第三話
第三話
「ああぁん、誰だよてめぇは、おい?」
目の前には10人ほどの不良の集団。場所は夜野蝶学院第一グランド。小等部・中等部・高等部と分かれている内で、利用者の平均年齢が最も高いところだ。
なんでこうなった…
「平和な高校生ライフはどこに行った…」
黒木は遠い目で空を見た。
こんなことになってしまった理由を、話しておこう。それは今から数時間前のこと…
今、俺たちは校長室にいる。なぜこんなところにいるのか。それは…
『依頼?』
四人の声が重なる。
「そうだ。君たちは今、社長の命によって、ミヤお嬢様を護衛することになっているな。私の仕事は、そのサポートをすることだ」
「はぁ、そうですか。それで、校長からの依頼とはどういうことでしょうか」
校長の――刃さんの言葉にそう返すのは狗神だ。因みに今日は入学式の翌日。HRが始まる前の朝のひとときだ。
「あぁ。護衛と言っても、何をすればいいのか具体的には聞いていないだろう。とりあえず手近なところから君たちに依頼しておこうかと思ってな」
「この学園の警備をしてくれないか」
そう厳しい顔で言う口調は、依頼というより命令に近かった。
「てか、警備員どうしたよ」
狗神が即決して受けてしまった校長からの〈依頼〉。
『夜野蝶学院高等部の警備及び危険分子の排除』
報酬は…学費の免除に一部制限の解除、一月に十万円とアクシデントを防ぐ度に一万円。めちゃくちゃな価格破壊だ。等価交換が普通なんだが…そんなに家計酷かったっけ?
「おぉい、てめえ何ぶつぶつ言ってんだぁ?」
…まあ、いっか。まずはこいつらを潰そう…
「何、黙ってんのぉ~何か言えよ~、あ、なに、なに、俺らの事、怖くなっちゃったの~」
ダッ
「うるせえ」
バキッ、ゲハ
一番近くにいた男が五メートルも飛んでいった。不良たちは呆然としている。…手加減はしたつもりなんだが。
「はぁ~、こんなもんか。ちゃんと戦り切れるか心配だぜ」
そう言ってズボンのポケットに手を突っ込む。取り出したのは、腕章。腕に通したそこには〈警備員〉と書かれている。
「とりあえず、お前ら…覚悟しろよ」
そう言いながら近づくだけで、慄いているのが分かる。
「いっちょ、軽~く戦り切るか」
太陽がギラギラと輝く空の下、俺はそう宣言した。
黒木雅人、初日の仕事、無事終了
終わったのはきっかり五分後だ。近くには不良たちが山積みになっている。戦闘描写?いや、いらないだろ。だって、ただ殴って、蹴って、掴んで、投げてただけだぞ?
「とりあえずこいつら、外に出しとくか」
一人一人掴んで、丁寧に門前に投げ捨てる。
「ま~あ、戦利品も得たし、いっかな」
満足そうに笑みを湛え、バイクを引きずる黒木。先程の不良たちから頂いたものだ。学生の割に結構良いやつを駆っていたらしい。
(狗神に改造してもらおう)
「黒木~、終わったかい」
狗神の声が教室から降ってくる。滝風や静夜と並んで、高見の見物をしていたらしい。尤も、当番制なので当然だが。
「終わったど~、戦利品もゲットしたぜ~」
引きずっていたバイクを片手で一つずつ持ち上げる。
…言っておくが、普通のバイクである。
「あの馬鹿、校庭のど真ん中で…。なあ、霊、バイクの重量について訊きたいんだが…」
「軽くても百五十キロはあると思うよ」
呆れ顔の二人と無表情の一人を除いて、校庭を見る全員の目が丸くなっていた。
「分かったから、早く帰ってきて」
そう言う霊の声は、先程に比べ随分元気が無くなっていた。
「ほいほ~い」
バイクをその場に捨て、辺りを見渡す黒木。
(殺気…いや、強い視線か。いやな予感がするな)
無言で校舎に入っていった。
~数日後~
初仕事だった不良退治から数日、時刻は丁度お昼時だ
俺らは屋上にいた。
「そろそろ完成する?何が?」
「ロボットだよ、君たちの。忘れたの?黒木の発案だよ?」
「ん―――あ、あぁ、あん時か」
数日前に口を滑らせて、
『変形ロボットって良いよな』
なんて言ってしまったことがあった。その時ちょうど狗神に聞かれていたんだ。まさか、
『作ってあげようか』
と言われるとは思ってなかったけど。
「へぇ~マジで出来たのか」
「それってどんなのだ?」
「…ボクのもあるの?」
二人とも声が不安げだ。…理由は違うだろうけどな。
「あるよ、静夜、滝風。まあ、まだまだだけどね」
使えるのはもっと先だよ、と狗神は付け足す。
「ボクのもあるんだね」
「俺のもあるん、だな…」
そんな、実は大事かもしれない雑談をしていると。
「失礼する」
突然に話しかけられた。またも背後から。女子の声ではあるが、少しハスキーだ。振り返ると、
「突然済まない。私の名は秋時椛だ。一年三組黒木雅人、貴様に決闘を申し込む。お受け頂きたい」
そこには、ポニーテルというよりも丁髷というべき姿に髪を結い、竹刀袋を提げた女子がいた。
「……は?」
一瞬の間の後に俺は答えた。すぐに反応できなかったことを、頼むから責めないでくれ。
この時が、俺と彼女の初の対面だったのだから。