第二話 魔王が倒されたんだけど
*前回のあらすじ*
魔王オベイロンが現れて世界滅ぼそうとしたからどっかの国が勇者を召喚したらしいですよ?
あれから三ヶ月。
レネ爺に人間流の魔法を教えてもらい、中級魔法までは使えるようになった。
レネ爺の話では勇者たちは無事召喚され、今は魔王を倒すべく鍛えているらしい。
なぜって?そいつらどうも俺と同じ様に異世界から来たらしい。
いいねぇ異世界召喚。
自由にその世界周ったり、ハーレム作ったり、魔王倒して英雄扱いされてチヤホヤされたり。
実に羨ましい。
「こんな事なら異世界転生より異世界召喚の方がよかったなぁ・・・。会話出来んの年寄りの精霊だけだし・・・。」
「なんじゃぁ大地。儂が気に入らんのか?」
「そういうわけじゃねぇよレネ爺。」
可愛い女の子と会話できないのはつらい。
けれどそれでも唯一と言って良い程貴重な相手だ。
変な誤解はされたくはない。
「それに俺はレネ爺の事、本当の爺ちゃんみたいに好いてるしな。」
「ほっほっほっ。聖剣が孫か!そしたらお前を生み出した女神様は儂の娘になるのぉ!」
楽しそうに笑って居るけど、このレネ爺も女神に生み出されたんだからなんか複雑な構図だなそれ。
まぁレネ爺には感謝もしてるしこの第二の人生・・・いや、剣生でお世話になってるし楽しんでいるならそれでいいだろう。
深くはツッコまない。
「んで戦況はどんな感じだ?後、俺に関する噂も流してくれているんだろうな?」
「ふむ、今の戦況は大分魔族よりじゃ。勇者達が育つのが先か、魔族の侵攻が先かじゃの・・・。噂に関しては人間側の王国一の鍛冶師をやっておる儂に、抜かりはないわい。」
そう、レネ爺があんまり来れない理由はこれだ。
俺のとこに居ない時、レネ爺は勇者が召喚されたイスタリオ帝国で鍛冶師をしているらしい。
らしいってのは当然、こんな歩けもしない聖剣の状態じゃ見に行けないからレネ爺からの話だけでの事だ。
まぁ自称なのか真実なのか知らないがレネ爺がそこまで言うんだから噂に関しては大丈夫だろう。
「勇者達の武具も儂が作ったからの。その時に聖剣の事を教えておいたわい。『女神が作った世界最高の武器、聖剣ネオガイアがクロバルト山脈にある。』とな。」
「の割には誰もこねーじゃん。」
「言ったじゃろ?まだ鍛えている最中じゃ。戦況が大きく傾くか、勇者達の鍛えがある程度すんでからじゃろうて。」
まぁ国としてはそんな噂程度の事に簡単に乗れない事もわかっている。
わかっているが歯がゆい・・・。
こちらからどうやってか出向く方法は無いのだろうか・・・。
「やっぱレネ爺も俺を抜けないのか?」
「当たり前じゃ。大地が儂を担い手にしようとも女神との誓約で弾かれるだけじゃ。というより大精霊は担い手に選べないんじゃよ。」
まぁレネ爺の話の理屈は理解できないが担い手に選べないならしょうがない。
これでも俺が一番信頼してるのはレネ爺なんだけどなぁ。
ぱっとでの勇者なんか本当に担い手として選べるのか少々不安だな・・・。
レネ爺の話じゃ召喚された勇者達って俺と同じ世界から来てる様な話なわけだし・・・。
俺やだよ?チャラ男とか熱血体育会系とか正義感溢れる優等生とかむっつり委員長とかそんなんに使われるの?
どうせならクラスのアイドル的な子に使って欲しい。
うん、そうだよ。
可愛い女の子以外俺に触れるな。
レネ爺は許す。俺の大事な爺ちゃんだから。
「まーた大地は変なこと言ってるねー。」
「なんじゃ風のか。久しいのぉ。」
「よぉシルフ。300年ぶりか?」
「あれ?そうだっけ?前来たのついこないだじゃないっけ?」
突如この洞窟に現れたのはシルフ。
風の大精霊だ。
こいつはすぐ洞窟内で竜巻起こして気が済んだらすぐ帰るから話し相手にならん。
見たまんまガキだし。
「そうそう今日はね。勇者に言われてきたんだよ。」
「おぉ!本当かそれ!」
「うん。この洞窟に本当に聖剣があるか知らべて欲しいって言われたの!」
「それで?お願いしたのは男か?女か?」
「しっらなーい。そんなのわかんないもん。」
そうだった・・・。
レネ爺は特別枠として大精霊は基本的に男女の区別どころか人間の違いすらわからない。
なぜって?こいつらは生物としての体ではなく魂を見るからだ。
じゃあレネ爺がなぜ特別かって?
俺の爺ちゃんだからに決まってるだろ言わせんな恥ずかしい。
「んでさー。聖剣ってどんなの?」
「大地の事じゃよ。女神様からもそう言い付かっているおるだろうが。」
「えー?大地は大地でしょ?聖剣って名前じゃ無いじゃん。」
「正確には聖剣ネオガイアが俺の名前だっての。大地ってのは俺の魂の名前だ。」
「んーわかんないけど聖剣は無いって事?」
これだ・・・。
こいつは話を理解する脳みそが欠如している。
近所に居た小学生の方がまだ理解力あったぞ・・・。
その小学生と同じくらいの見た目でレネ爺並に生きてるはずなのに・・・。
女神様、なんでこいつに学習能力を与えなかったんですか・・・。
「もういいめんどくせぇ・・・。あるって言っとけ。」
「わかったー。大地が言うならそれでいいや。じゃねー。」
「わぶ!これ風の!こんな洞窟内で竜巻を起こす奴があるか!」
まーた竜巻起こして帰っていったよあいつ・・・。
まぁ、でも今回だけは許してやろう。
なぜなら来た理由が勇者のお使いだからだ。
これはもう勇者が来ること確定だろう。
「それで大地。これからの事どうするのじゃ?」
「この山に立ち入るにはレネ爺の許可が居るだろ?そん時、勇者に付いてきてくれよ。」
このクロバルト山脈というのは人間達の領土の中でも随一の鉱石保有の山であり、どこのお偉いさんでも気軽に立ち入ると処罰される。
というのは半分冗談でこの山は女神様の神託によってレネ爺所有となったからだ。
まぁ結構頻繁に神託をする女神様だから威厳無いのかなーと思っていたら山賊すらこの山に入るのを避けるほどらしい。
つまりこの山は女神様によって認められたレネ爺と、レネ爺が許可した者以外入れないということだ。
じゃあなんで大精霊が勝手に入ってくるかって?
んなもん女神様から非公式で許されてるからだよ。
まぁそういう事情もあってレネ爺はこのクロバルト山脈はレネ爺所有の土地であり、山全体が女神様の加護付きだから簡単に人も魔族も手を出せないわけで。
まぁ稀に知性のない魔獣ってやつが入ってくるらしいけど。
「ちなみにレネ爺。連れてくるのは可愛い女の子な?それ以外俺許さんから。」
「全く、大地は好色じゃのぉ・・・。まぁ男はそれくらいで丁度いいわ!ほっほっほっ。」
むしろ当然だ。
男に使われて喜ぶ男はいねーよ。
男のじとっとした汗塗れの体で触れられるとか鳥肌立つ。いや、まぁ肌なんて無いけどさ。
やっぱ使われるなら可愛い女の子が良いよね!
女の子に体磨いて貰うとか超役得じゃん!
まぁ体って言っても剣なんですけどね。
ナニもないし・・・。
「まぁ大地の言い分はわかるが、立場上女だけというわけにもいかん。そこは覚悟しておけ。担い手を連れてきた後、誰にするかは大地の自由だがの。」
「おう、わかったぜ。次、来る時は勇者達連れてこいよレネ爺。」
「任せておけ大地。主はしっかり魔法の練習でもしておけ。」
レネ爺が洞窟から出て行くまでじっとその背中を見つめる。
今にも折れちまいそうな背中だ。
まぁ大精霊だから簡単には折れたりしないし、そもそも肉体構造が人間と違うから折れるなんて事ないんだけどさ。
それでも俺は見も知らぬ勇者なんかより、あの爺ちゃんの背中を守りたいと思うわけで・・・。
シルフが来てから二週間立った。
その間レネ爺は来ていない。
まぁレネ爺は大精霊だから死ぬ事はないし、そこは心配してないが何か嫌な予感がする。
なんつーのかな・・・。
この言い知れない不安・・・。
何かが台無しになった。そんな感じだ・・・。
「おっレネ爺!勇者連れてきたのかい?」
レネ爺が姿を見せたが何かがおかしい。
なんというかバツの悪い顔をしている。
やばい、嫌な予感しかしない。
勇者の居る国が勇者毎滅んだのか・・・?
「大地よ・・・言い難い事なんじゃが・・・。」
「なんだよレネ爺・・・。勇者達が負けたのか?」
「いや、そうじゃなくての・・・?魔王が死んだ。」
「はっ・・・?」
魔王が死んだ・・・?
は?勇者が倒したのか?
俺を使わず?
え?なに?レネ爺の作った武器ってそんな優秀なの?
「原因は魔王の妻による刺殺・・・。その動機は浮気だそうじゃ・・・。」
はい?
ちょっと待ってくれ少し頭の整理がしたい。
確か魔王オベイロンは世界征服を目指して人間達に宣戦布告。
その圧倒的な魔力とカリスマ性で魔族を統一して人間達と戦争始めたんだよな?
その魔王が死んだ?それも痴情のもつれで?
ごめん、意味分かんない。
勇者が倒したならわかる。すごいわかる。
だって魔王倒すのって勇者の役目じゃん?
その勇者が一クラス分。
そんだけ居ればいつか必ず倒せるよ、うん。
魔王一人対勇者30人前後だもの。
数の上で圧倒的じゃん?
それに勇者達が帰るには魔王を倒すのが条件だしみんな必死になるから余計に頑張るじゃん?
それなのに魔王殺したのが魔王の妻?
なにそれ?
「そんな結末・・・・。納得出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
拝啓、第二の人生でのお母様であられる女神様。
俺、本当にこの洞窟からでれるの?
結局動かない。
むしろ動かして貰えない!
それが聖剣に転生したんだけどクォリティ!