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甦りの対価

次は彼女を生き返らそうとした男の話

「もうそろそろ完成するのではないですか?」

 

 薄暗い地下室の中で二人の男が会話をしていた。

 

「あぁ、これが完成すれば対価は払う」

 

 白衣を着た男は、ライトに照らし出された円形の筒の前に立ちながらそう答える。

 年齢はまだ二十代前半のはずなのだが、その疲れ果てた声とやつれた顔色のせいで年齢以上に老けて見える。

 円形の筒の中には緑色の液体で満たされ、その中に一人の女性が裸で浮いていた。

 

「もうすぐだ。もうすぐで君と僕の失われた未来を取り戻すことができる」

 

 液体の中に浮かぶ彼女を見ながら、そうつぶやく男の目にはすでに正気は無く、狂気の光だけが浮かんでいた。

 そんな彼の後ろ姿を見ながら、タキシード姿に左目に眼帯をつけた男、クラウンは愉しそうに笑う。

 

 

 

 

 

 男と女は恋人同士だった。

 将来を誓い合い結婚まであともう少しというときに、事故で彼女は突然亡くなった。

 彼女が亡くなった日、その日男は彼女とデートの約束をしており、来ない彼女を今か今かと待ち続けていた。

 そしてそんな彼女を待つ男のもとに、警察が彼女の訃報を伝える。

 

 最初警察が何を言っているのか分からなかった。

 性質の悪いジョークだと思い警察に掴みかかる。だが掴みかかられた警察は男の手を払おうともせず、ただ悲痛な顔で男を見る。

 その顔を見て嘘ではないとわかり、男はその場に力無く膝をついた。

 

 先程まで彼女とのデートを楽しみにしていたのに、今は魔の前が真っ暗になり、何も考えられなかった。

 

 その日どうやって家に帰りついたのか覚えていない。

 ただその日から、男は何日も何日も部屋の中で一人頭を抱え過ごし考え続けていた。

 

 目をつむればすぐに彼女の姿が浮かんでくる。

 耳を澄ませば彼女の声が聞こえてくる。

 肌には彼女のぬくもりが感じられる。

 

 だが現実には彼女はどこにもいない。

 その現実が男を苦しめ、さらに彼女の幻影を求めてしまう。

 

 男にとって彼女のいない人生など考えられないものだった。

 

 

 

 

 

 それから何日たったのだろう。

 何も食べず、ずっと考え続けていた男は一つの結論にたどり着く。

 

 彼女を生き返させる。

 

 再び彼女に会うために男はその結論に至った。

 

 

 

 

 

 それから必死に勉強して彼女を生き返らそうとした。

 医術を勉強し人体のありとあらゆる構造を理解したが、彼女は生き返らない。

 漢方や薬学を学び画期的な治療薬を開発できたが、そんなもの彼女の復活には関係無かった。

 何度も何度も挑戦し、何度も何度も失敗した。

 失敗するたびに男は壊れていった。

 

 何度失敗しただろう。医術では、現存の正攻法では彼女を生き返られないと結論をだすと、今度は邪道、オカルトや魔術に手を伸ばした。

 何冊もの怪しげな本を読み、儀式を試みる。

 儀式に必要とあらば、何人もの人間を生贄に捧げた。

 

 年端もいかない少女の腹を生きたまま裂いた。

 年老いた老人の心臓を生きたまま抜いた。

 愛し合う夫婦を殺し合わせ、生き残った方にその体を喰わせた後殺した。

 

 何人もの人間を殺しても男の心は痛まなかった。

 

 男には彼女以外すでにどうでもよかった。

 

 だが何人もの人間を殺し、どんな方法で生贄を捧げても彼女が生き返ることは無かった。

 

 

 

 

 

 彼女が生き返る可能性が消えていき、頭を抱える男のもとに、ある日ふらりと一人の男が現れた。

 

「初めまして、私はクラウンという商売人をしている者です。

 本来ですと客人を私の店に招いて商売の話をするのですが、君の願いがあまりにも面白そうでしたので、こちらから手を貸そうと思いまして自ら来てしまいました。

 もちろん商売ですので対価はもらいますが、あなたの願いを叶えることができると思いますよ」

 

 笑顔でそう言ったクラウンを最初は信用できなかった。

 彼女を生き返らそうと始めたときから、こういう輩が多く近寄ってきた。

 多くが金目的の詐欺、次の根拠のない迷信主義者などだ。

 

 男はクラウンもそんなやからだと思い、追い返そうとした。

 だが男が口を開く前にクラウンが一冊の本を男の前に置く。

 

「この本はこの世界にはまだ無い技術が示された本です。まずは読んでみてはいかがですか」

 

 置かれた本に目をやり、ゆっくりと開いていく。

 そこには今までにない技術が確かに書かれていた。

 ここに書かれていることが事実とは限らない、だが男にはこの本が本物だと思えた。

 

 それからすぐに本に書かれてある技術を学んでいった。

 錬金術、クラウンは本に書かれてある技術をそう言った。

 その技術を使い、今度こそ彼女を生き返らせる。

 

 

 

 

 

 必要な資金を集めるために錬金術で金を作り、その金で設備を整えた。

 それから長い準備を重ね、彼女の細胞を使い、肉体を一から作り直す。

 

 円形の筒の中に出来上がっていく彼女の姿を見て、男は喜びをあらわにする。

 

 

 

 

 

 そして、いよいよ彼女は蘇る日が来た。

 筒の中から水が排出され彼女が外に出る。

 男はすぐに彼女に駆け寄り声をかける。

 

「大丈夫かい?私がわかるかい?」

 

 男の問いに彼女は最初困惑顔を浮かべるが、男の顔を見てすぐに笑顔を向ける。

 そして……、

 

「ぐはっ」

 

 彼女の手刀が男の胸を貫く。

 

 

 

 

 

「なっ、なんで……」

 

 訳も分からず彼女に血に濡れた手を伸ばす、だが彼女がその手をとることはない。

 

「すみません。これが対価なのですよ」

 

 クラウンが背後から声がかかる。

 

「彼女ですけど、姿形はあなたの愛しい恋人に似ていますが中身は、私の使いやすい様に改造さしていただきました。

 あぁ、安心して下さい。彼女はしっかりあなたのことを覚えていますよ」

 

 笑顔で告げられる言葉に、男を絶望に突き落とす。

 

「一度死んだ彼女は、普通の人よりも死ぬのを怯えているようですよ。

 だから死にたく無く、なんの力も無いあなたと別れることを条件に私が改造したんですよ」

 

 再び死ぬのが嫌で、彼女はクラウンの条件を飲んだ。

 

「丁度助手が欲しかった所なので大変助かりました。

 私の助手になると不死の体ぐらい持たないとついてこられないので、調整が必要だったのです」

 

 もうその頃にはクラウンの言葉は男には聞こえていなかった。

 

「ちなみにあなたの対価ですが、彼女を造ってもらうことでした。

 あなたが造ったからと言って、あなたの望み通りになるとは限らないですよ」

 

 目の前がゆっくり暗くなっていき、楽しかった彼女との思いだけが頭の中を駆け巡り、そのまま何も感じなくなった。

 

「おや、彼は亡くなったようですね。まぁもう必要無かったのでいいのですが、それでは私は自分の商館にでも帰りますか」

 

 クラウンは彼女に手を差し出す。

 

「悪魔と取引をして幸せな未来が来ると思っていたのでしょうか?

 でもあんな人間がいたからこそ私も素敵な助手ができたのですから、馬鹿にすることなんかできないんですね。

 ……本当に人間は面白い」

 

 生き返った彼女は死にたくないから、悪魔の手を取った。

 

 そして二人は研究室から出ていく、彼女は自分を愛した男を振り返ることは無かった。


よろしければ次の話もご覧ください

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