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大切なもの  王side

次は少し残酷な表現が含まれています。

これは騎士が守ろうとした国と王様の話。

それでは心逝くまでお楽しみください。

  金銀豪華に飾られた室内、何十人もの若い奴隷を侍らせながら、贅沢な料理を頬張る男は、空になったグラスを奴隷の娘に向ける。

 グラスを向けられた奴隷は、一瞬肩をすくめた後、すぐに空のグラスにワインを注ぐ。

 怯えているせいだろう。ワインを持つ手が震えグラスからワインがこぼれてしまう。

 それを見た男はグラスを奴隷に投げつける。

 グラスが頭にぶつかった奴隷は、頭から血を流しその場に倒れる。

 だが男さらに、倒れた奴隷に対して近くに置いてあった鞭を振るい、何度も何度も打ち据える。

 鞭が当たるたびに、奴隷は小さく悲鳴をあげるが男の手が休まることは無い。

 そして奴隷が小さく身を丸め、悲鳴が小さくなったころようやく鞭を打つのを辞め、再び席に戻り何事も無かったかのように食事を再開する。

 違う奴隷が新しくワインを注ぎ、そのワインを飲みながら男はこれからのことを考える。

 

 

 

 

 

 男はこの国の王だ。

 そして彼の治める国が現在、隣国に侵攻されている。

 その情報が伝令の兵から告げられた時、思わずその兵の首を刎ねてしまった。

 最初に思ったのは隣国遺体する激しい怒り。

 男が治める国は由緒正しき歴史ある国家で、隣国の歴史の浅い国とは天と地ほどの差がある。

 そんな国の偉大なる国王に剣を向けるなど、言語両断だ。

 きっと豊かな我が国を逆恨みにしたに違いない。

 そんな勘違いを侵攻してきた国など、逆に返り討ちにしてしまえ。

 男はすぐに騎士団長に出撃命令をだした。

 

 出撃命令を出した夜、隣国に対する怒りが治まらず、追奴隷を三人ほど縊り殺してしまった。

 もともと男の国では奴隷など珍しくも無く、すぐに変えが効く存在だ。

 

 

 

 

 

 その国は、歴史あることを笠にきて、選ばれた存在だと国全体が考えており、自国民以外を下等な存在だと思っていた。

 

 自分達が働くのが嫌だから奴隷に働かせる。

 気分が悪いからストレス発散に奴隷を暴行する。

 快楽のためだけに奴隷を痛めつけ犯す。

 

 そんな生活をしているから、奴隷はどんどんいなくなる。

 だがいなくなっては生活ができない。

 いなくなったなら新しい奴隷を手に入れればいい。

 奴隷商から奴隷を買うのはまだ良い方だった。

 買う金が勿体無いと思う国民は、近くの隣国から人をさらい無理やり奴隷にしてはたらかせた。

 

 そしてそんな国民達が生活する国の王はさらに傲慢だった。

 奴隷を獲物に見立てて狩りをするのは普通、目があったというだけでその奴隷の目玉を奪ったこともある。

 若い女の奴隷など慰み者で当たり前。子供ができたら女がいたら、由緒正しい血に交ざり物が入るのは良しとせず、子供もろとも女は殺していた。

 

 そんな傲慢な王が、まともに政ごとができるはずも無く。

 国を正そうとした者は処刑され、耳触りのいい言葉を述べる者たちが自分たちの都合のいい政治を行っていた。

 

 

 

 

 

 そんな国だから、多くの国民が奴隷にされた隣国が、奴隷解放のために侵攻してきたのも当たり前のことなのだが、王を筆頭に、国民達は信仰してきた理由が正しく理解できない。

 彼等にとって奴隷は、人では無くただの物なのだ。

 物のために戦うなんて馬鹿げている。

 

 騎士団長に出撃命令を出してから数日、騎士団が壊滅した情報が城に届いた。

 騎士団長は戦い以外まったく使えない男だったが、王の命令を忠実にこなし、何百人もの奴隷を隣国から持って帰り、王のもとに届けていたので重宝し、騎士団を任せていたのだ。

 戦うことに関しては優秀だった男だ。

 その騎士団長率いる騎士団が壊滅したというなら、恐らくここは危ないのだろう。

 

 そう考えた王はすぐに奴隷たちに命令し、財産を馬車に積み込み城から逃げ出した。

 この時になってもまだ、王は勘違いをしていた。

 

 一番大切なのは王である自身なのだ。

 

 国などすぐに蘇る。

 何せ男は由緒正しき偉大なる王なのだから。

 

 

 

 

 

 それから城にある財産を全て積みこんだ豪華な馬車は、誰よりも早くそれこそ国民より早く、他国の関所前まで来ていた。

 豪華な場所でくつろぎながら王は考えていた。

 どうやって侵攻してきた隣国に復讐するかを……。

 

 関所にたどり着いた時、他国の兵達は王が国に入ることは許さなかった。

 国から王の入国を禁ずるよう指示が出ていたのだ。

 そんな指示が無くても兵達には王を国に入れる気など無かった。

 これまでの国や王の悪行は知られており、兵達の中には身内や友人を奴隷にされた者たちがいる。

 なりより兵士にとって、使えるべき王が国民を見捨てて、イの一番に逃げたことが許すことができなかったのだ。

 

 入国を拒否された王は怒り狂った。

 

「なぜ入れぬ!朕を誰だと思っているのだ!!」

 

 馬車から顔を出し、真っ赤な顔で怒鳴るに王に対し、関所にいた兵達は冷めた目を向ける。

 そして、そんな目を向けられた王がさらに怒鳴ろうとした口を開きかけたとき、王の背中に突如熱が走る。

 その熱は背中から胸に移り、王が胸に目をやるとそこから刃物の刃が出ていた。

 何が起きたのか分からず後ろを向こうとしたが、その前に次々と体中に刃物が突き刺さる。

 財産として連れてこられた奴隷たちが、何度も何度も刃物を振るう。

 

「な、なぜ……」

 

 自分が殺された理由がわからないまま王が、痛みをこらえながらそう呟くが、奴隷たちは誰も答えず、ただ刃物を振るう。

 その凄惨な光景を兵士たちは止めない。

 涙を流しながら、刃物を振るう奴隷たちを止めることができなかったし、止める気も起きなかった。

 

 一番大切な自分自身を守れず、守るものもおらず、王は普段奴隷たちにしている行為のように無惨に殺された。

 

 

 

 

 

 後世、歴史家がこう記している。

 かの国は見本になるような国であったと。

 どれだけ歴史ある国であろうと、自分達に都合が良いようにしか考えない国は滅びると。

 

 王は愚王であった。

 反面教師になる悪しき国であった。

 間違えだと気付く者はいなかったのかと……。

 

 後世に永遠に名が残る愚王。

 その行為は確かに歴史に名を残した。


よろしければ次の話もご覧ください

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