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悪魔のお茶会

次は悪魔の商売についての話

それでは心逝くまでお楽しみください

 所狭しに置かれた家具や雑貨、それに何に使うか分からない道具など様々な物に周りを囲まれた場所で、唯一人が座れる空間に二人の人物が向かい合って座っていた。


「すみませんね。本来なら商館の応接室にお招きしたかったのですが、現在少し取り込んでおりまして、こんな場所しか用意できなかったですよ。

 その分お茶にはこりましたからご了承ください」


 左目に眼帯で覆い、スーツ姿のクラウンが笑顔で入れたばかりのお茶を向かいに座る女性に勧める。


「構いませんわ。今回事前連絡も無く、突然に尋ねた私にも非があるのですから」


 全身黒色のドレスに身を包み、顔も黒いベールで口元以外わからない女性が優しげに答える。

 黒一色の服装の彼女からは、どことなく喪にふくしている雰囲気が漂う。


「突然の訪問なんてかましませんよ。私はあなたが訪ねて来てくれたことこそがうれしいのですから」


「昔と違いクラウンも女性の喜ばせ方を学ばれたようですね。

 ……ですが、その噓くさい笑顔は今の私には不快に感じますわ」


 いつの間にか彼女の手には細剣が握られ、その剣先がクラウンの喉に突きつけられている。


「私が今日来た理由は分かっているはずですよクラウン。

 なぜあんなことをしたか正直に答えなさい。さもなければあなたを処罰します」


 喉に突きつけられた剣先が僅かに押され、クラウンの喉元に血の玉が浮き上がる。


「わかりました正直に答えますから、この剣先を引いてください朔月の令嬢様。怖くて喉も動かせません」


 こんな状況でもクラウンは笑顔を絶やすことなく、そんなふざけた発言をする。

 しばらくそんなクラウンを見つめ、それからゆっくりと細剣をしまう。


「ありがとうございます。それではどこから話せばよろしいでしょうか?」


「最初から話なさい」


「畏まりました」


 芝居じみた礼をし、彼女がおとすれることになった、トラブルの原因の話を始める。






 クラウンの商館に訪れたのは農家で働く青年だった。

 青年は望んだ。

 皆がお腹一杯になれるような、豊かな土地やおいしい作物が欲しいと。

 もともと農家の三男だった青年は、自分の土地など持つことができないと思っていた。

 だが青年が一人前に働ける頃、近年まれに見る大飢饉が青年の住む国を襲った。

 畑に作物はならず、蓄えていた食べ物の少なくなり、どんどん人が死んでいった。

 青年の二人の兄もその飢饉で亡くなり、青年は父の畑を継ぐことになった。

 だが、飢饉が終わった土地はやせ細り、しばらくは満足に作物も生らない。

 歳を重ねた両親の面倒も見ないといけない。

 跡を継がせるため結婚もしないといけないが、この状況で結婚してくれる人なんていない。


 青年は渇望した。

 それこそ飢饉のときの空腹に負けないくらい渇望し、クラウンの商館にたどり着いた。


「お望みに合う商品はございますが、少々危険ですよ?」


「構わない対価なら払う。だからその商品をくれ」


「畏まりました。それでは確かにお代をいただきます」


 クラウンが片眼の眼帯を外し、隠していた眼で男の目を覗きこむ。

 全てを見透かすような紫の眼で覗きこまれ青年はその場から動くことができない。



「幸せな過去と、不安定な未来をお持ちのようで大変おいしそうでございます」


 青年の視界が次第に霞みがかり最後に黒に染まり気を失う。

 そして「ゴックン」と、何かを飲みこむ音がしたとき青年の視界は普通に戻った。

 眼帯を戻したクラウンが何事もなかったように立ち。


「お代を確かにただきました。それではお客様、またお会いできることを心よりお待ちしております」






 そこまで話し終えクラウンは一息つく、朔月の令嬢は溜息をつき、すっかり冷めたお茶を一口飲む。


「なるほどね。つまりあなたはその青年に乞われたから、彼の望みにあう商品を渡したというのね」


「その通りです」


「なら、その商品があんなことになるのもわかっていたのではないの?」


「さてどうでしょう?」


 クラウンはとぼけたように肩をすくめる。





 農家の青年は商館から帰ってきた後、さっそく買った商品を取り出す。

 青年が買ったのはいくつかの植物の種。

 この植物の種を植えると土地は肥沃になり、その実はかなり美味だということだ。

 青年は早速その種をやせ干せた土地に植える。

 そして数日経つとすくすく育ち、青年の腰まで成長する。


「これはもうすぐ収穫できるだろう」


 日に日に育つ食物の成長を見て、青年を嬉しそうに呟き一日の仕事を終える。


 その日の夜、青年が家で寝ていると何かの物音が聞こえ、目が覚める。

 布団から抜け出し様子を窺う。

 飢饉があった影響で肉食の獣はいなくなっていたはずだ。

 音の出所に向かうと、そこには緑色をした物体が何体も集まり動いていた。


 あれは、なんだ?


 動く緑色の物体に近づく。

 青年に気が付いたのか、緑色の物体は一斉に動きを止める。

 動きを止めたことで青年は、あの緑色の物体を見たことあることに気づいた。


 あれは青年が毎日育てていた植物だ。


 それに気づいたとき、植物たちは動き出し青年に絡みつく。

 慌てて振りほどこうとするが、振りほどけない。

 次第に植物の体が体中に巻き突き、そしてそのまま青年は意識を失い、二度と覚めることが無かった。






「私が渡した商品『自立する食人植物』の種はですね、人を食べその栄養を元に成長するんですよ。

 この植物は種ができたとき、その種が発芽しやすいように土地を豊かにしますし、実をたくさんつけます。その実も栄養がたくさん詰まっているのでおいしいですよ」


「……あなたが人間に呪われた商品を売っているのは知っていましたが、ここまであくどい商売をしていたなんて知らなかったわ」


「あくどいとは心外ですね。私は彼の望んだ品を確かに渡しましたよ。そこに自身の安全が含まれていなかったのは、彼の落ち度で会って私のせいではないですから」


「そうね……。

 そしてその成長した食人植物が大繁殖して、私の領地に侵攻してきたというわけね」


「そうなりますね」





 人知れず増えた食人植物は、彼女の治める領地を襲いだしたため、その商品の販売元であるクラウンのもとに来たということだ。


「わかりました。今回はあなたに責任が無かったとします。

 ですがまたこんなことがあり、私の領地に被害を及ぼすようなことがあれば、あなたの商館ごと破壊しますので、よく覚えていて下さい」


「おや?商売を止めろとは言わないのですね」


「言って聞くのですか?」


「聞かないですね。これが私の生きがいですから」


「言うだけ無駄な言葉なら、わざわざ言いません。それでは今日はこれで失礼します」


 令嬢は席を立ち、出口に向かって歩き出す。

 扉に手をかけたときに、肩越しに振り返り一言だけ告げる。


「お茶確かにおいしかったですわ」


 それだけ言うと、部屋から出ていった。






 残されたクラウンは、変わらず椅子に座ったままつぶやく。


「まったく、あの方が来るなんて緊張しましたよ」


 いつもと変わらない笑顔だが、その頬にわずかに汗が流れる。

 そうして自分のカップに入っているお茶に口を付ける。


「さすが食人植物の葉から採れたお茶ですね。普通のより断然美味しいです」


 今回の対価は、このお茶。

 タダおいしいお茶が飲みたいために、クラウンは商品を売ったのだ。


「誰も損をしてないっていうのは、いいことですね」


 クラウンは青年の血の味が微かにするお茶を満足気に飲み干す。


よろしければ次の話もご覧ください

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