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競りの前

男が戻ってきたのは、雛姫とソウジュの準備が整った頃合いのことだった。


「へえ、なかなか綺麗になったじゃん。これなら二人とも良い値段がつきそうで嬉しいよ」


文字通り値踏みするような視線を男が二人へと這わせる。


「…………」

「…………」


雛姫は怯えたように視線を揺らすソウジュを庇うように前に出つつ、そんな男の視線を冷やかに迎え撃つ。


「何怖い顔してんの。せっかく褒めてやったのに」

「……どこの世界に美味しそうだたから高く売れるね、って言われて喜ぶ豚がいると思うんだ」

「はは」


雛姫の皮肉にも、男は笑うばかりだ。


(……腹立つな)


苛立ちの原因は男の言動だけではない。


(着飾られたくなんかなかった)


ソウジュはいいのだ。

ソウジュは元々成長の可能性を感じさせる中性的な魅力にあふれた子供だ。

飾り立てれば見栄えもするし、実際こんな状況でなければ笑顔で褒めてあげたくなるような仕上がりになっている。


(……でも、自分は違う)


雛姫は変性できないまま大人になってしまった「成り損ない」のユーゲロイドだ。

人間でいうなら限りなく男に近い無生体なのだ。

それなのに、顔に化粧を施され、着飾られ、中性的ユーゲロイドを演出しようなんていうのは……。


(正直、結構クる)


紛いものとしてオークションに出されるのだと思うと、我が身の儘ならなさに悔しくてたまらなくなる。

唯一良かったと言えるのは、拘束が緩んだことだろうか。

先程まではほとんど身動ぎも出来ないほどにキツく両手、両足首を拘束されていたが、今はある程度の動きには困らない。

逃走防止に片方の足首には鎖が繋がれているものの、ある程度の長さがとられている分、鎖の届く範囲では自由に動くことが出来る。


(……あー、殴り倒したい)


この距離なら、おそらくそれは可能だ。

今目の前にいる男一人なら、雛姫でも充分倒せるだろう。

だが――……、その後が続かない。

この鎖をなんとかしなければ、この男を倒したところで逃げるのは難しい。

目の前にいる男が鍵を持っている可能性に賭けて殴り倒してみるのもありだが……おそらくすぐに勘づかれ、囲まれて鎮圧されてしまうことだろう。


(チャンスを待たないと)


迂闊に騒ぎを起こしてしまっては、決定的なチャンスを見逃してしまうことになる。

この後に一番のチャンスがあるとしたら、それはオークションが終了して客へと身柄が引き渡される時だろう。

足を咬む拘束が外される瞬間。

その時までは、どれだけ悔しかろうが、腹が立とうが、我慢するしかない。


「…………」


ちゃり、と鎖を鳴らして、不安そうにソウジュが雛姫へと寄り添う。


「さて、そろそろ客も会場に集まった頃だ。あんたらの出番だぜ」


男がそう言って、雛姫とソウジュを繋いだ鎖を手に取った。

次のシーンが長くなってしまったので、短かくなってしまいましたがここで一度切ろうと思います。すぐに次話も調整して投稿したいと思います(`・ω・´)

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