第二話
第二話
「あっあなたは誰ですか、こ、ここは、男の子が入っていい、良いところではありませんよ?」
天城円香がオドオドした様子で言った、対して黒木は
「あ~そうなのか?後、名乗るときは自分からだぜ?」
にやけ顔で答える黒木にムッとしたのか、天城に怯えた様子は無くなり、急に高くなった声で言い返す……が
「私の名前は
「俺の名前は黒木雅人、今日からここの一年生だ。因みにこの町で何でも屋をやっている!」
…………!」
バッサリと、遮った。
躊躇なく、遮った。
失礼無礼など考えずに、遮った。
ニコニコと微笑み、ニッコリ笑顔で、名乗りを止めて、名乗り出た。
「あ、あなたはっ
「ゴメン、ゴメン。何だか癖でね。あ、そうそう、男の子が入っちゃダメなんだっけ?まいったな~せっかく見つけたのに、もったいないなぁ…あと三十分待ってくれない?そうしてくれればすぐに帰るから」
ま、また…!」
ここで一応は会話が成立したことに関して、彼女は賞賛されてしかるべきだろう。
「あ~もう、分かりました。三十分ですね!そしたら帰って下さいよ!」
完璧に怒ってはいるが。
「あ~っと、そうだった。あんたの名前を聞いてねえや。何ていうんだ?大丈夫、今度は止めないよ」
建物の奥へ戻ろうとしていた天城は、黒木の言葉に立ち止まる。そして、振り向かずにそれに答えた。
「円香…天城円香。天空の城を包み円る香りと書いて天城円香。あなたと同じ一年です」
そのまま歩いていく後ろ姿に
「あっそ」
と呟くと、黒木は目を閉じた。
~三十分後~
「んじゃぁ、サイナラ~」
誰の姿も見えない教会の出口に、手を振り呼びかけると、駐車場へ歩みを向けた。
遅刻しそうになって乗ってきたバイクを見つけると、黒木はおもむろにフェンを取り出した。
「アル、起きてる~?」
《アイアイ、マスター》
「バイクにセットするぞ~」
《あい、あい》
フェンをバイクに差し込み―――
《ん?マスター、旦那からメールだ。買い物してくれだってよ》
「げ、まじかよ…はぁ…で、何買うんだ?」
《人参、牛肉、じゃが芋、糸こん、さやいんげん、……etc》
この日の彼らの夕食は、肉じゃがだった。
~円香side~
今日は教会――中学の頃から通っている〈エヌマシュ教会〉――で変な人と会いました。最初は知らずに入ってきたと思ったら、そのまま最前列で手を合わせる。夕日に赤く染まるステンドグラスを背景に祈るその姿が―――
その姿が、とても…とても綺麗だった
父と執事以外の男性を近くで見たことがない私。初めて見た同年代の男の子。男の人。男性。男の子。オトコノコ――――。はっ!私はいったい…そもそもここは男子禁制。注意しなくちゃ!でも……なんと言えば良いのでしょう。
どう話し掛けようかと思案していると、どうやら見えていたようで。
「お~い、隠れ切れてねぇぞ」
恐らくその時、私は体を震わせたでしょう。見つかってしまいました。男の人に。
(見つかってしまった!どうしよう…そう、とりあえず名前を!)
「あっあなたは誰ですか、こ、ここは、男の子が入っていい、良いところではありませんよ?」
声が上ずってしまったのが自分でも分かりました。
「あ~そうなのか?後、名乗るときは自分からだぜ?」
ニヤニヤした顔で言われて少しムッとしたけれど、相手の言うことも尤もですから、今度こそはちゃんと言えるように
「私の名前は
「俺の名前は黒木雅人、今日からここの一年生だ。因みにこの町で何でも屋をやっている!」
…………!」
バッサリと、遮られた。
躊躇なく、遮られた。
失礼無礼など考えずに、遮られた。
ニコニコと微笑み、ニッコリと笑顔で、名乗りを止められ、名乗られた。
彼の自己紹介から分かったこともある。
彼が黒木雅人という名だということ。
この夜野蝶女学院の一年生だということ。
この町で何でも屋を開いているということ。
けれど、押し寄せる怒りにそんなことを考える余裕は無かった。
「あ、あなたはっ
「ゴメン、ゴメン。何だか癖でね。あ、そうそう、男の子が入っちゃダメなんだっけ?まいったな~せっかく見つけたのに、もったいないなぁ…あと三十分待ってくれない?そうしてくれればすぐに帰るから」
ま、また…!」
どうやら彼に、私の思いは伝わらなったらしい。
「あ~もう、分かりました。三十分ですね!そしたら帰って下さいよ!」
奥に戻って、落ち着こう。そう思って私は、彼に背を向けました。
「あ~っと、そうだった。あんたの名前を聞いてねえや。何ていうんだ?大丈夫、今度は止めないよ」
そう言われて私は足を止めました。
「円香…天城円香。天空の城を包み円る香りと書いて天城円香ですあなたと同じ一年」
そういって私は再び足を動かしました。
「あっそ」
後ろからかけられるそのそっけない声が何だか少し残念で、なぜか残念で、どうして残念だったのか、分かりませんでした。
そして、私は、彼がきっかり三十分の間祈っている姿を覗いていました。
「そうだ、買い物頼まれてたんだわ」
人参
牛肉
糸こんにゃく
じゃが芋
さやいんげん………
今日の夕ご飯は肉じゃがでした。