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Famiria Brig  作者: くま丼
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第一話

   第一話

 場所は変わって、ここは夜野町にある山。そのふもとにある一件の家で事件は起こった。今日は四月九日、入学式や進学など、どこの学校にも大切な日である。ボマー―黒木達は、この前まで中学三年生だった。つまり今日は彼らの、高校の入学式のはずだ。しかし、今、黒木は…

ピピピピピピピ カチッ ピ

「ん…ねみぃ…ん?」

 寝惚けた頭で目覚まし時計を止めた黒木。その針は八時二十分をさしている。

(あれ?確か入学式の時間、八時四十分じゃ…)

 そう思った瞬間、彼は、顔を、青ざめて…

「遅刻だあぁぁぁ!」

 自分の寝床から飛び出し、壁に掛かっている、まだ真新しい学生服に着替える―――因みにブレザーだ。

「くそ、なんであいつら起こしてくれなかったんだ!」

 向かうのは朝食があるはずのリビング。そこで最初に見たのは…

〈何度言っても起きなかったから、そっとしといた。もし、入学式前に起きられたら、バイク使ってもいいよ。〉

と書かれたメモと、ラップされた昨日の残り物、カレーライス。バイクのキーも隣に置いてある。

「よっし、いただきます!バイクさえあれば間に合うぜ!ごちそう様!」

 そういっている間に黒木は、カレーライスを食べ終える。要した時間はたったの十秒だ。急いで自分の鞄を掴むと、バイクのある方へ駆け出した。そして、黒い直方体を取り出した彼は、それに向かって話しかける。

「アル、起きろ!バイクにセットするから、起きてくれ!」

《あいよ~マスター、今、起きたばっかだぜ~》

 返ってきたのは、電子音に似た男の声だった。

「よし、んじゃあ…アル、セット!」

 そういって、バイクのメーターのそばにあるくぼみにそれを差し込む黒木。

《差し込み、確認しました》

「アル、学校までのルートをメットに表示してくれ」

 黒木は、サドルの下から少しごついヘルメットを取り出すと、代わりにそこに鞄を突っ込んだ。そしてバイクにキーを差し込む。

《表示しといたよ。時刻は八時三十分》

「ゲッ、まじかよ!急がねえと!」

 ブロロロロロロロロ…

 ゲートを抜けて学校へとバイクが走り去った。


   ~数分後~


「ふぅ…現在時刻八時三十六分。ぎりぎりだな」

 無事、学校に着いた黒木。学校の表札を確認する。

 〈夜野蝶女学院〉

 まぁ、女学院と言っても、〈元〉が付く。この学校が共学になったのは今年度だ。この四人がこの学校に入学することになった理由、これもまた依頼だった。しかも裏の依頼だ。とは言っても、誰かを殺したりするわけではない。彼らがやっている何でも屋の、常連のお偉いさんから

「せめて高校は静かに行け」

とのお達しがあったのだ。尤も、

「ついでに一人娘を守ってくれ」

とも言われているので、ほんとうに彼等を心配して言っているのかは定かではないが。

(まあ、当面の生活費は稼いだし、確かに静かに暮らしたいな)

 そう考えているうちに到着した駐車場にバイクを泊め、数人の保護者が残るクラス分けの表に目を通す。

「えぇっと、クラスは、っと…あった!」

 一年三組の少ない男子の名前の中に〈黒木〉の文字はあった。他の三人の名前もある。

(ちゃんと同じクラスに集合したか…。ついでに対象人物もチェックしとくか…同じクラスだろうしな…あった、あった)

 黒木は三組の女子の中の〈星里ミヤ〉という名を確認する。前述の某大手会社社長―――おっさんの一人娘だ。その立場故に、命を狙われたりすることも多々ある。

(そろそろみんなは、体育館か…)

 腕時計で現在時刻――八時三八分を確認すると、彼は体育館へその足を向けた。


「狗神霊です。特技は機械いじり。趣味はパソコン。どうぞ、よろしく」

 一年三組の教室では自己紹介が行われていた。自席に戻る霊。後ろの席の主はまだ来ていない。

「はぁ、黒木は何やってるんだ」

「直接、体育館に行ってるんだろ」

「……右に同じ」

 左右の席から返事が返ってくる。座っているのは、フィリス―龍宮滝風と、リトル―小鳥遊静夜。

「まぁ、そうだろうね」

「それじゃあ、みんな、体育館へ向かうぞ。それにしても、いない一人は何をしてるんだ」

『もう、先に、体育館だと思います』

「ん、なんだ、先に行ってるのか、黒木は」

『はい』

 三人の首が同時に縦に動いた。


「ハクション!」

《風邪か、マスター》

「ん~そんなんじゃないな。誰か俺の噂でもしてんのかな」

 黒木は体育館の出入り口で待っていた。霊達の予想は当たっていたようだ。

「お、来た、来た」

 新入生の列に潜り込む黒木。

「おっす、ちゃんと来たぜ」

「遅い!というより、どうやって来た」

「駐車場に止めてある。」

「じゃあ、帰りもバイクで頼むよ」

「オゥケイ~」

 全員が並び終えると、ステージに校長が上っていく。その様子を見ていたのは彼ら四人だけではないだろう。そして、その校長を見て全く同じことを思ったのも、彼ら四人だけではないはずだ。

(ごつ!)

 校長の図体は、明らかに一般人のそれをはるかに凌いでいた。身長は百八十センチメートル程。鎧のような筋肉に、頬には大きな傷がある。校長だと聞かされて、驚かない者はいないであろうその人物が、口を開いた。


「まずは、おめでとう、諸君。私が校長の豪上刃だ。知っている者は知っているだろうな。今年からここに来た。つまり、君たちと同じだということだ。と、いうわけで、よろしく頼む」

 そうとだけ言ってステージを降りる、校長。

「なぁ、霊、あの校長のこと知ってるか」

「えぇっと…あった、あった」

 霊のフェンの画面を覗く黒木。

「なになに……は?」

 校長のプロフィールを見て呆然とする。

「あの校長…おっさんの秘書か」

「それも、何人かいる内のエキスパート。これ、おっさんの差し金だね」

「だな」

「こら、そこ、静かに!」

(いきなり怒られちまった。ん、あれは…)

またステージに誰かが上っていく。

《次は、新入生代表の言葉です》

「――――――今年から共学になり、肩身が狭いかもしれませんが、男子の皆さんも一緒に頑張っていきましょう」

『は~い』

 少ない人数の割に大きな声が、体育館に響く。

「――――――――――――以上で終わります。新入生代表、星里ミヤ」


 その後、入学式は、何事もなく無事に進行していった。


《以上で入学式を終わります。新入生の退場です》

(ふぅ…やっと終わったな)

 体育館を出てため息をつく黒木に、黒い影が忍び寄る…。

   バシン!

「いってぇ~!」

「お前が黒木雅人だな!」

 後頭部の痛みを抑えつつ黒木は、声がした方に振り返る。

「ったく、入学初日から遅刻とは…」

 そこには、黒いスーツに髪を後ろで束ねた女が、キツイ目をして立っていた。

「私は、お前の担任の桐厳だ。これから、よ・ろ・し・く、頼むな」

 口元に笑みを湛えつつ、目はまだ笑っていない。

「初めましてだぜ、センセイ。こちらこそヨロシクな」

 まだ痛む頭をさすりつつ、強気に答える黒木。

「うむ、よろしい。では教室へ行くぞ」

「ラジャー!」

 大股で進む桐厳の後を、四人は歩いていった。




「これでHRを終わる。起立、礼!」

『さようなら!』

 高校生活最初の一日が終わり、下校していく生徒たち。狗神達四人も、校門の方へ歩いている。と、何かを思い出したように輪から離れる黒木。

(忘れてた、忘れてたっと……ん?)

 一人駐車場に向かう黒木は、学校の敷地ギリギリのところで、教会のような建物を見つける。

(いや、本当の教会だな)

 無言で教会を見つめる黒木。フェンを取り出し、メールを打ち始める。

〈先に帰っててくれ。教会を見つけた。遅くなるかもしれん。〉

   ピッピピッ

〈オウケィ、早めに帰ってきてね〉

 直ぐに返ってきた霊からの返信には、そう書かれている。

 フェンをしまった黒木の足は、教会へと向けられた。



 そして、教会の前に立った黒木。

「お邪魔しま~すっと」

 教会の中は、ステンドグラスを通した光で輝いていた。奥の方には、巨大な十字架とそれに掛けられたキリストの像がある。中にいるのは、黒木一人だけだ。建物の奥へと歩みを進める黒木。一番前の席に座ると、静かに目を閉じ、手を合わせた。普段は自分の部屋でしていることだが、こういうところに来た時も、欠かさずするようにしている。自分の過去の出来事を忘れないように…。

 ふと、顔を上げ、辺りを見回す黒木。人の気配を感じている。そして、隅のドアの陰に見つけた人影に声をかけた。

「お~い、隠れ切れてねぇぞ」

 いきなり話しかけられて、一瞬身体を震わせたその人物は、しかし、もう隠れることなく、黒木の前に姿を現す。修道服を着こなした黒髪のその女性は、オドオドした様子で、黒木に話しかける。

「あっあなたは誰ですか、こ、ここは、男の子が入ってい、良いところではありませんよ?」

 それが、彼女、〈天城円香〉の最初の台詞だった。




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