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悪魔の商品

「次の本は……、私の同類の物語ですね」

「嫌いではないですが、好んで関わりたくはない人物ですね」

「それでは心逝くまでお楽しみください」

「いらっしゃいませお客様、当店はお客様が来るのを心よりお待ちしておりました。私当舘の主を務めますクラウンと申します。以後お見知りおきを。

 さて早速ですが、お客様がお望みの商品をお渡ししましょう」


 タキシードにシルクハット、片目を眼帯で覆ったクラウン。道化と自ら名乗った彼は後ろの机に置かれていた三つの箱を目の前に並べる。

 笑顔なのにまったく笑っている雰囲気が無いクラウンに寒気を覚えながらも、目の前に並べられた三つの箱に視線をやる。


「それでは商品の説明をさせていただきます」


 黙ってうなずき、説明を聞く。


「お客様にお渡しできる商品は三点。

 一つ目は『夢喰いナイフ』。生きる上で必要な活力となる夢をこのナイフは切り取ることができます。切り取られた相手は生きる希望を無くし無気力となり衰弱死、もしくは自殺に追い込まれてします。この商品のよい所は切り取ると言っても相手に傷をつけることが無いということでしょう」


 手の平に収まるほどの折り畳みナイフ。

 何の変哲もないこれならば、持っていても銃刀法違反などに引っ掛からないだろう。


「二つ目の商品は『幻灯ランプ』。この灯は見ている相手に最も嫌な悪夢を見せ、自らの力では抜け出せず永遠に悪夢に囚われ続けてします。強力な半面、暗い所でしか使用でいないという制限があります」


 カンテラの様なランプ。

 制限があるがそんなものこちらが上手く誘導すればどうにでもなる。


「最後の三つ目は『鞣革鞄』。この鞄に入れられた生物は出ること叶わず鞄に獲り込まれてしまいます。そして鞄に獲り込まれた後、その生物のこれまでの人生が書かれた紙が変わりに出てきます」


 旅行鞄ほどの大きさの鞄。

 何の皮でできているか分からないが、この大きさならよほど大きな生物以外なら入るだろう。


 説明を聞き背筋が寒くなる、目の前の商品がどれも不吉なものにしか見えない。

 それを見てとったのだろう、クラウンは先ほど以上の笑顔で告げる。


「お客様の願いが何か私は知りませんが、お客様が払える対価だとこれ以上の商品はお渡しできませんので……。

 それとも願いを諦め、商品を受け取るのをお止めになりますか?」


 その言葉を聞きあわてて首を振る。

 目的があったはずだ。

 願いがあったはずだ。

 普通の方法では叶えられない、だからここまで来たのだ。


 そう考えた瞬間、先程まで不吉の思えた商品の中の一つが目に入り、いつの間にかその商品を手に取っていた。


「その商品をお買い求めるのですね。それではお客様お代をいただきます」


 クラウンが片眼の眼帯を外し、隠していた眼で男の目を覗きこむ。

 全てを見透かすような紫の眼で覗きこまれ男はその場から動くことができない。


「幸せな過去と、不安定な未来をお持ちのようで大変おいしそうでございます」


 男の視界が次第に霞みがかり最後に黒に染まり気を失う。

 そして「ゴックン」と、何かを飲みこむ音がしたとき俺の視界は普通に戻った。

 何が起きたか分からない私の前に、眼帯を戻したクラウンが何事もなかったように立っていた。


「お代を確かにただきました。それではお客様、またのご来店があることを心よりお待ちしております」


 慇懃な礼を受けて男は舘を後にする。






 男が屋敷から出て行ったあと、二階から一つの影が降りてくる。


「クラウン君、君はまた人間に呪いの道具を渡したのかい?」


「おやおやジャックさん、私はただ商売をしていただけですよ」


「ろくに対価のことを説明しないで商売というのかい?」


 カボチャ頭をしたジャックからの言葉にもクラウンの笑顔は変わらない。


「『夢喰いナイフ』は切った分自らの血が失われる。『幻灯ランプ』は明かりをつける代償として自らの楽しい思い出を差し出さなければいけない。『鞣革鞄』にいたっては一回使用したら手から離れることなく、定期的に生物を殺さなければいけない。

 こんな呪われた道具を説明しないなんてまともな商売とは言えないよ」


 クラウンは左目を覆った眼帯を触りながら嬉しそうに話す。


「そうですか?私はまともな商売だと思いますよ。

 もともとあの男の願いとは、一方的に好きななった女性の恋人を残虐に殺す道具を求めていたのですから」


 そこで残された道具を手に取る。


「どれをとっても男の願いは叶うでしょう。

 でもその後どうなるかは私に責任ありませんよ。それに…」


 うれしそうに、光悦したような笑顔で告げる。


「悪魔に願うのだからそれぐらいは覚悟してもらわなければ」






「……それで君が彼の魂を食べた理由は?」


「道具の仲介と言ったところでしょうか、それにそんなに食べていませんよ。

 私がしたのは彼の結末をこの目に移し記憶するように細工したぐらいです」


 眼帯を親指で指しながら説明する。

 結末をみたい、その言葉は彼の本音だろう。

 彼の渡した商品を手に取ったのだ。結末など碌なはずがない。

 ジャックは変わらないカボチャ頭の表情で大きく溜息を吐く。


「ろくな奴ではないな君は」


「悪魔ですから」


 笑顔で商売する悪魔は、今日も呪いの道具を売り、人間をその閉じられた眼で愛でている。


「いかがでしたか?」

「お気に召しましたか?」

「よろしければ次の本もお読みください」

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