悪魔と餓えぬ胃袋
次は悪魔の商品を買った男の話。
それでは心逝くまでお楽しみください。
昼を少し過ぎ、客が少なくなったレストランにサングラスをかけた男がやってきた。
店員が席に案内し、注文を決まりましたらお呼び下さいと、いつも通りのセリフを言い離れようとしたが、それを男が呼び止める。
「すみません。このステーキセットを一つお願いします。ご飯は大盛りで」
すでに注文するのを決めていたのだろう。男はメニューを見ずに注文をする。
店員は注文を復唱し、キッチンに注文を伝える。
それから数分後、出来上がったステーキセットを男のもとに持っていく。
男はそれを見ると嬉しそうな顔になり、手を合わせすぐに食べ始める。
おいしそうに食べる男を見て、店員の方もなんだか嬉しくなる。
男が食べ始めて数十分後、食べていたステーキセットも残りわずかという所で、男が店員を呼ぶ。
追加でデザートでも頼むのだろうと思い、店員は男のもとに向かう。
「メニューにある、これとこれ、あとこれもお願いします。それと全部大盛りで」
だが男はデザートを頼むわけでは無く、ハンバーグセットや唐揚げ定食、それにサラダなどのかなり量のある注文を頼んできた。
外見からはそこまで食べる印象を受けず、こんなに頼んで食べられるのかと思いながらも、店員は何も言わず注文を復唱し、キッチンに伝える。
数分後、出来上がった料理を男のもとに持っていく。
すでに食べ終わっている皿を下げ、新しくできた料理を机に並べる。
男は早速新しく来た料理を食べ始める。
本当に満足げに食べていく。
そしてまた数十分後、男が店員を呼ぶ。
さすがにこれ以上食べないだろう。お会計かな?と思い店員は男のもとに行く。
だが店員の予想は大きく外れる。
「メニューのここからここまで全部持ってきて下さい」
その言葉にア然とし、つい聞き返してしまった。
「お、お客様。大丈夫でしょうか?」
その言葉は、純粋に男の体調を気にして出た言葉だったのだが、男はそうとらえなかった。
「なんだ、私が出された料理を食べ切らないとでも思っているのか?
いいからさっさと料理を持って来い!!」
男の形相とその怒鳴り声に店員はすぐにキッチンに注文を伝えに行く。
そして出来上がった料理から男のもとに持っていく。
男の机だけでは足りず、周りの机を2つほど持ってきて合わせ、その上にどんどん料理を並べる。
そして男は、来た料理を勢いよく食べていく。
男が食事を始めてからいったいどれくらいたったのだろう。
一時間や二時間では足りない、男は一心不乱に食事に没頭していた。
男の食事は止まない。
料理が切れそうになるとすぐに大量の注文をする。
店員達は何度も何度も男とキッチンを往復することになった。
いつ終わるか分からない男の食事と、すぐからになる皿を見て店員達は気味が悪くなり、店長が残り少なくなった食材を見て、男に料理の終了を伝える。
その瞬間、満足げに食べていた男の表情が固まる。
そして小さくつぶやく。
「ま…、まだ空腹なんだ……」
男がそう言ったとき、男の体に異変が起こる。
腹が異常に膨らみ服のボタンが全て弾け飛び、口は大きく裂ける。
そこにいたのは一匹の餓鬼。
仏門にある六道の一つ、食に対して生前悪行を重ねた者が落とされる場所それが餓鬼道。
そこに落とされたものは常に空腹に襲われる。手足はガリガリに痩せ細り、腹だけは膨らむ、食べ物は針のようなものしかなく、口に入れることができてもすぐに炎に変わり喉を焼く。
男の変わり果てた姿を見て、レストランにいた人間は悲鳴を上げその場から逃げだす。
その悲鳴が聞こえないのか、興味無いのだろう。ただ餓鬼だけが残された料理を貪るように食べ続ける。
そんなレストランの様子を遠くから水晶玉越しに見ている人影があった。
「どうやらお客さまに満足いく商品が提供できたみたいですね」
「君にはあれが満足いっているように見えるのかい?」
左目に眼帯をつけスーツ姿のクラウンの言葉に、隣にいたカボチャ頭のパンプキンが問う。
「満足でしょう。あのお客様はなんでもグルメライターだそうですよ。
毎日毎日贅沢な食事をしていたそうです。そして食べるのに飽きてきていたのですが、仕事なので止めるわけにもいかないそうなので、私の商館に来たのですよ。
満腹感を感じない胃袋『餓鬼の胃袋』。それが、彼が私の商会で買われた物です」
「その結果があれですか……」
パンプキンが水晶玉に映るレストランに眼を向ける。
「そうですよ。食べるという意味、毎日食べることができる幸せを理解しないで、ただ食べるたいなんて、命に対する冒涜ではないですか?
だから彼は生きながら呪われ餓鬼になったのですよ」
「そのことを大事なお客様に説明しなかったのかい?」
クラウンは肩をすくめてから言う。
「私は必要とされる商品を渡すだけです。その後お客様がどうなろうと私の責任ではないですからね」
悪びれもなく言うクラウンに、パンプキンは変わらない表情で溜息をつく。
「……そうかい。君は本当にブレないね」
「私は悪魔ですよ?ブレてなんていたら人と対等な取引なんてできないでしょう」
自信満々にそうクラウンは宣言する。
それからクラウンもレストランに視線を向ける。
そこにはまだ食事を続ける餓鬼が一匹。
「よかったですねお客様。願いが叶って私もうれしいです」
満足した笑みでそうつぶやいた。
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