素直な言葉を君へ
会話だけの話です
「もう夏の終わりも近いというのに、君はいつまで着物を着ているのだい?」
「夏が終わるからって、着物を着てはいけないなんて誰が決めたんだい。
そもそも昔の日本人は一年中着物だったのだから、別に私が着物を着ていてもおかしなことなんてないだろう」
「昔って言っている時点で、現代と違うってことだろう?」
「君は本当に屁理屈が多いな~」
「屁理屈じゃなくて、理論的と言ってほしいものだけどね」
「そもそも君は、私に着物を脱いで欲しいのかい」
「いや、君の着物姿は似合っていると思うから、脱ぎたくないなら脱がなくてもいいよ」
「珍しいね。君が私のことを素直に褒めるなんて」
「そうかい?僕は素敵だと思ったものには素直にそう言っているつもりだけど?」
「どこがだよ。ちなみに着物姿の私はどこら辺が素敵なのかな?」
「そうだな~、夏の暑さで出た汗が首筋に流れる姿は魅力的だし、着物からちらりと見えるうなじと黒髪のコラボレーションは芸術的だと思う。
この間の猛暑の時つい人の目が無いと安心して、少し乱れた着物姿は官能的だったよ」
「見てたのかよ!!」
「失礼な。見えたんだよ」
「見えたとしてもそう言うことは言うなよ」
「さっき言っただろう。僕は素敵だと思ったものは素直に言うって」
「……きみは素直って言うか、馬鹿だと時々思ってしまうよ」
「そう言うなよ。それとも着物姿の君より、君自身の美貌を褒めた方が良かったかい?」
「それは間に合っているよ。いや、正確にはしばらく私自身の美貌についての言葉は聞きたくないって言った方が正しいのかな」
「おや?ナルシストの気がある君が珍しいね」
「別に私はナルシストというわけじゃないよ。当たり前のことを言っているだけだよ」
「それは君以外の人間が言ったら嫌味になるだろうね。
それで間に合っている理由を聞いてもいいのかな?」
「つまらないことよ。この間のウチで開いたパーティで、肥えた愚か者たちが私の美貌を、花や宝石に例えて褒めて近づいて来たのよ。
まったく私を何かに例えるなんて愚かとしか言えないわ。
私の美貌は比べるものなんてないというのに」
「自分でそこまで言いきるのかい?」
「君も素直に言うだろう。私もそれを見習っただけだよ」
「そうですか」
「それに私がそれ以上に私が不愉快だったのは、彼らの視線だよ。
彼らの視線は私の美貌に見とれているのではなく、私の裸体に欲情を抱く卑下たるものの目や、私を見ずにその後ろにある家柄や財力を見る腐った目だらけだったよ」
「それは仕方ないのでは?」
「……君は、私の体を他の男が欲情するのを許せるというのかい?」
「許せないよ。
私がその場にいたらそんな目で君を見た瞬間、殴り飛ばすと思うけど、でも今その男たちはいないから、怒るだけも無駄だろう」
「まったく、そこまで言うなら殴り飛ばすために、傍にいてもらおうかな」
「愛しい君のそばにいつも入れるなら喜んで」
「……本当に君は、女の喜ばせるコツを心得ているね」
「そうかい?普通だろう」
「……まぁ良いその話は置いておこう。
話を戻すよ。私は着物を脱いだ方がいいのかい?」
「はっきり言うと、着物姿の君も美しいけど、季節も変わることだし違う服を着た君を見たいというのが正直な気持ちかな」
「なら最初からはっきり言えばいいのに、秋になるから着物を脱げと、いつも馬鹿みたいな素直な君らしくもない」
「……」
「どうしたのだい?いつもすぐ返事する君らしくもない沈黙だね。それに顔も真っ赤になっているよ、君が感情を表に出すなんてこれも珍しい」
「……仕方ないだろう、似合うなんて言えるかよ」
「なんだって、よく聞き取れないよ」
「さすがに素直に言えるかよ。
どんな服着ても君は綺麗だし、どんな服着ても僕にとってお前が大切な存在なことには変わりないなんて」
「……」
「その真っ赤な顔が、僕の気持ちが伝わっていると思っていいんだよね」
「馬鹿だよ。本当きみは大馬鹿者だ」
「君みたいに捻くれた人間には、俺みたいな馬鹿で素直な人間が合ってると思うよ」
「確かにね、まったく私以上にこの世界は捻くれているよ」
「それじゃ、秋にふさわしい紅葉に合う服でも買いに行きますか」
「どんな服でも私に似会うんじゃないの?」
「似合うよ。でも君には一番輝いて欲しいからね。一番似合う服を選ぶよ」
「…ほんと君は素直で大馬鹿者だよ」
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