夢の商売
今日も動物長屋は良い天気。
大家のゴリさんのところへ一人訪ねて来ました。
「おはようございます!ゴリさん、
いらっしゃいますか?」
「あら、バクさん。いらっしゃい。ウチの人は奥にいますえ。あんたぁ!バクさんがおみえです!」
「そんな大きな声出さいでも聞こえます。
こっちゃ入って貰え。」
奥さんに挨拶をしまして、バクさんはゴリさんのお部屋に入りました。
「ゴリさん、おはようございます。」
「なんや。そんな かしこまってぇ。
いつもの元気はどないしたんや。」
「へぇ。実は、、、まことに申し上げにくんですが、、、。」
バクさんは元気がありません。
「えぇ~。なんやなんや。怖いがな怖いがな。あぁ!あれやな!かまへんかまへん
ウチみたいな長屋は空き家があると景気悪いさかいに、家賃みたいなんはいつでもええ。私とあんたの仲やがな!気にすることあれへん。」
ゴリさんがそう言ってもバクさんは暗い顔。
「いえいえ。違いますねん。実は、、、
店を閉めよう思ってますねん、、、。」
「ええぇ~!あんた、店、閉めんの?何で?」
1つ大きな溜め息をついて、バクさんは話し始めました。
「ウチの《ゆめや》ですがね、景気も悪くなっても何とかやっておったんですが、近頃は仕入れた商品の質がなんとも、、、。」
「ほぉ~。商品の質が悪い?あんたのとこは夢を売ってるんやろ?そら、ええ夢と悪い夢と違いわあるやろうが、質?質がどう悪い?」
「へぇ。まぁ夢とひとくちに申しましても、ええ夢と悪い夢がございます。その夢の質といいますのが、これがウチの商品の値打ちになっとりましてな。ひと昔前の皆が見ていた夢はもっとキラキラ輝いておりましたが、近頃は皆、ちょっと夢の見かたが変わりまして、、、。」
「ほうほう。どう変わった?」
「へぇ。近頃は昔のような夢やなくて、どちらかと言いますと希望、欲望が濃くなってまいりまして。」
「あぁ~。なるほどなぁ~。最近の若いもんらは夢がないやの新聞やらに書いたるなぁ。」
「へぇ。そうなんです。夢といってもお金持ちになりたいなぁ、アイドルになれたらいいなぁなど、まぁそれはそれで立派な夢なんですがそうなろうという努力といいますか、そういうのがちょっと足りないんです、、、。そら、ほんとにそうなろうと努力されてる方もたくさん居てます。でも、昔より少なくて貴重ですので値が高くなってなかなか売れんのです、、、。」
「なるほどなぁ~。あんたのとこはなかなか深い商売してたんやなぁ。」
「ありがとうございます。昔の景気の良かった時分はどんな夢でも売れたんですが、最近はちっとも。ウチの商品は買って頂いて、こんな夢もっとるやつが居るんか。負けてられんなぁ!わしらも頑張ろう!、、、というようなやる気を起こすために使ったり、応援したりして幸せな気持ちになって頂く為の物でして、、、。」
「、、、なんか、アクドイような気がするなぁ。」
「え?何かおっしゃりました?」
「いやいや。気にせんといて。
、、、そうやなぁ。せっかくの店を閉めるのももったいないなぁ、、、。」
ゴリさんもバクさんも下を向いて考えていますと、ゴリさんが
「そや!ええこと思い付きましたでぇ~。
これやったら、バクさん、いけると思いますで。」
「ゴリさん!それ、いけそうやな!」
「待ちぃなあんた。まだ何も言うてません。おかしな人やなぁ。まあまあ、、、こっちゃ寄りなさい。いや、近い近い、そんな趣味ありません。ええから聞きなさい。
いっそのこと夢の売り方を変えますんや。」
「売り方を変えるんでっか?どう変えましょ?」
「夢をその人に作らすんです。」
「と、申しますと?」
「皆、ああいうのになりたいなぁ。とは、思うわけでしょ?その目標ですわな。目標とする人などをあんたが作ってしまうんです。」
「何や難しいですなぁ。もうちょい簡単に言うて下さい。」
「プロデュース。バクさんがプロデュースするんです。」
「ぷ、ぷろでぃゅーす?」
「わからん人やな~。例えばアイドルになりたい人が居るでしょ。その人をあんたがアイドルにしてあげるんです。」
「ええぇ~!そんなん私に出来ますか?」
「さぁ、そこはあんたの頑張りしだいやわ。考えても見なさい、アイドルだけやありませんよ。何になるにも専門の知識などが必要やねんから、それをあんたが教えますのや。一人でも上手くいってごらん。それを見て、あんなふうになりたいなぁと思う人が出てくるでしょう。そしたらまたその人に教えれば良いでしょ。それで夢が売れませんか?」
「、、、ゴリさん!あんたはやっぱり凄いなぁ~!アイドルだけやありませんやん!何でも、、、何でも先生っちゅうのが必要ですもんね!私、早速行ってきますわ!」
バクさんはどこかへ大急ぎで飛んでいきました。一人、残されたゴリさんはというと、、、。
「、、、、、、しもた。ワシがやったら良かった。」