った感じは雪子に似ているな、と思って見ていれば、急に光が失われる。

 魔法が終了されたのか、それとも、さらに距離が離れたか眠ったか。集中して気配を探るも、雪子の魔力は一切感じられない。魔法が終了されたと言うことで間違いないだろう。

 魔法が終了された場合で考えられることは3つ。一つ目は、雪子が自分の意思で終了させた場合。二つ目は、誰かに終了させられた場合。三つ目は、体内魔力もしくは体力の著しい低下があった場合。

 願わくば一つ目であってほしいが。

 雪子の存在を知っていて、かつ敷地内に入ってこられる者を挙げたリストを一瞥する。城で働く者はもちろん、城下町の者や今運営している学校の関係者。できるだけ守ってきたはずなのに、敵となりうる者はあまりに多かった。特に今月から学校に通わせた関係で、採用前の信用度の低い者が敷地内に多くいることが更に頭を悩ませる。自分が悪かったのか、でも、一人の人間を人形のように閉じ込めておくわけにもいかなかった。

 もう一度採用試験受験者を洗い直すか、と部下を呼ぼうとした時だった。

 空気の揺らぎと共に窓ガラスが消滅し、何かが部屋の中に飛び込んできた。魔王であるアベルの張った結界を解除した、ということは敵。すぐさま捕縛にかかれば、意外にもそれはすぐに捕まった。

 アベルの捕縛魔法である紫の球の中に浮かぶのは濃紺の箱。警戒しながら開けると、中から雪子の服が出てきた。先日魔界百貨店で見繕ったばかりのワンピース。それと靴に靴下……下着。


「この無茶苦茶な魔法に身ぐるみを剥がす変態っぷりは……あいつか」


 雪子、無事に生きてるかなぁ。変に逆らってないと良いけど。

 妖精の国を調査中であろうシェムシュにすぐ戻ってくるよう伝え、内線でライラを呼ぶ。


「それにしても色気のない下着だな」


 アベルの声は魔界の夜に消えていく。



 その頃、雪の降る大陸ではサケルが楽しげにまぶたを開けた。

 濃紺の箱に仕込んだ監視魔法で見えたアベルの顔。のんきな様子ではあったが、左の口角が一瞬引きつったのが確かに確認できた。

 イケメンだのアイドルだのと呼ばれている『魔王様』には似合わないんじゃないかな、その表情。

 サケルにすり寄ってくる花魁風の着物を着た女たちを適当に撫でつつ、上唇を舌で舐め上げる。

 この数十年のうちでも例を見ないほどの上機嫌でサケルは微笑んだ。


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