ルール説明
夏だ……暑い。正直言って洒落にならないほど暑い。今なら頭の上で目玉焼きも焼けるんじゃないかというくらいギラギラした熱気の中、俺たちは日陰もないグラウンドに立っていた。
「それではぁー、これからTHE☆水鉄砲合戦のルールを説明します。みんな静かに集中して聞くんだよ!」
夏休みで人の気配もない小学校で、スピーカーががなる。ほんの三年前まで、俺はそこの快適な椅子に座り、ゆったりとジュースを飲みながらお昼の放送なんかをやっていた。
「まずー、水鉄砲合戦っていう名前にはなってますが、要するに水をかけられたら死ぬっていう簡単なルールです。つまり、別に水鉄砲は使わなくてもいいってことだよ。だけど、死んだあとでも復活できる特別ルールがあって、この学校の敷地内に回復アイテムがあるんだ」
クーラーの効いた放送室でのんびりとしゃべっているのは、この水鉄砲合戦の企画者であるジェリーだ。もちろん本名ではないけれど、俺たちはジェリーと呼んでいる。ジェリーとその妹のレズリーは、今回の企画のゲームマスター。そしてこのゲーム、やたらとジェリーの趣味が反映された、とても面倒臭いものとなっているのである。
「各チームに、使える回復アイテムが一個あって、復活したいときはそのアイテムを使ってね。もし別のチームが君のチームのアイテムを持ってた場合、復活はできないよ。それから、アイテムで復活できるのはチームの人数までだからね。五人のチームは五回、六人のチームは六回だよ」
俺はこんなしゃべり方をしているものの、一応女で、しかもかなりとんでもないことをしてきた悪ガキ女軍団の一員だ。その悪ガキ軍団は今、一つのチームとしてこのゲームに参加している。……まったく、楽しいゲームになりそうだぜ。なんせ上は大学生、下は小学六年生なんだからな。一チームの人数は自由で、俺たちはアリー、ロクサーヌ、リリー、メグ、カミラ、そして俺の六人チームだ。
「じゃあアイテムを言うからよく聞いてね!一回しか言わないから、メモした方がいいかもよ?ルーシーのチームは音楽室の鍵。エドのチームはピンクのゴムべら。ザックのは水色の雑巾。エミリーはオレンジ色の金魚のエサの缶で、アリーは俺のリコーダー。ジミーは緑色の園芸用のスコップ。学校のどこかに隠してあるそのアイテムを見つけて、その写真を撮って俺に送って」
俺は熱心にケータイに文字を打ち込んでいるメグのそばに寄った。「全部メモしたか?」小声で聞くと「あったりまえですよ」と、にぃと笑って全チームのアイテムが入力された画面を見せてくれた。
「あ、言い忘れたけど、別のチームのアイテムをもし手に入れた場合、そのアイテム、自分のチームにも使えるから!」
ジェリーが付け加えた内容に、隣のチームが戦慄した。「おい、誰か他のチームのアイテム覚えてるか!?」「そんな全部覚えられるわけねぇだろ!?」……やれやれ、始まる前から喧嘩してりゃあ世話ないな。
「ほら、メモした方がいいって言っただろ?」ジェリーが楽しそうに言った。絶対に確信犯だ。
「じゃあアイテムについてはこれで終わり。質問があったらあとでメールで受け付けるから。次は役職についての話だよ!」
ジェリーの話をまとめるとこうなる。
まず、くじ引きで各チーム一人の役職持ちをつくる。『悪魔』は各チーム一人ずつを裏切らせることができるが、『牧師』に出会うと、その人たちをすべて解放しなければならない。『牧師』は回復アイテムの使用回数を一つにつき二回増やすことができるが、『盗賊』に出会うと回復アイテムを一つ使えなくなる。『盗賊』は相手チームから一つものを奪えるが、『騎士』に出会うとものを全部捨てなければならない。『騎士』は相手チームの一人を殺せるが、『皇帝』に出会うとその命令を一つ聞かなければならない。『皇帝』は水が二回当たらないと死なないが、『魔法使い』に出会うと水鉄砲を一つ捨てなければならない。『魔法使い』は相手チームの一人の動きを止められるが、『悪魔』のいるチームに出会うと戦闘不能になる。
……とてもじゃねぇが覚えきれねえ。
「それじゃあくじ引きで決まった役職を言ってくよー!『悪魔』はザックチームのリー!『牧師』はルーシーチーム、キャシー!『盗賊』はジミーチームのヴィットリア!『騎士』はエドチームのダニエル!『皇帝』はエミリーチームのフィルで、『魔法使い』はアリーチームのジーンだよ!」
「お、俺ぇぇええええ!?」
真夏のグラウンドに、俺の絶叫が響いた。そんなわけのわかんない複雑なルールに巻き込まれたくはない。