パーティーには危険がいっぱい?(3)
魔王様のエスコートが暴風から強風に代わるころ、曲が終わる。
ざわめきの中、魔王様のパートナーになることを待っているであろうお姉さま方からの視線が痛い。
「交代しましょう魔王様」
石になる光線が出そうな目がいっぱいこっちを見てるし。気づかないうちに寿命減らされてそう。
「僕の話聞いてた?」
スローテンポな曲が始まる。
魔王様は手の握り方を変えて、ついでに雪子の腰に手を添える。普段ならセクハラだが、ダンスなら仕方がない。それに、いつもなら「太った?」なんて言ってきそうなのに何も言ってこないし。
スローテンポの曲の時は世界一の美女になったつもりで踊ると良いですよ、とシェムさんが言っていたことを思い出す。
無茶言うよなぁ。だって周りにいる人の方が明らかに美人なんだもん。っていうか、私より男の人の方が顔が整ってる気がする。魔界人の顔面レベル高すぎ。
「雪子」
魔王様が雪子を引き寄せる。真後ろすれすれを別のペアがすり抜ける。危ない。
「よそ見しないで。僕だけ見てればいいから」
「ごめんなさい」
カッコつけた表情の魔王様は燕尾服も相まってなんだか別の人みたいだ。
雰囲気にのまれたまま踊って、曲の終わりには「疲れたでしょ」とバルコニーへ連れられて水を渡されたりして、普段私が魔王様にしていることを魔王様にされていて、不思議な感じ。
案外全部夢だったりして。
やたら綺麗に見える星も、魔王様が優しいのも。痛くなるかと思った足も、全然痛くないし。
「雪子、……もしかしてだいぶ飲んでるね?」
はて、なんのことでしょう。二杯しか飲んでないと思うんですが。
魔王様を見上げれば、目を細めていて。ああ、いつもの魔王様だと思う。
涼しい風の吹く静かなバルコニーとは違い、広間ではまだまだダンスが続いているようで、にぎやかな雰囲気が背中に伝わってくる。あの中に戻るの、めんどくさいなぁ。
「ベッドが恋しくなってきちゃいました」
だから、そろそろ帰っていいですか。そんな気持ちで魔王様を伺うと、魔王様は細めていた目を少し開いて、ちょっと困っているようだった。そんなにお姉さま方とダンスするのが嫌なのか……外面良いくせに……。
「お姉さま方のところに行かないっていう選択もあると思うんです」
ダンスが嫌なら、ドリンクカウンターあたりで政治か経済かの話をしているおじさまたちに加わるとか。料理長の絶品料理を全制覇するとか。ああ、あとで料理長に余った分の料理もらおうかな。美味しそうなものはいっぱいあったけど、ほとんどが手が届かないところにあって諦めてたんだよね。
「いつの間にそういう言葉を覚えたの。シェムが後ろで糸引いてる?」
「シェムさん? どういう意味ですか?」
「いや、なんでもない」
魔王様が手を差し出す。グラスを渡そうとすると「グラスはそこに置いておけばいいでしょ」とグラスと反対の手を握られた。
「行くよ」
「え、ダンスはもう嫌です」
「広間には戻らないよ」
じゃあ、どこへ。
「ベッドへ行きたいんでしょ」
魔王様が空いた左手で空中をなでるようにする。光の筋が檻のように雪子たちを包んで、まばたきを数回するうちに見知らぬ部屋にいた。
「どこですか、ここ」
「魔界です」
「知ってます。魔界のどこですか」
「僕の寝室」
なんでやねん。
思わず突っ込みを入れてしまう。
寝室ならベッドはあるだろうさ。でも違うでしょそこ。
「ドレス脱いだら?」
ジャケットやら蝶ネクタイやらをぽぽいとそこらに放る魔王様。ってかなんでシャツのボタン外してるんですかね。




