フードファイト
「次の本は勝負をしている男の物語」
「自分だけの情熱それが活力になるのです」
「それでは心逝くまでお楽しみください」
「三番の選手、最後のさらに手をつけました」
司会者の声に周りで見ていた観客が歓声を上げる。
三番の選手すなわち俺はそんな声を聞く余裕もなく目の前の料理に意識を集中させる。
真夏の海の家で現在『夏の暑さを華麗に乗り切れ、カレー大食い大会』が行われていた。
華麗とカレーを掛けているのだろうがまったく面白くない。
大会のルールは一つだけ、順番に出てくる緑色のカレー、黄色のカレー、赤色のカレーを完食すること、ただそれのみ。
参加者は十人、今のところ俺の順位は3位で十分に優勝を狙える範囲だ。
だが既に二つのカレーを食べ切った俺の腹は限界に近く、スプーンを握る手や顔にびっしりと汗が浮かび、目の前のカレーに手をつけることができない。
最初の緑色のカレーは野菜たっぷりのカレーで具がたくさん入っており、胃に溜まりやすく、次の黄色のカレーは普通の甘口カレーで食べやすかったが、その分普通のカレーの二倍ほどの量があった。
そして最後のこの赤い色のカレー、これを見たとき暑さ以外の嫌な汗がすでに前兆を告げていた。
目の前にある赤色のカレー、匂いを嗅いだだけで汗がどんどん噴き出てくる。
このまま黙って見ていても時間だけが過ぎていくだけだ、そう思い勇気を出して一口口に入れる、その瞬間口の中に燃えるような熱が走り、目頭が痛くなる。
赤色のカレーは激辛の唐辛子カレーだった。
思わず水の入ったコップに手を伸ばし一気に飲みこむ。
口の中の熱が若干引いたが、代わりに水を飲んだ分腹がさらに満杯に近づく。
横目で他の選手を見ても、同じように皆この激辛カレーに苦戦している。
海の家にある何台もの扇風機が頑張ってプロペラを回して風を送るが、まったく汗が引く気配がない。
そして審査品席に座るこの大会の主催者である海の家の主を見ると、実にイイ笑顔で俺達の方を見ているのが実に腹立たしい。
目の前に優勝が目に見えているのに、ここであきらめるわけにはいかない。
カレーの大食いのコツは、まずはご飯を先に食べる。そしてご飯を食べ切った後にルーを一気に流し込む。
ルーは味があるとはいえ殆ど水分、先に食べると腹が膨れてご飯が食べられなくなる、あとに食べることで流し込むことができる。
それと熱い辛味系の大食いにも注意することがある、熱を冷まさず食べると最初は平気かも知れないが次第に舌が火傷と同じ症状になり辛味が激増して口に入れることすら困難となる。
以上のことを踏まえて俺がとった戦法は、最初にご飯を食べきり、そしてその間にルーを冷まし、ご飯を食べ切った後にルーを一気に流し込む。
腹に限界が近い今の俺にはこれ以上の戦法は無い。
戦法通りご飯を最初に食べ切り、次に少し冷め始めたルーに取り掛かる。
横にいた選手が俺の戦法を見て、同じように一気にご飯を食べていく、これは急がないとやばい。
辛味を感じる間もないほど素早くルーを流し込み、皿を空にする。
「おっと、三番の選手ルーを一気に流し込み順位を逆転、優勝です!」
司会者の言葉に、観客は盛大な歓声を俺に送る。
限界にまで膨れた腹をさすりつつ、俺はその歓声に満足気に聞き惚れる。
大食いなんてと思う人間もいるかもしれないが、ここには挑戦しないとわからない何かが確かにある。
「いかがでしたか?」
「お気に召しましたか?」
「よろしければ次の本もお読みください」




