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獣の正義

「次の本は正義の物語」

「正義なんてそれこそ生きている者の数だけあるのです」

「それでは心逝くまでお楽しみください」

「正義ってなんでしょうね?」


「さぁな?とりあえず今の俺たちには無縁なものだろうよ」


 相棒は死体の服から金目の物を奪いながら適当に返事する。

 まだ煙が上がる街には火に焼かれ黒焦げになった死体や、惨殺された死体や、犯された跡がある死体など、さまざまな死体がそこらへんに転がり異臭を放っている。

 二人はそんな戦場跡地の中で、慣れている足取りで進んでいく。


「お前もそんな金にならない思案にふける前に手伝えよ」


「あぁ、すみません。つい珍しい本を見つけたもので手が止まってしまいました」


 先程、壊れた商店の中を物色していた時に、見つけた本を袋に詰めながらそう答える。


「そんなものが金になるのか?」


「物好きな奴にはそこそこの金で売れますよ」


 二人はそんなことを言い合いながら、次の家へと足を進める。

 火事場泥棒、世間ではハイエナなどと呼ばれ忌嫌われる行為を二人は職業としている。

 今回訪れたこの街も、つい先日まで戦争をしていたところだ。

 まだ兵士や、街の生き残りなどもいたりする可能性もあり、危険は多いがその危険に見合う分儲けも多い。

 二人は知りあってかなり長い。はじめは同じように火事場泥棒をしている奴がいる程度に思っていたが、そのうち何度も顔を合わせるうちにいつしか一緒に行動するようになり、気付けば相棒と呼べるまでの信頼関係を結べていた。



 家に入り金目の物を探っていると、奥の方から何かの物音がした。

 俺たちは互いに視線を合わせ、静かに家の奥に足を進める。

 奥までたどり着き、扉をそっと開け隙間からこっそりと中をのぞく。そこには二人の子供が部屋の隅で固まっていた。

 他に人影がないのを確認すると俺たちは部屋の中に入る。


「こんにちは」


 相棒が笑顔で挨拶をするが、突然現れた知らない人間に子供達の肩は大きくビクつく。


「私の笑顔ってそんなに怖いかしら?」


「突然の侵入者で驚いただけだろう、いいから話を進めろ」


 ショックを受けたような顔で振り向く相棒の後ろに立ち、俺は事の成り行きを見守る。


「ねぇ、君たちのお父さんやお母さんは」


「し、知らない…。箪笥の中に隠れてろって言ったきり会ってない」


 涙をためながら二人は必死にそう言う。

 たぶん両親は子供だけは守ろうと箪笥に隠したのだろう。もしくは自分達だけが逃げるのが精一杯で荷物になる子供は連れていけなかったのかのどちらかだろう。


 どちらにしろ、やることには変わりない。


「そうか大変だったね。じゃあお兄さんがこれからお父さんやお母さんのもとに連れて行ってあげるよ」


 笑顔で言った相棒は、そのまま表情を変えずに背中に隠していた短剣振るい、あっという間に二人の子供を殺す。

 そこに一切躊躇は無い。

 新しくできた二つの死体を作った相棒は、何事も無かったようにこちらを振り返る。

 本当に何事もなかったように。

 実際に相棒にとっては何事もなかったのだろう。


「これでこの家は調べたい放題だね」


「そうだな、さっさと終わらそう。あまり長居すると死体の匂いが部屋に籠る」


 俺の答えに相棒の笑顔が一層に増す。


「やっぱりあなたは最高の相棒だよ。私に変な倫理観を説かないんだから」


「倫理観なんて一銭の金にもならないだろう。

 あえて説くとするなら獅子の様な高潔な魂を持つというのが騎士道と言われているが、ハイエナと呼ばれる俺達も彼等と同じ獣だ。

 獣である以上飯を食は無ければ生きていけない。そこに自分で勝ち取った肉か、それとも死骸の肉かは関係無い」


 俺は表情を変えずにそう答える。

 勝ち取るということは戦うということだ、つまり生き死にが関わる。ならば今俺達の生活となんら変わらない。

 むしろ逃げる選択肢の多い俺達の方が安全の可能性が高い。


「誇れる道では無いかもしれないが、生き延びる道に俺は進む。世の中最後まで生きていたやつが結局正義になるからな」


「私も生き延びたいからついていきますよ、こう見えても私は相棒ですから」


 その言葉に唇を微かに上げ笑う。

 そして短時間で家の中の金目の物を奪い、玄関先で倒れる男女の死体をまたぎ、家を出ていく。

 多分この男女が子供の両親だったのだろう。

 俺にはこの二人が何をしたかったのか分からない。

 だが、はっきりわかるのは死んだらそこで終わりということだけだ。


 二人が出ていった家の中には、物言わぬ死体が四つ転がるだけだ。

  


「いかがでしたか?」

「お気に召しましたか?」

「よろしければ次の本もお読みください」

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