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魔王様特製「学校」(1)

「最近、魔王様が変なんです」


 廊下にモップをかけながら、雪子はメイド長に相談する。


「なんか、ちょっと壁があるというか、いじってはくるけどなんか暴力度が減ったというか」


「あら、暴力性が減少したのなら良かったじゃない」


 メイド長は廊下の灯りを一つずつ点検しながら続ける。


「魔王様もね、あなたがドラゴン退治に行ったって聞いてすごく心配していたのよ。おまけに、この前のパーティーで変な男に絡まれたんでしょう、あなた」


「私、別にドラゴンを倒しに行ったわけじゃないですし、絡まれてもないですよ。まあ、ダンス申し込まれてちょっと戸惑いましたけど」


「あら、変な男に絡まれて困っていた女性を魔王様が救出したって書いてあったのに」


「どこにですか」


 モップの手を止める雪子に、メイド長が一冊の雑誌を手渡す。女性週刊誌『MAJOM』の最新号。

 ぱらぱらと中を見ると、「華麗なる魔王様のお誕生日」というタイトルと共に「彼を独占した謎の美女」というサブタイトルが目に入ってきた。


「なんですかこれ」


 読み進めれば、魔王様のダンスの相手を独占した不届き者は誰だと言う糾弾めいた文言に始まり、紛れ込んだ不審な男に絡まれる女性を守るためにあえてその手を取り続けた心優しき魔王様を褒めたたえる内容が長々と続き、その後お仕事のために中座された勤勉な魔王様を更に褒めたたえる文章で締めくくられていた。

 なにこの記事、嘘しか書いていないんだけど!?

 ダンス中の写真も載っているけれど、後ろ姿なのが救いだ。これで顔が出ちゃってたら城下町を歩けなくなるところだった。


「良かったじゃない、美女って書いてもらえて」


「そういう問題ですか……?」


 女性週刊誌って読んだことがなかったけれど、こんな嘘八百なゴシップ誌なら読まない方が正解なのかもしれない。精神的に。


「で、あのあと、どうだったの? あなた、あの部屋へ行ったんでしょう」


 メイド長の目がどこか怪しげに光る。


「あの部屋って、魔王様のサブ寝室ですか? 雨漏り対策に用意してるって言ってましたけど、普段使わないのに綺麗でびっくりしました」


 メイド長は一瞬眉根を寄せたようだった。


「それで?」


「えっと、なんかすごい勢いで化粧落とされてパジャマ貰って、そうだ、メイド長聞いてください!」


 メイド長の綺麗な顔がまっすぐに雪子を見つめる。


「私、学校に行くことになりました」


「はい?」


 メイド長の綺麗な顔が崩れる。


「気づいたら寝ちゃってて、起きたら昔の話をしてもらえて、でも寝ちゃって、起きたら魔法の勉強してみたいか聞かれて、とりあえず行ってみようって」


 突然頭を抱えだす美女に手を差し伸べようとすると、彼女はそれをやんわりと断った。


「魔王様に、話します。あなたの上司として、あなたの人生の先輩として」


 灯りはもういいから、残りの掃除は任せたわ。

 そう言って早歩きで去って行くメイド長を、雪子は呆然と見送った。

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