第三話 皇帝陛下が現れたんだけど
*前回のあらすじ*
魔王オベイロンが妻に浮気がバレて殺されました
魔王オベイロンが死んでから300年・・・。
未だ勇者も世界の危機も現れません。
俺もうこの洞窟を一生の住処にしないと駄目かな・・・。
「まーた黄昏ておるのか。」
「動けない状態でこんな洞窟に800年も居てみろよ・・・。始めは聖剣だ!よっしゃ!って喜んだけど何も出来ないままここに居続けるとか苦行でしかねぇよ・・・。」
「適当な人間に聖剣を抜かせるわけにもいかんしのぉ。そこはじっと我慢するんじゃ。」
我慢と言われてもね・・・。
800年ずっと我慢してるよ?
だって魔法があるファンタジーな世界だよ?
洞窟にはモンスターなんか出てこないけどきっとスライムとか竜とか悪魔とか居るよ?
そんなの見れずに、しかも街すら見れずに800年だよ?
技術的な物は進歩してないらしいけど全く見れないんだよ?
せめてカメラとか放送機械とかテレビとか作って行けよ300年前に現れた異世界の勇者さん達よぉ・・・。
「まぁそう不貞腐れるな。今日は客を用意した。」
「ちゃんと話通じる精霊だろうな?」
そう毎度レネ爺が連れてくるのは前現れたシルフみたいな話の通じない馬鹿な大精霊か、長々と話をしてこっちの話を聞かない馬鹿な大精霊とか・・・。
会話が成り立つようなやつを連れて来て欲しい・・・。
まぁそれでも大精霊との会話にならない会話は刺激になるから良いんだけどさぁ。
「今日は大精霊じゃない。皇帝の御一家じゃよ。」
「はぁ?良くお母様(女神様)が許したなぁ。」
「まぁあの方もお主の境遇は些か不憫じゃと許可をくださったのじゃ。さぁ入って良いぞゼブレム・イスタリオ皇帝陛下。」
いつもレネ爺が入ってくる出入り口からゆらりと男が入ってきた。
年齢は3~40歳位か?
背はなかなか高いが比較対象なんかないからよくわからんが、ご立派なヒゲを生やしてからまぁ。
その後ろから多分お妃様なんだろうな。
なかなか良い双丘をお持ちだが俺の精神年齢より上すぎてパス。
というかないわー、キツそうな顔してるし。
あれと結婚する位ならまだここに封印されている方が良い。
うん、俺は若くて可愛らしい娘が好きだ。
と思ったら次に現れた娘。
ドストライク!
腰まで伸びた緑色の髪、まだあどけなさが残る可愛い顔。
まだそこまで大きくないけど年齢的な事を考えたらまだ大きくなるであろう双丘!
あの母親に似なくて良かった!ありがとう遺伝子!仕事しないでくれて!!
「レネゲードよ。これがそなたの言った聖剣か?」
「そうでございますよ、皇帝陛下。これが儂が守護を任されておる聖剣ネオガイアじゃ。」
「このような質素な剣がですの?ふん、貴族の持った華美な剣の方がまだ聖剣らしいですわね。」
かっ、ちーん。
あんた今、俺を敵に回したよ?
というか俺を作った女神様すら敵に回したよ?
それすなわち世界を敵に回したと同義だぜ?
そんな簡単な事もわかんねぇのかこのババァは?
いいぜ?俺が担い手決めたら最初の標的はお前だクソババァ!
「お母様。この聖剣は女神様がお作りになった物ですよ?その様な罵倒をしてはいけません。」
「何を言うのですか。この様な質素で宝石の一つもついていない剣を持つのは平民か冒険者などというならず者程度ですわよ?」
「あぁん!?ババァその程度にしとけや?武器に必要なのはその威力だ。宝石なんてくっつけたナマクラなんぞより800年間ここで朽ちず錆びず作られた当時のままの輝きを放つ俺の方が立派に決まってんだろうが!」
「まぁ!レネゲード老!聖剣は喋るのですか!?」
ふむ、あのクソババァと可愛い娘は俺が喋るのに驚いているが皇帝は違うのか。
まぁレネ爺から色々話聞いてるんだろうな。
当然と言えば当然だな、皇帝だしその位の情報は持っているか。
「そうだぜお嬢ちゃん。俺はインテリジェンスソードだからな。自分の意志があるし担い手を選ぶのも俺だ。お嬢ちゃん可愛いから俺の担い手になるんだったら大歓迎だぜ?」
「大地よ・・・。さすがにそれは許されぬぞ?」
「なんと下品な言葉遣い・・・。やはりこれはならず者が持つような剣ですわね。」
「やめよシャンドラ。お主は些か言葉が過ぎるぞ。すまぬな聖剣ネオガイア殿よ。妻には後できちんと言い聞かせておく。」
どうも皇帝はあのクソババァを持て余しているようだな。
ここまで口が悪いなら当然だろうけどな。
地位が高いからと言って自分自身が偉いとでも勘違いしてるのかね?
やっぱただのクソババァだな。
存在価値無し。
まぁ、このクソババァが死んであの可愛い娘が悲しむならその位の生きてる価値はあるな。
可愛い娘を泣かせるのはいかん、うんダメ絶対。
ん?そういや・・・。
「そういや皇帝さんの名前は聞いたけどそっちの娘の名前は?あぁババァの名前は覚える気ないから言わなくていい。」
「まぁ!なんて不敬な!」
「やめよ。この事はお主が悪いぞシャンドラよ。」
「そうですわお母様。申し訳ありません聖剣ネオガイア様。私はイリーナ・イスタリオと申します。どうぞ気軽にイリーナとお呼びください。」
イリーナちゃんか。
うむ、可愛いし礼儀正しいし可愛い!
もう彼女が俺の担い手で良いんじゃね?
うん良いよ!もう担い手にしちゃおうか!
「わかったぜイリーナちゃん!さぁ俺を抜いて勇者にな」
「駄目だと言っただろうがタワケ!」
うぉぉぉぉ!?
揺れる!超揺れる!
レネ爺ちょっと強く叩きすぎだろ!?
折れちゃう!僕の体折れちゃうぅぅぅ!?
「ふふ、それが出来たら楽しそうですけど聖剣を抜くのは女神様の祝福を持った方だけと聞いてますわ。」
「え?マジ?それ本当レネ爺。」
「正確には何かの危機じゃないとじゃな。今は魔族とも友好的な関係を築いておるし当分大地の出番は無いわい。」
そうなんだよなぁ・・・。
200年ほど前から魔族と人間族が結構仲良しこよしになっちゃって戦争起きる雰囲気も魔王が暴れる雰囲気も無いんだよなぁ・・・。
俺出番無く終わる気しかしねぇ・・・。
「あ、レネ爺。そういやなんで皇帝さんここに来てんの?今まで誰も連れて来なかったじゃん。」
「大地に対する女神様のご配慮と、皇帝陛下直々の願いだからじゃよ。」
「へ~皇帝さんの。なんか用事でもあるん?」
「うむ。余はこの世界を纏める者として貴殿の求める担い手の事や貴殿についてなど知っておきたいと思ってな。いつか起こるやも知れぬ世界を滅ぼしかねん事態に備えてな。」
ほう、この皇帝は頭がいい。
俺が使われる事をあまり望んでいないがきちんとそういう時の為の事を考えている。
前世の朧気な記憶にあるな、企業が無期限に事業を永続することを前提とする考え方。
ゴーイングコンサーンだっけか?
国も企業も考え方は同じようなもんだからな。
この皇帝さんが居れば帝国は当分安泰だろう。
暗愚が生まれないかぎり。
「いいぜ、皇帝さん。あんたが気に入った。質問に答えてやる。」
「ありがたい。では気軽に質問させてもらおう。」
良い顔で笑った皇帝を俺は好きになった。
こういうおっさんは好感が持てるな。
後の話は簡単だ。
俺が女の子しか担い手にしようと考えていないこと。
レネ爺から習った魔法が有り、担い手から離れてもある程度戦える事。
後はたわいない話を皇帝さんとした。
むしろこのたわいない話の方が俺にとってはメインだ。
レネ爺しか会話出来る相手が居なかったこの800年間、この世界の人間と初めて話せたのは良い経験だ。
あのクソババァは終始ガラクタを見る目で見てきたけどな。
お母様(女神様)あのクソババァに天罰お願い。
たわいない話で意気投合してるときにイリーナちゃんも話しかけてきた。
俺について知る事は結構政治的、軍事的に必要な事だったから参加出来ずにしょんぼりしてたが俺と皇帝さんがたわいない話をしだすと喜々として参加してた。
そりゃぁ楽しかったよ。
この世界で新しい友だちを得れたんだ。
まぁそんな楽しい時間はすぐ終わってしまうわけで。
また来てくれると言う事なので次に来るのを楽しみにしていよう。
なんなら女神様にお願いして歴代皇帝はここに来る事を許可してもらおう。
どうも帝国はこの世界の中心の様な役割があるらしい。
なら俺と繋がりを持つことでよりその立ち位置を強固にするのが良いだろう。
あの皇帝は愚王じゃないけどそれ以降の皇帝が愚王になる可能性はある。
そこは俺が上手く言い聞かせて進めていくのが良いだろうが・・・。
ぶっちゃけ俺、暇だからもっと人来て欲しいし。
本当ならここを観光地みたいにしてどこぞの聖剣よろしく色んな人俺を抜こうとして俺という聖剣を抜いた者を王にする~!的な事になって欲しい。
まぁお母様(女神様)とレネ爺に駄目と言われたけど・・・。
「ところで大地よ。」
「なんだよレネ爺。」
「女神様が今度会いにくるらしいぞ?」
「今更かよ!」
俺の退屈な日々が、やっと動き出したような気がする。
300年立ったら魔王との戦いも過去の話さ・・・。
その後も平和が続いて人も魔も仲良し。
100年単位で動いてましたがここからは一ヶ月単位に物語が進みます。