俺と新米彼女の作戦行動 その裏で暗躍する人々
「次の本は、ある組織に属する上役の物語」
「上に立つほど責任は重くなっていくのです」
「それでは心逝くまでお楽しみ下さい」
「さてそろそろ吾輩の出番かな」
薄暗い部屋の中、唯一光を放つパソコンの前に座ったまま吾輩はそうつぶやく。
パソコンの画面には様々な情報が次から次に現れては消えていく。
吾輩はそれらの情報を素早く目を通していく中で、ある一つの情報に目をつける。
「世界が混乱を極めているこんな時こそ吾輩の力が求められる時よ。
吾輩をこんなところに封印した奴らに復讐するために、臥薪嘗胆の心で機会を窺ってきた吾輩に、今こそ奴らが頭を垂れて謝る姿が目に映るわ。はーはっはっはっはっ」
吾輩は人々が頭を垂れる姿を想像し高らかに大笑いする。
だが、そんな中急に部屋の明かりがつき、扉を開けて入って来た一人の女性が吾輩を無表情に見つめる。
「何しているんですか、支部長?」
高校生に思える吾輩に対して、あきらかにそれよりも年上の女性が敬語で支部長と呼んでくる。
「おいおい、せっかく吾輩の気分が乗ってきているのに邪魔するなよ」
「それはすみませんでした。傍から見ているとてっきりもとから狂っていた頭がさらに狂ったのかと心配しましたので、また部屋から聞こえる高笑いに対して部下の方から「うるさい」「仕事に集中できない」等の苦情が多数寄せられております。
それと自分のことをいい加減、吾輩と呼ぶのは相当痛いので止めた方がいいかと思います」
無表情を変えること敬語で嫌味を告げる。
「まったく、そんなことを吾輩に平気で言えるのは、この組織でもボスかお前ぐらいだろうな」
「御不快にさせましたか?」
「いや、それぐらいのこと平気で言ってもらえないとつまらないし、吾輩の秘書はそうでないと面白くも無い」
「それは安心しました。ところで本日はいつも以上に、気分がのっていたようですが何かありましたか?」
「あぁ、またあの二人が事件を起こしてくれたよ」
パソコンの向きを変え、そこに映った情報を秘書に見せる。
画面を覗き込んだ秘書は、文章を読み進めるうちに眉を僅かにだが動かす。
わずかな表情の変化だが、それを見てとった吾輩はからかうように言う。
「さすがのお前さんも、可愛い妹のこととなると表情が動くか」
「唯一の肉親ですから」
すでにいつもの無表情に戻った秘書は、淡々と返事をする。
「それにしてもあの二人は毎回楽しいことを起こしてくれるな。他の幹部連中は怒り心頭みたいだが、そんなこと吾輩には関係ないからな。
今度は吾輩もこっそり同行して一緒に楽しむかな~」
「自重してください支部長。あなたに何かあればこの支部が動かなくなります」
「かっかっかっ、吾輩に何かあるはずないだろう。吾輩を誰だと思っている?」
天上天下唯我独尊、自分のことをまったく疑ってない者の発言。
だが秘書の彼女は知っている。
その言葉にまったく嘘も謙虚もなく、全ては彼の実力と自信から出ているということを。
でなければ、この若さで支部長など務まるわけも無い。
「確かにあなたの力は疑っていませんが、だからと言って、上の者がそう簡単に現場に出ることを認められるわけにもいきません。
あと他にも仕事がたまっていますので、まずはそれを片付けて下さい」
自分の実力では彼を止められないと知っていても、それでも彼女は事実と理論を盾に淡々と告げる。
秘書の言葉に、溜まっている仕事のことを思い出して出かけようとしていた足を戻し、椅子に腰かける。
「まったく本当にお前はたいしたものだよ。吾輩を止めるなんてなかなかできることではないんだぞ」
その言葉に秘書は静かに頭を下げ、吾輩はパソコンに移る新しい情報に目をやる。
「まっ、今回もあいつらのお手並み拝見といきますか。
何でもかんでも手を貸したら成長するものも成長しないし、はじめの一歩ぐらい自分たちの力で歩きださないとな」
そう言い、少しだけパソコンをいじり二人の男女の姿を映し出す。
「だけど危なくなったら手を出すぞ。それが支部長と呼ばれる吾輩の責任だからな」
「はい。では私はおいしい紅茶でも淹れましょう」
パソコンに移る映像に目をやっていたため彼女の表情は分からなかったが、それでも普段の淡々とした声の中に少しだけ弾んだ声が込められているように感じたのは気のせいではないだろう。
「あぁ、ついでにおいしいクッキーでも付けてくれ」
「畏まりました、ご主人様」
秘書の彼女は彼の指示で来ているメイド服を見事に着こなし仕事に戻っていく。
裏の裏で今日も吾輩は活動し続ける。
「いかがでしたか?」
「お気に召しましたか?」
「よろしければ次の本もお読みください」




