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小説の感じ方

 第四回『なろうユーザーの気持ちを考えてみる』のお時間です。

 早速ですが、次の例文を見て下さい。


☆例文1

 少年の手元を占拠していたのは、一振りの日本刀。艶消しの施された黒石目鞘には真紅の下緒が結ばれ、柄巻きにも同じ真紅が使われたその太刀は、幽玄にして冷厳な気配を纏っている。

 少年は右手を柄に重ね、左の親指で鯉口を切る。赤熱する刃が火の粉を噴いて鳴き、その高温に周囲の空気が踊るように揺らめく。その間、鞘走りの響きは皆無であった。


 これは僕が昔書いた学園異能バトル小説の一文です。

 僕としては中々カッコいい文章が書けたかなと思っているのですが、皆さんはどう感じたでしょうか?

 これを踏まえた上で、次の文章も見て下さい。


☆例文2

 少年の左手には、鞘に収められた一振りの日本刀が握られている。

 光を照り返さないように加工された黒い鞘には真紅のひもが結ばれ、柄にも同じ真紅の布が巻かれたその太刀は、神秘的な雰囲気を纏っている。

 少年は右手で柄に触れて、左手の親指で鍔を弾く。ゆっくりと引き抜かれる刃は熱を帯びて赤く光り、じりじりという音を立てながら火の粉を散らした。

 刃から放出される高熱によって、抜刀の間にも周囲の気温がみるみる上昇していく。刃が鞘に擦れる音が全くしないのは、達人の証である。


 解説しますと、例文1は小説っぽく見える文章です。小説としてそこそこの文章が書けていると思います。ただ、刀の部位や抜刀に伴う動作の正式名称を頑張って調べてから書いているので大変に苦労しております。その努力のせいで、一般の読者さんは見慣れない言葉に戸惑うかも。

 例文2は、例文1を平易な表現に変えたものです。しかしこの例文2は、決して悪くはないのですが、僕としてはイマイチな文章に分類されるものだと思います。

 理由は、文章が単なる状況説明にしかなっていないからです。その時起こった事をありのまま並べているだけですし、体言止めや倒置法、比喩表現などのテクニックも一切使われていません。誰でも書ける文章というか、誰が書いても同じというか……つまり、没個性的な文章なのです。

 ただ、例文1には小難しくて読みにくいという弱点があり、例文2には簡単で読みやすいという利点があります。あと、作者的にも例文2の方が簡単で書きやすいです。

 するとどうでしょう。僕の脳内にある疑問が生まれてきました。


 『例文1と例文2、なろうユーザーが好きなのはどっち?』


 言葉は生き物です。成長もするし衰退もする、生まれる言葉もあれば死んでいく言葉もあります。

 なら小説の文章表現も、時代に合ったものを書く必要があるでしょう。


 今のなろうユーザーや人気作品の傾向を見るに、僕は例文2が好まれるのではないかと予想します。この予想、皆さんは正しいと思いますか? 間違っていると思いますか? 皆さんのご感想、お待ちしております!

 

 ここから先は、前回のようにオマケの寸劇が始まります。お時間とご興味のある方は、ぜひ見ていって下さい。



 ◇   ◇   ◇



 ──ある底辺作家の脳内にあるという『ゼロ次元会議室』。

 そこに集められた四つの作品の主人公とヒロインが、今日もどうでもいい話を、わりと真剣に繰り広げていた──。


「やっほーみんなー! とある作者の脳内会議も第四回っ! 今日はどんな話が飛び出すのかな? 進行役のミソラでっす!」

「もう四回目か。結構色んな話をしてきたよね」

「だな。もしかして、なろうユーザーに聞きたい事はだいたい出揃ったんじゃないか?」

「いいや、まだなのである」

「出たなトウカ。そう言うからには、何かネタを持ってきたんだろ?」

「無論なのである。だが、そのネタを仕入れた時……吾輩は悲しくなったのである」

「えぇーっ!? トウカちゃん、何か悲しい事があったの? 話聞くよ? ミソラちゃんに何でも打ち明けてごらん」

「うむ……悲しくなった事というのはな、最近の若者の活字離れなのである!」

「えっ? あれって嘘なんじゃなかったっけ? 若者は結構本読んでるらしいよ?」

「そ、そうなのか? それは申し訳ない、危うく決めつけで物を言うところだったのである。どうにも、活字離れが事実としか思えない話を耳にしてな。聞いてくれるか?」

「いいですともっ!」

「吾輩の知人の一人が、小説を全く読まないのである。その理由を聞いて吾輩は驚きのあまり昇天しかけたのである」

「小説を読まない理由? ほほぉ、それはかなり興味あるぞ。小説の登場人物である俺らにとっては死活問題だからな」

「うむ。心の準備はいいか? ……では言うのである。『小説には難しい言葉や知らない言葉、読めない漢字がいっぱい出てくるから嫌い』との事だ」

「──混沌よりの啓蒙……我、紡ぎ誘わん──。おいトウカ、その馬鹿を今すぐここに連れて来い。俺が叩きのめしてやる……この『混沌を映す瞳』でな!」

「──ルナティックラスター、解放──。剣の『オルセディア』でその知人の頭を斬り落としてあげようか。考える事をやめたなら、必要ないでしょ? そんな飾り」

「ひぃっ!? 男性陣のお二人がヤバ気なオーラを纏っている!」

「だって悔しいじゃねーか! そいつの言ってる小説ってのが何なのか知らんけど、小説ってのは基本、読んだ人間に何かを伝えるためのものだろうが。漢字が読めないからつまらない? ざけんなよ、作者が伝えようとしてるものをそもそも受け取る気がないだけだ。そんな野郎は小説なんか嫌いで結構だね」

「同感だ。漢字が読めないなら、知らない言葉が出てきたら、辞書を引いたりネットで調べたらいいんだ」

「そうであろう? 知らない言葉が出てきたらむしろチャンスなのである。頭が良くなるチャンスなのである! そしてそんな優れた文章を書く作者を褒め称えるべきなのである!」

「えーと……本当にそうなのかなー?」

「何だミソラ、お前は何とも思わないのか?」

「そりゃー酷いとは思うけども。でもさ、小説ってエンターテインメントでもあるじゃん? 読んでて楽しくなきゃ意味ないって事もあると思う」

「ん……? 難しい言葉が出てくると楽しくないのか?」

「そう感じる人もいるって事だよ。この会議室にいるみんなは勤勉みたいだから難しい言葉が出てきても、うおっ! 何だこれ、こんな表現初めて知った! この作者さんは物知りだな。腕あるなーって感心するかもしれないけど、世の中そういう人ばかりじゃないと思うよ?」

「まぁ……そうだよな。辞書片手に読まなきゃいけないほど難しい小説じゃ、読むのに疲れちまうか」

「そういう事。だから今回の『考えてみる』はこれにしようよ。『難しい文章と簡単な文章、なろうユーザーはどっちが好き?』」

「なろうユーザーは小説嫌いじゃないだろうけど、これを機に考えなきゃいけない重要な事だね」

「あぁ。頭に血が上って視野が狭まってたぜ。俺とした事が情けない。読者あっての小説だ。読み手が求める文体を模索するのも、書き手の務めだよな」

「自分にしか書けない文章で、誰にでも分かるように書く……それが小説の神髄、『神の一筆』なのである。独りよがりな小説になっていないか、今一度初心に立ち返って見つめ直してみるべきであるな。ただ……う~む……」

「どうしたトウカ? 言いたい事があるなら遠慮せずに言ってみな。せっかくそういう会議なんだから」

「うむ、では言うのである。『平易な文章』と『低レベルな文章』は、似て非なるものである。それを読者諸君がちゃんと理解しているのか不安になる時があってな」

「えっ……? それってどんな時?」

「『文章が上手ですね』とか『文才があって羨ましいです』とか『あなたのような文章を書けるようになりたいです』、と感想欄に書いてあるのを見た時なのである」

「えぇっ!? それってメチャクチャ嬉しいじゃん! 何で不安になるの?」

「いや、自分がそう言ってもらえたら嬉しいが、残念ながらそうではない。吾輩も『なろう』の作品をちょくちょく読ませてもらっているのだが、やはり結構多いのである。これは微妙な文章だな、もう少し言葉を練って欲しいな、と思う作品が」

「ふむふむ」

「そういう微妙に下手な文章を書く作品ほど、先に言った称賛コメントが付いていたりする事が意外と多い気がするのである」

「なるほどー。それだと確かに不安になるね。読者さんはこんな文章を上手いと思ってるの? って」

「うむ。ゆえに吾輩は言いたいのである。書き手には文章力を練磨するという当然の責任がある。それと同時に、読み手にも眼識を養う義務があるのではないか、と」

「よくラノベのレビューとかで『頭カラッポで読めば楽しめます』なんていう人がいるけど、あれってちょっとどうかしてるよね」

「頭カラッポにして読まなきゃ楽しめない作品を書いちまった作者は有罪だけど、頭カラッポで作品を読んじまうような読者も同罪って訳か」

「その通り。ただ心得違いをしないで欲しいのは、別に『なろう』に下手な作品を投稿するなと言っている訳ではないという事なのである。同様に読者が下手な作品を楽しむ事も止めはしない」

「そりゃそうだ。商業で書いてるんなら話は別だが、ここは趣味で活動する場だからな」

「まとめると、作者は流行りのジャンルに乗るなら乗るで責任を持って良い文章を書き、読者も流行りの作品に飛びつくのはいいが下手な作品まで絶賛しないで良く考えろ、と言いたいのである」

「すげーまとめだな。さすがはトウカだぜ」

「フッ、それほどでもないのである」

「いやいや、すげーってマジで。お前程度の腕前で他人様に説教垂れるなんて、とてもじゃないが真似できねぇ」

「ちょ、いくらホントの事でもそんな風に言っちゃダーメでしょっ? 気付かないフリしてあげよ? ねっ?」

「こらこら二人とも、ここは感心しきった顔で『小説、お上手ですもんね』って言ってあげなきゃ……ぷっくく!」

「…………おい才六ども。どうやら吾輩を本気で怒らせたいようであるな……? 祟り殺される気分を存分に味わうがいいのであるぅぅーー!」

「おっと! トウカが怨霊の目つきになったんで、今回はこの辺で解散っ! でもって散開っ! みんな、生きてまた会おうぜ!」

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