少女の思い
「次の本はある少女の物語」
「歩むにつれ、人は原点を忘れそうになります」
「それでは心逝くまでお楽しみください」
「勝者、赤コーナー!!」
試合終了を告げる鐘の音と共に、高らかに勝利者の名前が呼びあげられる。
私はそのコールを聞きながら、悔しげに唇を噛みしめ、倒された自分のロボットとその向こうに見える相手選手を睨みつける。
急激に成長したロボット業界が数年前から始めた、ロボット同士を戦わせるロボット杯。
プロレスの様なリングの中で互いに作り上げたロボットを戦わせる。敗北条件は相手ロボットが動かなくなるか、作った人間がギブアップを宣言するまで、それ以外はどんな機能でもありという決まりになっている。
私は小学生の頃から参加しており、私が作るロボットは連戦連勝で世間では天才少女とまで言われてきた。
しかし、その私の前に数日前から敗北という壁にぶつかることになる。
私の前に現れた挑戦者は、私よりも十は年上かもというようなさえない若者。
特徴という特徴もない中肉中背で、唯一特徴らしいのはその右目にかけた片眼鏡のみ。
そんな男が私の最先端科学によって設計したロボットを打破したのだ。
それも今では旧式ロボットと言われるような一昔前のロボットで。
今日の敗北も含めてこれで彼に三連敗している。
新聞やネットでは『天才少女の敗北、やはり経験不足感が否めないのか!!』という見出しが大々的に躍っている。
私は今日の敗北にイライラし、リングに背を向け立ち去ろうとするが、そんな私に声がかけられる。
「君のロボットは持って帰らないのかい?」
声をかけたのは、私を負かした若者。
そのことに、さらに私のイラつきは上がっていく。
「持って帰らないわよ、あんな負けたガラクタ。いい次こそは私が作る最先端のロボットでコテンパンにしてあげるわ」
指をつき指しそう宣言するが、私の言葉に若者は困った子供を見るような眼をして、溜息をこぼす。
「今の君では僕に勝つことはできないだろう」
「それどういうことよ!」
「言葉通りの意味だよ。僕は君のような優れた頭脳や技術は持っていない、だが僕は君に負けないと自信を持って言えるものがある。
それはロボットに対する愛情だよ」
愛情?なによそれ。
目に見えない物が、形に無い物が一体なんだって言うのよ。
「君にとってロボットっていったいなんなのかな?
ただの機械部品の集まりなのかな?
そう考えている限り僕は負けないよ。僕にとってロボットとは部品一つ一つが職人が魂込めて造り上げた結晶だからね」
それだけ言うと、彼は背中を向けて去って行った。
その手に、私が作ったロボットを大事そうに持って。
家に帰り、自分のラボに戻り少し考えてしまう。
私にとってロボットっていったい何なのか?
少しだけ考え、すぐに小さかった時の思い出が浮かんできた。
ただ私が作ったロボットが動いてくれるのが純粋にうれしかったあの頃の思い出。
勝利なんて別に二の次だった。私が作り上げたロボットが頑張ってくれるそれが嬉しかったのだ。
思い出したときには私は、ネットで調べた番号に電話していた。
『はい、どちら様ですか』
「…あの、今日持って帰った私のロボットまだ持っていますか」
名前も言わず、用件だけを早口で私は告げる。
相手は私の声で、電話の相手が誰か気づいたのだろう。
『もちろん大事に持っているよ』
「その子、私の大切なロボットなんです返してもらえますか」
『わかりました。これで今度のバトルいい試合になりそうですね』
彼は嬉しそうにそうにそう返事をする。
次の試合、また負けるかもしれない。
でも、きっと私にとって満足できるだろう、そう思えた。
「いかがでしたか?」
「お気に召しましたか?」
「よろしければ次の本もお読みください」